おっさんとJKが、路地裏の大衆食堂で食べるだけ

椎名 富比路

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第五章 再会と恋の始まりとJK

第79話 人の家のギョーザ、食べられるか問題

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 後日、大将の店に寄って、ハヤシライスを二つもらう。

「あー、楽しかったぁ」
 ハヤシライスを食べながら、琴子が笑う。

「だな。なんか、スッキリした」
「タンシチューのまかないハヤシライス、食べそびれちゃったもんねー」


「でも、オレはクビだろうな。あの評論家ヤロウ、ムダに力があるし」
 孝明は頭を抱えた。

 いちライターを辞職に追い込むくらい、彼はしてくるはずだ。
 彼は怒ると、それくらいはする人間である。 

「その心配はねえよ」
 なぜか、事情を知っている風な口ぶりで、大将は語った。



「あのタンシチューな、俺が考案したんだ」



「え、マジか」
「本当だ。さっき評論家の入ってる芸能事務所から連絡があって、俺に謝罪するってよ。そいつも辞めさせるって」 

 孝明と琴子の二人がデートの最後に入った店こそ、大将こと米田友禅の運営していたレストラン、その系列だったのである。

 グルメライターでありながら、まったく知らなかった。

「あそこ、大将の店だったのか」
「そうだ。昔な、お年寄りが小学生の孫を連れて、うちに食いに来たんだ。スペアリブを噛めねえっていうから、タンシチューを出したんだよ」

 シチューだけだと腹は膨れないだろうと、大将がライスと一緒に出したのが始まりだという。

「それが受けに受けてよぉ。ただのまかないだったのに」

 今でもその孫は、店の常連なんだとか。
 もう立派な大人で、企業のトップに立っているらしい。

「その人が速攻で番組に、抗議の電話をしたんだってよ。『私と祖父との思い出が詰まった料理を貶すとは、何事か!』ってさ。女優さんが出てる映画のスポンサーだったらしい」

 悪いことをすると、必ず天は見ていると言うが、こんな偶然があるとは。

「女優さんにお礼を言って帰って行ったって、息子が言ってたよ」
「息子だって?」

「あのシェフな、俺の長男だ。礼を言っていたぜ。うまくあのいけ好かねえヤロウを追い払ってくれたってよ」

 珍しく、大将がニッと笑う。

 そういえば、このハヤシライスの味は、あの店の味によく似ている。
 凝った味付けではないが、ベースはどちらもしっかりと整っていた。

「迷惑掛けてすんませんって、今度謝りに行くよ」
「いいってことよ。じゃあ、ハヤシライスは俺のおごりだ」

「やったー」と、琴子は諸手を挙げて喜んだ。

「今度、リクエストに応えてやるよ。メニューにないものでも作るぜ」

 ありがたい話だ。

「何を食おうか?」
「ギョーザ! なんか中華を下品に食べたい!」

 先日、気を遣って食事していた反動か、ガッツリしたモノが欲しくなっていた。

「人の家のギョーザってクセがあるよね」

 妙に辛かったり、味付けがクドかったりする。

「大将が作るなら、問題ないだろ」
「だよね! おじさん、ギョーザが欲しいな」
 大将は、琴子のリクエストにうなずく。 

「分かった。明日また来いよ。作ってやる」
「ありがとう大将、ごちそうさま」
「おう、いつでも来てくれ」


 大将の笑みを手土産に、孝明たちは店を後にする。

 



 翌日の夕方、店の前には救急車が止まっていた。


 一人の男性が、こちらに会釈をしてくる。

 彼は、大将の長男だったか。

 反射的に、孝明たちも頭を下げる。

「父のお客様でしたか?」
「は、はい」

「最期まで、父の料理を楽しんでくれて、ありがとうございました」


 一瞬、何を言われたか分からなかった。思考が、事実に追いつかない。


「父が、米田 友膳ゆうぜんが亡くなりました」
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