おっさんとJKが、路地裏の大衆食堂で食べるだけ

椎名 富比路

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第五章 再会と恋の始まりとJK

第80話 末期の水は間に合わない問題

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 あれから数日の後、米田家の厚意により、孝明たちは大将の線香をあげさせてもらえた。
 遺灰は、長男の家に保管されている。

「末期ガンだったんです」

 最近になってガンが見つかった。看てもらったときには、もう手遅れだったらしい。

 遺影の写真は、相変わらずの仏頂面だ。もっとにこやかな絵はなかったのだろうか。
 たとえば、先日自分たちに見せてくれたような。

 大将のことだ。きっとカメラを向けたら不機嫌になったに違いない。

 長男の家には、好美も来ていた。祖父の死を悲しみ、琴子の胸の中で嗚咽を漏らす。

「通院が長引いたりして、我々も心配していたのです。けれど、『店に立っていると、頑張れる気がするんだ』と聞かなくて」

 入退院を繰り返しつつ、大将は店を守っていた。
 誰に気を遣うでもない、美食を追求するでもない、誰でも気軽に食事を楽しめる場を。

 この日も、孝明たちが来店するのを待ち、仕込みをしようとしていたところだったらしいい。

 オーナー夫婦が店の前で倒れている大将を見つけ、救急車を呼んだ。
 だが、その時には既に息をしていなかったらしい。

「連絡したかったんですが、琴子ちゃんにまで心配をかけさせたくなくて。でも、そのせいで死に目に合わせられませんでした。ごめんなさい」

「いいよ。好美ちゃんのせいじゃないから」
 琴子が、好美の頭を撫でた。

「オレたちの、せいなんでしょうか? オレたちがこの店に通っていたせいで、大将の負担に」
「とんでもございません」

 大将の長男が、大きく首を振る。

「父にとって、お二方は生きる希望だったと思います。お二方がいらっしゃったからこそ、父は生きていられたのだと思います」

 この上なく、感謝をされた。

 孝明たちとの日々は、大将の生きがいだったのだと。

 普通の料理人として死んでいくしかなかった男にとって、二人は最後の客だったのである。

 だが、自分たちは、最後の最後で、大将に何もしてあげられなかった。

「店は、どうなるのでしょうか?」

 二人にとっての思い出が詰まった場所であり、大将との繋がりがあった場所だ。

「どなたかに譲ろうかと」

 人から借りていた店舗である。それが筋だ。

 しかし、孝明には納得できない。それは、琴子だって同じだった。

「あの、一日だけ、貸していただけませんか?」

 無理を承知で、お願いをしてみる。

 大将の長男は、首をかしげていたが、「大切に使ってくれるなら」と承諾してくれた。

「父の店の鍵です。私物や貴重品などはこちらで持ち帰りましたから、あとはご自由にどうぞ」
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