インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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その4 図書館登校生と、モーニング

第11話 ポンコツ賢者のやり直し

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 パァイが現役だった頃の時代は、魔法は口伝などの方法で学習するしかなかった。専門外の分野も多い。

「そこで、この図書館を借りておるわけよ。ここは禁書も多数揃っておる。その管理をやってやるから、吾輩をこの図書館に住まわせよ、と学長と契約したのじゃ」

 しゃべりながら、パァイはホットドッグにマスタードをドバドバとかける。

「学長とは、ご友人同士ですのね?」

「なにをいうとるか。あやつは、吾輩の弟子よ」

「え、学長がパァイヴィッキ様のお弟子様!」

 脳がバグるよなあ。校長先生のほうが生徒より年下で、しかも弟子だとは。

「しかし、どうして学生に? あなたほどの実力者でしたら、ここの職員として」

「面が割れたら、色々質問されて吾輩が学べぬ!」

 賢者様ともなると、先生が聞きに来ることが多い。

「パァイは、人に教えるのが苦手なのだ」

 なんたって、フィーリングで魔法を覚えていた年代だから。

「そんな。確証がありませんわ!」

「あるんだ、それが。ソースは、こいつだ」

 オレは本棚から、一冊の本を取り出す。さっきオレがディスった、『ゼロから始められる錬金術』を。

「それ、何世代に渡って語り継がれている、奇書ですわね。魔法科学園三大奇書とも呼ばれておりますわ!」

「その奇書の著者が、コイツだ」

 オレが説明をすると、デボラが固まった。

「バカな! だってこれ、名前が全然違いますわ!」

「編集に変えられたんだ」

 あまりにも悪書過ぎて、著者名すら登録させてもらえなかったという。

「うむ……凡人にもわかりやすく、錬金術のイロハを詰め込んだはずなんじゃが。『タイトルがダセえっすねえ。これじゃ、サギ広告っすよ』と、編集にも苦言を呈されたぞい」

 なので、パァイは人にレクチャーするのをあきらめたそうだ。

「そんな人のお弟子様が、学長にまで上り詰めるなんて」

「コイツを反面教師にして、ちゃんと魔法を教えようってなったらしい」

「すごく、理解できましたわ……」

 かくしてそんな経緯があり、生徒に扮してパァイは勉強をやり直すことにした。 
 さすがにこれはイカンと思ったようである。

「毎回擬態して、生徒に変装して、ただの一生徒として扱ってもらっておるのじゃ。一部の人間にしか、正体を知らぬ」

 三年経ったら別の顔になって、この学校に入り直すのだ。

「おかげで、イクタの学食も堪能し放題というわけじゃよ。あむ」

 マスタードが垂れないように、パァイは下から顔をのぞいてホットドッグを食らった。

「かなり重宝しておる。特に、イクタの手料理はうまい。ニホン人と言うだけあって、食へのこだわりが強く、かつこちらの舌に味を合わせてくれる。こんな器用な者は、そうおらなんだ」

「賢者に言われたら、恐縮だな」



「ここでは、ただの学生ぞ。しかし、話の合う者がおらんというのは、やや寂しいのう」

 パァイが、ポテサラをモゴモゴする。

「賢者だからな」

 とはいえ、同レベルの話ができないのは孤独を感じるのだろう。

「たまに余興で、修学旅行なども参加するのじゃ。この間は、ドラゴンの住まう岩山じゃった」

 あそこか。温泉たまごがめちゃウマいんだよな。

「しかし、そこのドラゴンの中に顔見知りがおったんじゃ。危うく、身バレするところじゃったわい」

 コーヒーのおかわりを飲みながら、パァイがガハハと笑う。

「すごく貴重なお話のはずなのに、内容がえらく庶民的ですわ」

 賢者なんて、そんなもんだ。

「この図書館を利用する生徒も、少ない」

「今は、魔法だってスマホだもんな」

 この世界では、魔法の使用に電子書籍デバイスを利用している。重たい魔導書を持ち歩くのは、もはやファッションの領域でしかない。

「図鑑はさすがに実物でないと読みづらいが、簡単な魔法ならスマホでポポポーンだもんな」

「吾輩としては、静かで居心地がよい。しかし、本がかわいそうじゃのうと思うてなぁ」

 本棚に、さみしげな視線を送る。

「なるほど。事情はわかりましたわ。イクタの思惑が、なんとなくわかりましたわ」

「どういうこった?」

 オレは特に、他意はないんだが?

「パァイヴィッキ様は、お友だちを欲しがっておられるのでしょう?」

「なぜ、そういう話になるんじゃ?」

「隠さずとも、わかりますわ。ではパァイ様、お友だちになりましょう。ひとまず、連絡先交換から」

「う、うむ」

 デボラに続いて、パァイもスマホを差し出す。第一世代のもので、一切機種変もしていない。

「学長に言われて買ったものの、使わぬと思うておったわい。が、さすがに動作が遅すぎるのう」

「では、機種変から覚えましょう」

「ふ、ふむ。これで吾輩も、『でじたるねいてぃぶ』とやらになれそうじゃ」

 悪戦苦闘しつつも、どうにかパァイは連絡先交換ができた模様だ。

「では、下がってよい。足止めして、悪かったのう」

「とんでもございません。では、今後ともよろしく。では」

 さすがに、もう朝のHRに出席しなければ。

「よい。ちんからほいっと」

 デボラの前で、パァイが指先をクルッと回す。

「わわ!」

 驚いた状態のデボラが、パッと消えた。

「教室まで転送してやったわい。これで遅刻は免れよう」

「だが、ちょっとまずいんじゃないか。あいつまだエプロン取ってねえ」

「……あっ」


                                      ~*~
 

 突如教室に現れたデボラの姿を見て、生徒が黄色い声を上げる。

「きゃー。デボラちゃん今日の衣装かわいいー」

 クラスメイトのプリティカが、ぎゅーっと抱きついてきた。

「お待ちになって! これには深いわけがありましてーっ!」



 その日、デボラのクラスにて、文化祭の出し物が『メイド喫茶』に決まったという。

  (モーニング編 おしまい)
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