百合王子! ~嫁候補の美少女二人が裏で付き合っていたが、オレは一向に構わん!~

椎名 富比路

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第三章 魔王襲来! 百合王子のドキドキ試練!

百合王子とギャル魔王

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「見事だ。まさか力押しではなく、精神汚染で倒すとは」
 ボロ冒険者の瘴気が、癒やされていく。

「敵が瘴気の塊なら、浄化するまでだ。オレは汚染された瘴気を洗い流したに過ぎん」

 だが、懸念もあった。
 ここまで実体化すると、現実世界にも影響が出てしまいかねない。

「そんな方法で、我を倒すとはな。てぇ、てぇ……」
 満足げなセリフをつぶやいて、冒険者の幻影は消えていく。

「ん?」

 地面に、さっきのサーベルが突き刺さっていた。

 さっきは戦闘中だったので確認できなかったが、よく見ると柄が白い百合を形取っているではないか。
 まさしく、オレのために用意された武器に思えた。

 柄を手に取る。頭に、武器の名前が浮かんだ。
『聖剣 ディグナティ』
 と呼ぶらしい。

「うむ。これぞまさしく『威厳ティグナティ』だな。白百合の花言葉に相応しい!」
 尊き剣を、天高く掲げた。

 まばゆい光が剣から発せられて、辺りを照らす。

「ぬおっ」
 手で目を押さえた。

 光は一瞬で消える。

 気がつくと、元いた宝物庫に戻っていた。
 鍾乳洞も消えている。 

「みんな帰ってこれましたね! 一時はどうなるかと!」

 ほっとした様子で、ツンディーリアがその場で飛び跳ねた。
 彼女の手には新しい武器が。

「明らかに、メンバーの様子が違うな」

 全員が、何らかの武装を手にしていた。

「わたしは、パワーグローブです」
 力持ちなイモーティファにはうれしいだろう。

「俺のは、ブロードソードだな。幅広なのに軽いぜ。見ろよ、炎まで」

 トーモスが剣を振り回すと、炎の波動が降り注いだ。

「私は装甲ね。左半身を包んでくれて、魔法でカバーまでしてくれるわ」
「見てください。わたくしは大砲ですわ!」

 一気に、世界観が狂った。なにこの近未来?

「その点お前は、おあつらえ向きな武器が出てきたな」
「そうだな」

 ライバラのアイテムは、妖刀である。刀身が紫色だ。

 全員がウルトラレアとは。

「でも、一番ヤバいのは王子なんだけど?」
「そうなのか?」

 一見すると、少々頼りないサーベルに見えるが。

「ああ。【聖剣 威厳ディグナティ】なんぞ、レジェンダリ級のお宝なんだが?」

 ソフィもライバラも、口々に驚愕している。

「よいではないか。こうしてみんな無事だったんだから。さて、報告に行くぞ」

 外に出ると、ポロリーヌ先生が涙目で出迎えてくれた。
「みなさん、よく帰ってきましたぁ! 様子を見に行ったらどこにもいないから、どうなったのかとぉ!」
 先生が、オレに抱きついてくる。

「他の生徒たちも、王子を置いていけないからと、残ってくれたんですよぉ」

 それは悪いことをした。

「ずっとこんな調子やってん。まいったで」

 メイディアも、頭をかきながら呆れている。

「ありがとう皆の衆! この通り無事だ」

 聖剣を天へ掲げると、生徒たちも安心したようだ。

「では下山するとしよう!」

 オレは、歩き出そうとする。

「待って王子、囲まれてるわ!」

 ソフィの言葉で、全員が立ち止まった。

 トレントやオーク、オオカミなど、一〇〇〇匹を超えるモンスターが周りを固めている。

「どういうことだ? 安全は確保できていたはず」
「いきなり湧いてきた感じだな!」

 オレとトーモスが、剣を抜く。

「武装を試す、絶好の機会です!」

 両手にグローブをはめて、ティファが拳を打ち合う。

 他の生徒たちも武装を展開した。

 魔物たちも、獲物を前に興奮している。

「様子がおかしいな。襲ってくる気配がない」

 突然、モンスターの動きが止まる。
 何かをよけるように、列が割れた。
 魔物たちに、覇気が感じられない。

 現れたのは、制服に身を包んだ褐色の女性である。
 色合いから、日焼けではない。元々肌が黒いのだ。

「ダークエルフか」
 耳の尖った少女は、魔物たちの作った道でパンプスを鳴らす。

 赤と黒のチェック柄をした学生服は、どこの学校とも判別できない。少なくとも、地上世界の高校出身ではなかろう。魔界にも高校があるのだろうか?
 スカート丈が、やけに短く際どい。肉付きのいい太ももを、黒いニーソックスで覆っていた。

 手にしている得物は、魔剣である。
 大型魔獣の角をそのまま削ったと思わせる、雑な作りだ。
 しかし、発せられる魔力が尋常ではない。

 魔王は列の間を進み、パンプスを止めた。

「ごきげんよう、バルシュミーデの小僧」
 ぶ厚い唇が、艶めかしく動く。
 チャラい見た目に反し、古風な口調である。

 そのギャルは、声だけでその場の全員を震え上がらせた。

 脳を直接刺激されてか、魅了される者や気絶する生徒までいる。

「先生助けてぇ!」
「うわあん怖いいいいい!」

 しがみついてきた生徒を、教師の一人が突き飛ばす。
 彼らを守るべきはずの教育者までが、一部泣き出した。
 ギャルが相手の心を、言葉を発しただけで折ったのだろう。

「みなさん、しっかりしてくださぁい!」
 さすが保健担当のポロリーヌ先生は、ノーダメージだ。が、心をやられた生徒や教師の対応に追われている。

 このギャルは、只者じゃない。

「何者だ? オレを知っているようだが?」
「我が名は魔王ギャルル。ギャルトルート・ブルルンヒルデなり。現在は余の代が、魔界を統べている」

 手を伸ばし、魔王ギャルルがオレに近づいてくる。

 こいつが魔王か。
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