インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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その3 ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス

第8話 カレーライス

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 放課後、オレは伯爵を食堂へ呼んでもらった。

「わが領土の野菜を、検討してくださったのでしょうか?」

「いえ。お嬢さんがなにをお召し上がりになっているか、味見をしていただきたく」

「ほほう」

 伯爵は、やや難しい顔をした。下賤の者が作ったメシは、口に合わないぞと顔が語っている。

 どちらかというと、隣に座るメイド長とやらの表情があからさまだが。

「まあ、一口お召し上がりください。お代は、結構ですので」

 デボラが、伯爵のテーブルにカレーライスを置く。

「恐縮です。蔵小路クラコウジのご令嬢に、お給仕をしていただけるとは」

「今日は、楽しんでくださいませ」

 ワイングラスに、デボラが水をそっと注いだ。
 プリティカのテーブルには、オレがカレーを用意する。

「なんでお前さんまで」

「おなかすいたもーん」とVサインをしながら、プリティカはニコリと笑う。

「プリティカ様、庶民的すぎる料理に触れられては、貴族としてのメンツが」

「メンツより味を取ろうよー。もうそんな時代じゃないんだってー。理屈抜きでおいしいから、みんなで食べよー」

 渋っているメイドに対して、プリティカはスプーンを持つように促す。

「たしかに、くっ。この風味は、食欲をそそります。ですが、こんな没個性なカレーライスに、心を動かされるとは」

 ああ、揺らいでる揺らいでる。あれだけ偏見の塊だったメイドが、瓦解寸前だ。

「まあひとまず、いただくとしよう。ではイクタ殿、いただきます」

 二人が、カレーを口にした。

 遅れて、プリティカもカレーライスをはむっと食べる。他の二人の反応を見つつ。

「あ、これうんま!」

 まずは、メイド長がスプーンを口と往復させる。

「本当だ。見事な。濃厚ながら、馴染みが深い。この米と合わさって、最強ではないか。野菜も一部、解けて混ざっている」

 伯爵は言葉に出さないが、空になった皿がすべてを物語っていた。

「みなさんの故郷でもカレーは、お召し上がりになるとか」

「妻の実家では、スープ状のルーに、パンを付けて食べるのです」

 米でも食べるが、サフランライスだという。

「こちらはそれとは趣が違うが、なんという」

「奥様のカレーとは、比較にもならないでしょうか」

「どうなんでしょうね。もう、亡くなりましたから」

「……申し訳ありません」

 オレが非礼を詫びると、伯爵は「お気になさらず」と言ってくれた。

「カレーは、ダークエルフの伝統料理だそうで」

 スパイスの商談のために訪れたカレー専門店で、プリティカの母親と出会ったという。

「当時の私は、まだ魔王になりたてのヤンチャで。しかしそんな相手に、彼女はどの妃よりも優しかった」

 どちらもまだ若く、一緒に馬でツーリングした仲だったそうだ。

「作ってくれたカレーが、実に美味で」

 そこから逢瀬を重ね、プリティカが生まれたという。

「ですが病に倒れて、そのまま」

 伯爵が目を腫らし、鼻をすすった。

「私は、奥様の弟子だったのです」

 メイド長も、泣き崩れる。

「でもプリティカさんは、イクタのカレーが好きなんですわね?」

「うん。ママが作ってくれた味と近いんだー。市販のルーを、使っていたらしいんだけど」

 それだったら、と、オレはルーの空箱を用意した。店で売っているタイプを、業務用にデカくしたものだ。子どもでも見た目がわかりやすいパッケージで、人気がある。

「これか?」

「そう! リンゴとハチミツが入ってる、ってやつー。だから、味が近かったんだー」

 まさかプリティカの母親と、こんな形で接点ができるとは。

「なんとも、愉快ですなあ。亡き妻と、このような姿で再会するとは」

「まったくです」

「ごちそうになりました。ありがとう」

 立ち上がった伯爵が、手を差し伸べてきた。

「こちらこそ」

 伯爵と握手を交わす。

「娘は元気そうなので、余計なマネはしないでおきましょう。妻が見守っているんだ。ルーに溶け込んで」

「そうですね。毎日出会えます」

 オレがカレーを作る限り。 
 


 
 翌日、プリティカがまたカレーを食いに来た。

「オヤジさんとは仲直りしたか?」

「うん。イクタおじのおかげー」

 プリティカはそう言ってくれたが、オレは首を振る。

「そりゃあよかった。でもオレの力じゃねえな。カレーの力だ」

「そうかな?」

「カレーは、なんでも溶かしてくれるからな」

 鍋の中では、野菜も肉の一部も溶け込んでいるものだ。それが絶妙なバランスで混ざり合って、人の口に入っていく。こんな偉大な料理だからこそ、長年愛されている。

「イクタおじ、ウチと同じ考えだったんだね? これって運命かな?」

 なんだ? ヤバイ雰囲気になってきたぞ。

「おじはー、ウチのダーリンになる気はない?」

「ちょっとプリティカさん! いくらなんでも、抜け駆けはよろしくありませんわ」

 皿洗いをしていたデボラが、プリティカに食ってかかる。

「デボラちゃんの、お邪魔はしないよー。ちょっと借りるだけー」

「まあ、ふしだらな! そんな不純な行為、許せませんわ!」

 ヌヌヌ、と、デボラがエプロンの裾をたくしあげて噛みしめた。

 こいつらもカレーのように、仲良く混ざり合ってくれたらいいのに。

(ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス おしまい)
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