おひとりさま男子、カップルYouTuberになる ~他校に進学した優等生JKが婚約者だった~

椎名 富比路

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第一章 おひとりさま男子、カップル配信始めました。

第5話 名前呼び

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「マジか? 聞いてない!」

「話す前に出て行ってしまったから、話す機会を逃したのよ」

 なんでも、オレと白浜さんは両親同士が知り合いらしい。同じ事業で親しくなり、子どもを結婚させてもいいのでは、と考えていたという。エグいな。

「ちょっと待ってくれ。いくらなんでも、都合がよすぎねえか?」

 許嫁が隣同士だなんて。とはいえ、距離感が近くなった気はしない。

「少しずつ距離を近づけていこうって、向こうの親にも話は通っていたんだけど?」

 親しくなってきたら種明かしをしてやろう、と思っていたそうだ。
 予想より、幾分早くなってしまったが。

「配信はいい。でも、白浜さんの気持ちとかは置き去りなんじゃねえのか?」

 いくらなんでも、ムチャクチャだ。

「本人は、茹だってるわよ」

 白浜さんを見ると、ずっとボーっとしている。

「いいのか、白浜さん?」

「うん。楽しそう。実際、斎藤くんとのお話は楽しいし」

 乗り気なら、いいか。

「でもさっき、自由がどうとかで」

「嫌な人だったら、自立も考えたよ。でも斎藤くんが婚約者なら、いいかなって」

 ドキン、とオレは心臓が飛び跳ねた。
 どうリアクションしていいか、わからなくなる。

「なに戸惑ってんの? この家だって、二人に住まわせようって思って買ったんだから」

「そうなのか?」

「ええ。ドケチ物件だけどね」

 築三〇年ともなると家の価値はなくなるそうで、土地代とリフォーム代しか予算はかかっていないらしい。

 徐々に外堀を埋めてくるとは、家族ぐるみでお互いをくっつけようとしてやがる。

「『このままだと進展ないよねー』って、あたしが提案したの」

「なんで、そこまでしてくれるんだ?」

「だってふたりとも、意識してるだけじゃないの。お互い好意は寄せているけど度胸はなくて、社会人になって『あのとき告白しておけば』って、カフェでカップルを眺めながら孤独にリモートしている姿しか浮かばなかったわ」

 預言者か、この人は。実際に、そんな人生を送りそうじゃないか。

「で、カンフル剤の役割を請け負ったのよ。責任はあたしが全部取るから、安心なさい」

 急に言われても、まだ戸惑っている。

 また、変な間ができてしまった。思考が追いつかない。

「まあ、そのうち慣れるでしょう。お互い配信がんばって」

 星梨おばさんによると、部屋は二階に二つあるという。オレが使っている部屋はそのままで、白浜さんは空き部屋を使う。

「配信機材は?」

 それだけそろえるだけでも、結構掛かるのでは?

「スマホだけ。編集用のPCは、こっちで用意するから安心なさい。あと、あんたも覚えるのよ。こういう技術は、身につけておきなさい」

「お、おう」

「じゃあ、白浜ちゃんの引っ越しが済み次第、撮影スタートするわね。でも、引っ越し場面を取るのもいいかも」

 星梨さんが、一発目の配信を引っ越しシーンにすると言い出した。

「外壁など、こちらの個人情報がわかりそうなシーンはカットするわ。それでいい?」

「OKです」

「じゃ、白浜ちゃん、快斗が送ってあげるって。夢希ムギちゃんって呼んでいい」

「はい。星梨さん、よろしくおねがいします」

「じゃあねー」

 玄関前で、星梨おばさんが手を振った。
 オレたちは、白浜さんのマンションへ。

「荷物はまとめておくね」

「なにかあったら手伝うよ。いつでも言ってくれ。おやすみ白浜さん」

「夢希」

 玄関に入って、白浜さんがつぶやいた。

「は、はい?」

「夢希って呼んで。もう婚約者なんだから、遠慮はなしで、か、快斗くん」

 言ってる側から、白浜さんが「はわわ」と顔を手で隠す。

「わかった。おやすみ、むむむ、夢、希」

「はいい!」

 オレが声をかけると、夢希が背筋をシャキンをした。

「おやすみなさい、快斗、くん。がんばって、配信しましょう」

「やろう、夢希ムギ

 配信だけでもヤバいってのに、夢希が婚約者だなんて。
 
 
(第一章 完)
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