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第二章 発足、百合テロ同好会

百合テロ部 活動開始!

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 残った物資はもう少しだったので、ソフィたちには掃除を頼んだ。

「最後の備品、運び終わったぞ」
 作業を終えたオレは、部屋に戻った。

「お疲れさま」
 雑巾で窓を拭いていたソフィが、手を止める。アイスカフェオレを淹れてくれた。

「ありがとう。おお、ようやく部室ぽくなったな」
 カフェオレで身体の熱を冷ましながら、部室を一望する。

 感無量だ。自分の城を持つというのは、こんな感じなのだろうか。

「片付けたのに、随分と狭いな。だが、これでもゼイタクか」

 コーヒーセットを置くだけでも、十分に場所を取ってしまう。

「狭いくらいが丁度いいわ。空き教室だと、だだっ広くて気を使うし」
「この近い距離感が、なんともいえませんわ」

 ソフィとツンディーリアが、窓枠に添えた手を取り合った。
 他の部員から見えないように。

 夕焼けに照らされて、実に尊い。

 いかん。ついんずに感づかれてしまう。

 咳払いをして、双子の注意をオレに向けさせる。

「どうした? カゼか?」
「いや。やけにホコリっぽいからな」
「そうか。掃除が行き届いてなかったのかもな。悪い悪い」
「オレも手伝おう」

 雑巾を借りて、一緒に拭き作業を始めた。

「よし。今度こそ準備完了だな」

 全員で拍手をする。 

「改めて、余が部長のユリアンだ。よろしく頼む」

 パチパチ、とささやかな拍手が送られた。

 続いてソフィ、ツンディーリア、トーモスと妹のイモーティフの順に、自己紹介を終える。

「えっと、ウチがメイディアや。よろしゅう。部活動やけど、火を扱うときだけ立ち会うさかい。それ以外は好きにしてや。火はアカンからな! それだけ守ってな」
 最後に、メイディアが念を押す。

「で、何をするんや?」

「表向きは、飯テロ同好会だからな」

 とにかく、メイ改めメイディア先生が入ってくれたおかげで、百合テロ部が活動を始められる。
 同好会でいいと思っていたが、部にまで昇格できるとは。「モグモグついんず」には感謝しかない。

 また、思いのほか濃いメンツが揃った。

 これなら、新規で入ってこようとする生徒もいないだろう。
 事実、ツンディーリアの取り巻きは一人も入部していない。

「お菓子をお持ちしました。みなさんでどうぞ」
 アイテムボックスから、ツンディーリアが焼き菓子を出す。

「ウワオ! いただきます!」

 ツンディーリアが包みを開けると、早速ついんずが食いついた。

「これはウマイ!」
「サクサク!」

 食べるのかしゃべるのか、どちらかにして欲しい。

「でも、失敗しまして。焼きすぎたのです」
「いや、これはこのくらいがいいわね。焦げてる方が香ばしくなって、おいしいわ」

 うむ。ソフィの言うとおりだ。ツンディーリアは、望みが高すぎるのだ。

「せやな。ウチのクッキーとは味わいが違うけど、初々しくて好きやわ」
「先生も、お料理をなさるので!」

 しまった。
 彼女たちには、こいつがメイディルクスだと教えてないんだ。
 うかつ!

「あ、いや。ウチかて乙女やしな? 浮いた話も多少はあってんよ」
 正体がばれそうになったメイは、架空の恋バナでごまかす。

「当時の殿方のために、腕を振るっていたと。なるほど」

 ソフィは、信じ切っているようだ。よかったな。

「是非、お教えください! どうすれば、素敵なカップケーキを作れるんでしょう?」
「えらい乙女チックなモンを、王子に食べさそうとしてるんやな?」
「おおお王子のハートを射止められる、お菓子ってどんなのでしょうか!?」

 危うく、ツンディーリアの百合趣味がダダ漏れするところだった。

 今日の部活は、お菓子の飯テロになりそうである。

 女子たちは、メイディアを囲んでお料理の手ほどきを受けていた。料理なんて使用人がやるだろうに、まるで花嫁修業の光景である。だが、それがいい。

 オレとトーモスは離れた位置で、その様子を眺める。実に至福のひとときだ。

「尊いな」
「ああ。女子がこんなにも集まっているだけで素晴らしい」

 この部を立ち上げて、本当によかった。

 ソフィらの関係もカモフラージュできているし、言うことナシだな!

 しかし、何か忘れているような気がする。
 辺りを見回して、抜かりがないか確認をした。

「お、そうだ。看板!」
 倉庫の看板が、そのままではないか。

「急いで、百合テロ部の看板を作らねば!」

 備品をまた漁ることになろうとは。

 部室を出ようとするオレの肩を、トーモスが掴んだ。

「待てよ。ここは飯テロ部だぜ。百合テロなんて書いたら、それこそまた生徒会ににらまれるぞ」
「うむ。百合テロの看板は、オレの心の中に!」

 オレは胸をドンと叩く。廊下へと出て、看板を取り外す。

「よし。これでここは飯テロ部だ!」

 トーモスと二人で、拍手をした。

「さて、オレは倉庫の方へこれを取り付けてくる」
「一人で大丈夫か?」
「任せろ。さっきも一人で行ってきた」
「気をつけてな」

 空き教室に向かい、急いで看板を外した。

「あとは、ここに倉庫の看板を……む?」

 なぜだ。魔族の反応が! さっきまでなかったのに!

 魔族の反応を示しているのは、なんと教室の看板を外した跡からではないか!
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