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第五章 再会と恋の始まりとJK

第78話 どこで食うかより、誰と食うか問題

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「好みは人それぞれだ。シチューにライスを足さねばならないってわけじゃない。でも、うまいって言っている人の前で、マズイというのはおかしくないか?」

 それでは、支持者まで侮辱することと同じだ。

「少なくとも、オレはうまいと思った。ここにいるお客さんも、この店の料理がおいしいから足を運んでるんだ。この味を待ってるんだ」

 美食が欲しいなら、よそでもいい。店の雰囲気が好きという人もいるだろう。
 好きな人と食べるなら、カップ麺でも大衆食堂だって構わない。 



「どれを食べるかじゃない。誰と食うかでしょ? オレはあんたとは食いたくないね」



「なんだと、エラそうに!」
 評論家が、口を拭いたフキンをテーブルに叩き付ける。

「周りを見てみな」

 テーブルに座る誰もが、評論家を遠ざけようとする視線を送っていた。


「ふん、せいぜいマズイ料理で楽しむんだな!」
 捨て台詞を吐き、この店に最も相応しくない客は去って行く。
 自分が拒絶されていることが分かったのだろう。

 あとは、客を落ち着かせるだけだが。
 いくらなんでも、目立ちすぎた。孝明は、顔を引きつらせる。

 おもむろに、実栗真琴が席を立つ。


「皆様、お騒がせ致しました。ごゆっくり、料理を楽しんでください」
 
 孝明が言うべき台詞を、真琴が引き受けてくれた。

 真琴の視線が、琴子に向けられる。
 戸惑っていた琴子の頬が、緩む。

「おい、あの子、かわいいな」
 カメラマンの一人が、琴子に気づいた。

「それにしても、実栗さんにそっくりだな?」
「実栗 真琴には隠し子がいるって、聞いたことがあるぞ」

 琴子にカメラを向けようと、クルーがザワつき出す。
 新しいネタに飢えたカメラマンたちが、琴子に照準を合わせようとする。
 今にも、琴子にフラッシュがたかれそうになった。

 二人が一番望んでいなかったことなのに。

 孝明は上着を掴む。
「コトコト、逃げるぞ」
 琴子の腕を引き、無理矢理立たせた。

「まだ食べ終わってないよ!」
「いいから。お邪魔しましたーっ!」

 本当は、母娘水入らずで一緒に食べさせてやりたい。
 だが、二人はそれができない環境にいる。

 今は去ろう。いつか二人が安心して食卓を囲めるその日まで。

「すんません。迷惑料は事務所に請求を」
 ウエイターの隣に立つシェフに、名刺を渡した。

「結構でございます。お気を付けて」と、シェフは言葉を返す。

 孝明はシェフに、「ありがとうございます」と告げた。すぐに、店を出ようとする。

「あの!」
 実栗真琴が立ち上がった。
「ありがとう」
 短く挨拶をして、琴子に微笑みかける。

 琴子の方も、笑顔で返した。

「さて、先生なしで取り直しちゃいましょう。がんばっちゃいますよー」
 ガッツポーズを取って実栗真琴は座り直す。

 大女優からの取り直し要求とあれば、カメラマンたちも従わざるを得ない。
 主役はあくまでも、番宣で来日している彼女なのだから。

 実栗真琴がウインクで、孝明たちを送り出す。
 そのスキに、逃げさせてもらった。
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