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第5話 おさななじみ襲来で、どうしよう!

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 セーナさんが、アキホさんの前で正座をする。

「はじめまして。セーナといいます」
「ご丁寧に。ユキヤの姉で、アキホです。よろしく」

 アキホ姉さんも、セーナさんにならう。

「事情を教えてくれるかしら? セーナさんが私と顔がそっくりな理由を」

 そうなのだ。

 ボクは、アキホ姉さんをモデルに、セーナさんを作ったのである。

「お前の初恋の相手が姉なのは知っていたが、ここまでこじらせたかと思って」
「仕方ないじゃん。かわいい女子のイメージが、アキホさんくらいだったからさ」

 小声で、ボクたちは語り合う。

「なんの話?」
「いえ。こっちだけの話だよ」

 ボクとユキヤは、肩を抱き合いながら苦笑いした。

「で、どこからいらしたの?」
「わたし、記憶がないのです」
「ほほう」
「自分が何者かわからず、駅前でボーッとしていまして。車にひかれそうになったところを、ノゾムさんに助けていただいたのです」

 苦し紛れに、セーナさんがウソの話をでっち上げる。

 しかし、あそこの交通量が多いのは本当だ。

「このハンバーグは? とってもおいしそう」
「自分がある程度の家事ができることだけは、思い出せたのです」
「なるほど。ノゾムくんが役に立ったわけね?」
「はい、そんなところです! ノゾムさんには感謝しかなく」

 アキホさんが、コクコクとセーナさんの話を聞く。

「ノゾムくん」

 真顔になったアキホさんが、ボクをじっと見つめた。

 やはり、人間ではないとバレてしまったか。
 無理ないよね。できすぎているから。

「あなたエライわ!」
「え?」
「身寄りのない人を、自分の稼ぎも顧みずに助けるなんて、そうめったにできることじゃないの! 大変だったでしょ?」

 次にアキホさんは、セーナさんの方へ。

「私、この辺に勤めているの。ノゾムくんのお世話も、ご両親から頼まれているわ。本人は大丈夫って言っていたんだけれど、なるほど。彼女がいたってわけね!」

 変なストーリーを、頭で作っているらしい。
 アキホさんは、自分の中でなにか納得していた。

「私も頼ってちょうだい! お料理もお掃除も全部教えてあげるわ!」
「ありがとうございます。助かります」
「じゃあ、お夕飯の用意をしましょう」

 白菜やしいたけをマイバッグから出して、二人で洗い始めた。

「今夜はお鍋なんだけど、他人とお箸を突き合うのは苦手さん?」
「平気です。ありがとうございます」
「いいのよ。交流を深めるにはお鍋が一番よね」

 その夜は、みんなでキムチ鍋になった。
 大人数で食べるなら、鍋だろう。

 コンパをする予定だったユキヤも、強制的に参加させられた。

 今日は乗り切ったが、明日はどうするか。

 と思っていると、電話がかかってきた。

「はい。ああ、父さん? うん。うん……なんだって!? ウヘボ!」

 口の中の鶏肉が、気管に。

 明日、両親が様子を見に来るとか言ってきたんだが!?
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