おっさんとJKが、路地裏の大衆食堂で食べるだけ

椎名 富比路

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第一章 寄り道と大衆食堂とJK

第7話 甘いものは本当に別腹か問題

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「うっひょーっ! いただきまーす!」
 まるで子どものように、琴子ことこがカツサンドにむしゃぶりつく。
 手が汚れることすら気にせず、口いっぱいに詰め込んんだ。

「今日は、ホットケーキで」
 孝明こうめいは、夜のナポリタンに備え、軽めな食事を頼む。

 ホットケーキのハチミツは少量で抑える。ドバッとかけると甘すぎて食べられない。

「そっちもいいね!」
 口をソースまみれにして、琴子は孝明のホットケーキを、うらやましそうに眺める。
 厳密には、ホットケーキに添えられているバニラアイスに。

「アイス食べるの?」


「こうするんだよ」
 孝明は、アイスをホットコーヒーに落とし込んだ。


「おー、コーヒーフロート?」
「正解だ」

 ブラックコーヒーと、バニラのアイスを混ぜ合わせ、喉を潤す。

「子どものころ、大好きだったんだよ。これ」


 その頃よく、デパートに向かう親について行ったものだ。
 ショッピングが目的ではない。
 お目当ては、レストランでランチを取ることで。
 孝明は決まって、ホットケーキとアイスコーヒーフロートを頼んだ。


 昨日実家に電話を掛けて、思い出してしまった。

 当時を振り返りながら、孝明はフロートの懐かしさに浸る。

 元気よく、琴子が手をあげた。
「おじさんクリームソーダ!」

 琴子がオーダーをすると、大将がすぐにメロソーダを用意する。

 ワイングラスに、緑色の炭酸が目一杯の氷と共に注がれていた。
 メロンソーダの海には、バニラアイスの島が浮かぶ。

「ありがと。いただきます!」
 琴子はストローで豪快に、メロンソーダを吸い込んでいく。

「よく入るな」


「甘いものは別腹ってね」
 パフェ用の細長いスプーンで、琴子はちょっとずつ、アイスの島を崩す。


「コメくんって、どんな子だったの?」
「普通だ。ゲーム好きのハナタレだったよ」
「でも、イイ感じの会社に勤めてるんでしょ。すごいじゃん」
「すごくねえよ」


 あの当時は、がんばればがんばるだけ、見返りが来るんだと思っていた。
 しかし、大きくなるにつれて現実を知ることに。

 報われない人たちの、なんと多いことか。

 世の理不尽を呪い、孝明はサボリーマンの道を選んだ。

「何を言ってるの? コメくんはすごいよ。こうして朝と夜に、食堂でごはん食べるんでしょ?」

「それの何がすげえんだよ?」



「だってさ、そのお金を稼ぐだけでも、ほとんどの人はヒーヒー言ってるはずだよ」



 今まで全く意識していなかった。琴子に言われて、始めて気づかされた気がする。


「そう、だな」


「どうしたん、コメくん?」
 心配させてしまったのか、琴子が孝明の顔を覗き込む。

「いや、なんでもない。ありがとな」

 コーヒーを口へ運ぶ手が、震えていた。琴子の言葉を肯定していいのかどうか、脳が判断できない。


 それだけ、衝撃的だったのだ。


 こんな簡単なこと一つ、肯定できない頭になっていたなんて。


「オマエはどうだったんだよ、コトコト」
 自分だけ語らされ、フェアじゃないと思った孝明は、意地悪な質問をぶつけた。
 照れ隠しもある。


「あたしはいいじゃん。今も子どもだし」
 その手には載らぬと踏んでか、琴子は取り合わない。

「だな。クリームソーダ大好きだしな」
 あえて挑発する。

「うん。それでいいよ」

 意外と素直に、琴子は引き下がった。てっきり怒ると思ったのだが。

 本気で、琴子は過去に触れて欲しくないようだ。


「悪かった」


「あっ、いいっていいって全然全然!」
 無理に笑顔を作り、琴子はいそいそ登校の用意を始める。



「じゃあ、ごちそうさま!」
 まるで取り繕うかのように、琴子は学校へと向かった。
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