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第三章 魔王襲来! 百合王子のドキドキ試練!

百合おじエルフの記憶

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 完全に、魔王の気配は消えた。
 同時に、モンスターの群れもいなくなる。
 これで、安全に下山できるだろう。

「みんな無事か!?」

 オレは、ソフィたちに駆け寄ろうとした。
 しかし、足がもつれる。

「ムリをしすぎよ」
 一番ムリをしていそうなソフィが、立ち上がろうとした。
 脇を押さえ、再度うずくまる。あれは、アバラが折れたな。

「命に別状はありませんが、疲労困憊です。数日は動かないように」

 イモーティファが、ソフィを治癒魔法で落ち着かせる。

 人一倍元気娘のソフィが、ここまでへばるとは。
 ツンの口数も少ない。息を切らして、へたり込んでいる。

 魔王戦は、相当にヘビーだった。
 死者が出なかったのが不思議なくらいである。

 ソフィとツンが、互いの背にもたれていた。
 ザ・戦友という光景である。

「それにしても、ナイスコンビネーションだったな、二人とも」

「ぷえ?」
 妙な声を上げて、ツンがソフィと離れた。

「なんか百合というより、男同士のロマンスって感じがしたぜ」

 ツンが、口をパクパクとさせている。

「お、王子を守ることで、必死だっただけよ!」
「そそそうですわ! どうして恋敵と共闘なんて!」

 ひじ鉄をぶつけ合い、お互いがけん制した。
 しかし、事情を知っている者には、力が入っていないとわかる。

「王子、お見事でしたぁ」
 生徒の額に治癒魔法を施しながら、ポロリーヌ先生が礼を言ってきた。
「いえいえ。先生方がケアしてくだされる方が、生徒たちにもいいだろう」

 オレの魔法では、単なる荒療治だ。ムリヤリ元に戻したに過ぎない。

 ポロリーヌ先生のような熟練者に治療してもらった方が、生徒にとっては安全なのだ。

「魔王すら退けるとは。いったい、どんな武器を手に入れたんですかぁ?」

「これなんだが」
 オレは、聖剣を先生に差し出す。

「ちょっと見せてくださぁい」
 ポロリーヌ先生が、聖剣に触れた。

「こ、これは偉大なる大魔道士が遺した、偉大な聖剣ではないですかぁ。手に入れたら博物館行き確定で、文献にしか載っていないのにぃ!」
 ワナワナと、先生が両手を震わせる。 

「いくらバルシュミーデ家の血を継いでいるとはいえ、こんな激レア中の激レア装備なんてぇ」

 先生は迷っている風に見えた。
 貴重な国宝級武器を没収するか、生徒の守り刀として盛らせるか。

「あの、ポロリーヌ先生、持たせといてええと思いますよ?」
「メイディア先生?」
「こんな恐ろしい武器、うっかり国なんかに管理させたりしたらあきまへん。宝の持ち腐れですわ。誰にも扱われへんでしょう」

 宮廷魔術師でさえ、正しい使い方など知らないだろうと、メイディアは言う。

「せやったら、王子のような変人に持たせた方がお得ですわ。彼にしか、この武器を最大限に引き出されへんのですさかい」
「そうですね。では王子、その武器を所持することを許可します。あなたなら、悪用なんてしませんよね」

 もちろんだ。

 メイディアがオレの側に寄って、「なあ」と声をかけてくる。
「なんかあの魔王、不完全ぽかったな」
 オレが話そうとしていた内容を、メイディアが振ってくれた。

「たぶん、調子のいいときにフラっと現れて、腕試しに来たのだろう。それで邪魔なオレを倒せたら御の字、といったところか」

 しかし、その目論見は脆くも崩れ去る。

「もしかすると、この武器をくれたのも敵のワナか?」
「おそらく、ちゃうやろうな。あんたらを潰すためにワナを張ってたんなら、わざわざパワーアップなんかさせへんて」

 それにしても、「あの女ども」とはなんだ?

 オレと、関わりがあるのだろうか。

「ん? ライバラ、どうした?」

「いや、なんでもない」
 ライバラは、魔王が去った方角をずっと見つめていた。




「ふむ。魔王はダークエルフでしたか」
 エルフには、エルフに詳しい人物に聞くのが一番だ。
 オレはエルフ族である大臣に話を聞いてみた。

「そうなんだ。しかし、不完全体だったらしい」
「興味深いですな。こちらでも調べておきましょう」
「よろしく頼む。だが、あまり深追いはするな。あなた方の身も心配だ」

「お心遣い、感謝致しますぞ殿下」
 恭しく、大臣が頭を下げる。

「それはそうと、この写真に見覚えはないか?」
 オレは、ソフィとツンににた女性二人が写る写真を、大臣に見せてみた。

 といっても、アルバムから拝借した集合写真だ。

 長寿のエルフなら、この人物たちがわかるかも。

「お、随分と懐かしいですな。よきよき」
「知っているのか?」
「もちろんです。丸い欠席欄にいるのが、私ですからな」

 集合写真の欠席者にいたのが、大臣だった。

「懐かしいですな。私は、初代ヴェリエ家の次女様と、ミケーリ家の初代ご令嬢と同級生だったのです」
「そんな昔の話だったのか?」

 この当時から、大臣は公務をしていたらしい。
 欠席していたのも、国家間でのトラブルに対処していたからだという。

「二人の死について、何か知らないか?」
「あいにく、公務で席を外していまして。ですが、彼女には姉上と弟君がいらっしゃって、それぞれが子孫を残したそうですね」

 また、興味深い話をしてくれた。

 ヴェリエ家は当時、リスタン公国を統一する予定だったらしい。
 しかし、女性しか生まれなかったせいでリスタンが実権を握ったという。

 うさんくさいんだよなぁ、リスタンは。
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