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第三章 魔王襲来! 百合王子のドキドキ試練!

尊き援護

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「怯むな。応戦せよ」
 魔王が再び、モンスターに指令を送った。

 サーベルタイガーの牙が、ツンに襲いかかる。

「ふん! 飛んでいきなさいませ!」

 槍のような大きい牙を、ツンは素手で掴む。
 そのまま、スープレックスで崖に投げ飛ばした。

 二匹目のタイガーは、大きく口を開けた刹那にソフィの剣を食わされる。 

「退け、二人とも。オレのことはいい!」

「いいわけないでしょ!?」
 頭に角を生やさんばかりに、ソフィがオレの無謀を責めた。
「あんたが死んだら、ヴェリエとバルシュミーデとの関係もパーなのよ!」

「そうですわ! パワーバランスが乱れて、魔族に攻め込まれてしまいます。ミケーリなんて、あっという間に魔族側へと寝返ることでしょう!」

 随分と、現金な理由を述べる。

 まあ、それだけが理由じゃないって、わかっているが。
 こんなときに、軽口を言うような二人じゃないってな。

「それにね。あんたがいなくなったら、百合部はどうするのよ!」
「せっかくお作りになったのでしょ? わたくしたちはもっと、イチャイチャしたいです!」

 こんなときに、二人ともなんて尊い表情を……なんて言っている場合じゃない!

「よせ。二人で敵わなかったんだぞ!」

 オレが制止しても、ツンは不敵な笑みを浮かべた。

「確かに。でも、バラバラに攻撃したからですわ」
「束になって掛かったら、どうなるかしら?」

 背中を寄せ合い、ソフィとツンが構える。

「キミたちまで失ったら!」

 オレの言葉を、ソフィはキッと鋭い視線で斬り捨てた。

「死にになんて行かないわっ! 王子もフォローするの!」

 そうかよ。オレも含まれているよな。

「三位一体ですわ! 我々は、全員でチームですもの!」

 ツンが、大砲のエネルギー残量をチェックした。
 しかし、チャージにはまだ至っていない。
 相変わらず、ツンは抜けている。

「ですがこの武器、どうにかなりませんの?」
「そういえば、ツンよ。その大砲だが、グローブ状の持ち手なんだな?」

 引き金を保護するガード部分が、肘を曲げている腕の様に見えたのだ。

「はい。ゴーレムみたいで……ん?」

 試しに、ツンが大砲を分離させてみた。
 引き金のガードだと思っていた部分が、カチッと外れる。

「なるほど、こういうことですね? なにか、使い方がわかってきましたわ!」

 二分割した大砲を、ツンが両の腕・脚にプロテクターのごとくはめ込む。
 大砲と思っていたのは、ヨロイだったらしい。

「やっぱりですわ! これは、こうやって使うのですわね? 王子、助言感謝致します!」
 シャドーボクシングで、ツンは感触を確かめた。

 魔剣を振り回し、魔王ギャルルの方もやる気になったらしい。

「インファイト勝負ですわ、魔王のお嬢さん!」
 一瞬で、ツンは魔王の懐に飛び込む。アッパーカットこそ避けられたものの、相手を驚かせることには成功する。

 内蔵された魔力を、速度に変換したようだ。

 相棒のソフィも、ウルトラレア装備に活路を見いだそうとしているらしい。

「このアーマーは何ができるの? 防御するだけじゃないわよね?」

 ソフィが念じると、アーマーが身体から離れた。

「桜花剣に、アーマーが集まっていく!」

 アーマーが、光線剣を覆う。
 最初からそういう武器だったかのように。

 顕現したのは、羽根の生えた剣である。
 翼をはためかせる様は、まるで生きているような。
 いや、生命を持っているのだ。温かい魔力の波動を感じる。

「これを、魔王に撃ち込めばいいのね? やあ!」
 縦一文字に、ソフィは剣を振るった。

 翼が羽ばたき、魔王へと飛翔する。
 必殺の力を振るっていながら、その姿は浄化の神秘性を漂わせていた。

「があああ!」
 魔王も、本気にならざるを得なかったようだ。魔剣を両手で、支えるように掴んだ。

 翼状の衝撃波と、魔剣とがぶつかり合う。

「なんと、ぎいい!」
 歯を食いしばり、魔王も耐えている。

 一瞬、聖剣の方がギャルルを押す。しかし、甘い。

「そんな!」

 ソフィの全力を掛けた攻撃も、魔王の剣戟によって弾き飛ばされる。

「なんという、威力。しかし、まだ、未熟! 魔王に、傷一つ、付けられぬぅ!」

 魔王も、無傷とは言わない。大きく、肩で息をしている。多少は、消耗しているらしいが。

「無謀なり、バルシュミーデよ。自らの意志で、余の提案を退けるとは」

「貴様の手なんざ借りずとも、人々は百合で幸せになれる!」

 意味が分からないとばかりに、ギャルルは冷たい視線を向けた。
「この光景を見よ」

 オレは、周囲を見渡す。

 未だ、状況は芳しくない。

「人を恐怖によって、縛り上げる。それで済むこと。絶望こそ、人を人たらしめるに相応し――」
「まったくもってナンセンスだなぁ、おい!」

 人が見たら、オレは魔王以上に邪悪な笑みを浮かべていることだろう。

「すべての人間が、恐怖にたやすく屈するとでも思うのか? そんな短絡的思考だから、お前は負けたのだ」

 百合魔法で、迫り来る魔物たちを浄化していく。

 オレには仲間がいる。先生たちも、フォローに回っているのだ。

 だが、生徒全員を守るには荷が重すぎる。動ける数が、少なすぎた。

「こうなったら!」
 無防備のまま、オレは詠唱を始める。

「王子、どうするの?」

「決まっているだろう。頭数を増やすんだ」
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