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第三章 魔王襲来! 百合王子のドキドキ試練!

ギャル魔王の驚異と、百合王子の意地

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「貴様も、見た目はギャルにしか見えんが? 自分は無害ですアピールか?」
「この見た目は動きやすいのだ。潜伏にも役立つ」

 オレの軽口にも、ギャルルは動じない。
 さすが魔王だ。

 オレだって、言葉で相手を翻弄することくらい造作もないのだが。
 
 事実、オレが睨んだだけでモンスターの一部が逃げていく。

「自分で正体を晒しては、無意味だな」

 もっとも、見る人が見たら気配でわかってしまうが。
 メイとか。

「王子、加勢を」
「無用だメイ……ディア先生! 残った生徒を頼む! ここは、オレに任せろ!」

 思わず、メイを呼び捨てしかけた。

 咳払いをして、魔王とにらみ合う。

「よいのか? 偉大なる冒険者の力を借りなくて。余はいつでも相手になってやろうぞ?」
 魔王ギャルルが、手招きをする。

「やけに挑発的だな」

 オレは、突撃しようとするメイを目で制した。

「ふん。腰抜けが」
「その割りには、ホッとした様子だな、おい?」

 クククと、オレは邪悪に笑う。

「安心しただろう、魔王! お前が恐れている冒険者殿は、人命救助で必死だ!」

 ギャルルの眉が、ピクリと動いた。
「その減らず口を二度と聞けなくしてやる。かかれ!」
 オレに差し伸べていた手を引っ込めて、魔王ギャルルが号令を掛ける。

 ガイコツの騎士が、ゾロゾロと押し寄せてきた。
 狙いは、精神を汚染されて立ちすくんでいる生徒たちである。

 トーモスとメイディアが、怯えている生徒たちをカバーに向かう。

「お前らも魔法学校の生徒だろ? 立って戦え!」

 学友たちに向けて、トーモスが呼びかけた。

「あかん。強力な魔力で、精神が押さえ込まれとる!」

 どの人々も、目に覇気がない。
 身体を震わせ、縮こまるばかり。

「大将を倒せばいいのよ!」
 桜花剣を発動させ、ソフィが鬼の形相で魔王に剣を振るう。

「待てソフィ、不用意に近づくな!」

「今動かなくて、誰が魔王を倒すのよ? 覚悟なさい魔王!」
 オレの制止も聞かず、ソフィが魔王ギャルルに剣を打ち込む。

「ぬう、ヴェリエの小娘、強くなっている!」
 最強装備の加護もあって、魔王も攻めあぐねている様子だ。

 とはいえ、相手が相手である。
 ソフィは、軽くいなされていた。
 優等生でさえ、ここまで差があるのか。
 ウルトラレアの装備がなければ、瞬殺されていただろう。

「どきなさいませソフィ。行きます!」
 ツンディーリアが、大砲を腰に構えた。照準を魔王に向ける。

 龍の口を模した発射口が、上下に開く。

 瞬間、「ズウン」という重い音が鳴った。

 広範囲のブレスが、発射口から噴き出す。
 ブレスは、魔王をモンスターもろとも巻き込んだ。

「きゃああ!」
 あまりの勢いに、ツンディーリアの方が吹っ飛んでしまう。
 調整が甘すぎたのだ。

「ツン!」
 身を挺して、ソフィがツンを身体で受け止める。

「大丈夫?」
「ええ! ソフィもよく無事で!」

 モンスターの群れは、あらかた灰になった模様である。

 それ程までの攻撃を受けたにもかかわらず、魔王は焼け野原に一人立っていた。

「ならば……あれ、どうして!?」

 いくらツンディーリアが力を込めても、大砲はさっきのように動かない。

「クールダウン中ですわ。しばらくは使えないようですわね」
「再起動するまで、私から離れないで!」

 円を描くように動きながら、ソフィがツンをカバーする。

 同時に、ツンの方もソフィの背中を守っていた。

 愛する人をかばい合う百合二人の尊さ……いや威圧感に、魔物も近づけないらしい。

 しかし、どうする?
 魔物の数は減っているが、こちらも戦意喪失者が多すぎた。
 戦況は劣勢だ。 

「余を退治した聖女バルシュミーデの小僧よ、おとなしく我が魔王の軍門に降れ。今なら、悪いようにはしないぞ? 兵も下げてやろう」

 確かに、今は押されている。
 引いてくれるのはありがたい。

 とはいえ、それはオレが魔王に屈したらの話だ。

「どうして聖女の血を持つオレが、貴様なんかに従わねばならん?」
「貴様、今の状況が気に食わぬのだろう?」

 鋭いな。オレの境遇を見抜いていたか。

「ミケーリとヴェリエ両名に言い寄られて、貴様は心底ウンザリしている」

 よく調べている。

「だとしたら?」
「余と組めば、両方とも蹴散らせるぞ」
 オレに向けて、魔王が手をかざす。
 蠱惑的な、黒い爪をきらめかせた。

 コイツと手を結んだら、オレの魔力もあの爪のようにどす黒くなってしまうのだろう。

「世界の改革に、余が手を貸してやるというのだ。感謝するがいい」


「ふざけるな。何が改革だ」


 さっきまで笑みを浮かべていた魔王が、真顔になる。

 逆にオレは、奴の提案を鼻で笑った。
「オレの目的は、手を血に染めず、誰の血も流さずに世界を変えるということだ。貴様のような力押しでは、世界を変えることはできても、人の心まで動かすことなどできまい!」

「愚かな。ならば死ぬがよい」
 魔王ギャルルが、手をかざす。

 紫色の砲撃が、オレに襲いかかる。

 ガイコツ剣士たちが、トーモスたちの攻撃をすり抜けてオレに押し寄せてきた。

 前方には闇色の巨大火球、両サイドからガイコツの軍勢だ。
 
 さばききれるか?

 しかし、ファイアーボールは桜色の軌道によって真っ二つに。
 ガイコツ共は、オレの眼前で破壊される。

 オレは、何もしていないのだが?

「王子には、指一本!」
「触れさせません!」

 ソフィとツンが、オレをかばうように立ち塞がる。
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