クイズ「番組」研究部 ~『それでは問題! ブタの貯金箱の正式名は?』「資本主義のブタ!」『はあっ!?』~

椎名 富比路

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第六問 ウイスキーの専門家のことを、なんと呼ぶ? ~最強のライバル襲来~

雨の中で得た活路

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 ピンク色の傘を差し、嘉穂さんが僕の後を付いてくる。

 結局あの後、大した回答は得られず、解散となった。
 我ながら不甲斐ない。自分の事なのに。
 
「わたし、やっぱりクイズ研に戻るべきなんでしょうか?」

「どうして、そう思ったの?」

 責めているわけではない。引っかかっていたのだ。

「だって、聖城先輩って、互角に戦える人がいなくて、ずっと独りぼっちだったんですよね?」

 これだ。胸のつっかえが取れた。

「わたし、自分が生徒会長に追いつけるなんて思ってるわけじゃ、ないんです。多分、何年かかっても、私は会長に追いつけないと思います。ただ、強すぎるのって、独りぼっちなんだなって思いました。可哀想なんだな、って」

 みんな笑顔になってもらいたい。

「母は、わたしを守ってくれていました。わたしも、母の支えだったのなら、嬉しく思います。でも、会長には誰がいるのでしょう?」
 
 こう考える人なんだ。嘉穂さんは。

「嘉穂さんは、どうしたいの?」

 僕は振り返る。

「わたしは、みなさんと一緒にいたいです。番組研から離れるなんて、できない」

 段々と声が大きくなっていく。

「僕も同じ意見だよ。多分、みんなも」
「けど、聖城先輩と互角に戦いたい、って自分もいるんです。変ですよね?」
「ちっとも変じゃない。嘉穂さんにだって、闘争本能はあるんだ。血が騒ぐってことはあると思うよ」
 
 ただ、対戦形式が決まってないだけなんだ。
 土俵さえ合えば、きっと嘉穂さんだって聖城先輩に負けない。
 聖城先輩にだって、クイズが楽しくなる方法があるはずなんだ。
 早押し合戦や、知識合戦だけが、クイズであってたまるか。

「嘉穂さん、僕に任せて。きっと聖城先輩に対抗できて、先輩にも楽しんでもらえるスタイルを提供するから」
 
 だが、どうするんだ? 何か策を練らないと。

 考え事をしている僕達を、トラックが猛スピードで駆け抜けていく。
 トラックの進む先には、水たまりが。

「危ない!」

 僕はとっさに車道側に傘を突き出す。自分の身体は防げない。
 仕方なく、嘉穂さんだけを庇う。
 
 トラックが、水たまりを突っ切る。

 大量の水しぶきが、僕の身体にかかった。汚れた水で、体中ビショビショだ。

「福原くん! 大丈夫ですか!?」

 傘を放り出して、嘉穂さんがハンカチを出した。精一杯、泥を拭いてくれる。

 しかし、まったく追いつかない。それでも、拭いてくれる気持ちは嬉しかった。

「私のせいで、こんなにも泥だらけに」

 ぐちゃぐちゃになったハンカチを絞り、尚も僕の身体を拭く。

「いや、いいんだ」

 悪いのはトラックである。僕が勝手に泥を浴びただけだ。
 嘉穂さんの手も泥まみれになっている。

「もういいよ、ありがとう。これ以上やると、嘉穂さんの手が汚れちゃうからさ」

 僕は、嘉穂さんの手を止めさせた。
 掴まれた手首を見ながら、嘉穂さんの目がキョトンとしている。
 まずい。気持ち悪いことをしてしまったか。

「あ、ごめん。嫌だったよね」

 嘉穂さんを不快に思わせたと思い、手を離す。

「いや、そういうわけじゃなくて」

 顔を逸らして、嘉穂さんが困ったような口調で語る。

「本当にゴメン」
「違います。わたし、いつもみんなに助けてもらってるなって、思って」
「そうかな?」
「そうです」

 ずぶ濡れになっているのも忘れて、嘉穂さんは続けた。

「私、みんなと違って自己主張も下手だし、自分が思っていることだって満足に言えない。今だって、福原君に守ってもらって、私、何もお返しできない。大事な人を泥だらけにしているのに、何もしてあげられない」

 悲痛な言葉を、嘉穂さんが言う。

 そうじゃないんだ。みんな好きでやっているんだ。

「それは違うよ。嘉穂さんがいなくても、番組研は回るかも知れない。けれど、それはもう番組研じゃないんだ」

 嘉穂さんはそれくらい、僕たちの一部になっているから。

「泥んこになってでも、僕は、嘉穂さんを失いたくないんだ。だから――」


 泥。進んで泥に入る……。


「これだ!」

 僕の脳裏に、とあるクイズ形式が浮かんだ。

「ありがとう、嘉穂さん! おかげで面白いクイズが浮かんだよ! これはきっと、楽しいクイズになる! のんだってきっと活躍できる!」
「本当ですか?」
「ただ、ちょっとばかり姉さんの協力が必要だ。大がかりな設備が必要だから、できるかどうか相談しないと。やなせ姉が味方にいるから、なんとかなるかも」

 姉の名が出て、嘉穂さんはビクッとくらい反応するかと思った。
 しかし、嘉穂さんは怯えない。

「本当に楽しいクイズになるなら、平気です」

「うん。きっと面白くなる。聖城先輩だって、楽しんでくれるはずだ。だから、僕を信じてくれないか?」

 一瞬、嘉穂さんは不安そうな顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻す。

「わかりました。よろしくお願いします」

 帰宅後、姉の昌子に連絡をして、設備面を相談することに。

「アホか」と言われたが、話は聞いてくれた。

 予算度外視の作戦である。
 が、番組の存続に関わると説得すると、協力してくれることになった。


 数日後。


 期末テストが終わり、とりあえず、聖城先輩と対決する日取りが決まった。
 試験休み初日は、簡単な練習だけを終わらせた。

「じゃあ、今日の練習はここまでだね」
「あの、皆さんに話したいことがあります」

 嘉穂さんが言い出す。
 帰り支度をしていた全員の手が止まり、また座り込む。

「どうしたの嘉穂ちゃん。急に?」

 心配になってか、やなせ姉が嘉穂さんに寄り添う。

「湊さん、のんさん、やなせ先輩。ありがとうございます」

 僕に向き直って、嘉穂さんは礼をする。

「晶太君、みんなと引き合わせてくれて、ほんとうにありがとうございます。クイズが面白いと思わせてくれたのは、間違いなく福原君です」

 それは違う。
 クイズを何よりも楽しんでいるのは、みんなだ。

 僕は、みんなの喜ぶ顔が見たいから、その手伝いをしているだけ。

 だから次の戦いは、聖城先輩にも、この笑顔に混ざってもらう。

(第六章 完)
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