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第二章 おひとりさま男子、婚約者と同居を始めます。
第6話 初日は引っ越し動画
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白浜 夢希の荷物が、ウチに運ばれてくる。
あのあと夢希は、ホントにバイトを辞めてきた。
一ヶ月弱での退職で迷惑がられるかと思ったらしいが、まったくトラブルにはならなかったらしい。配達だけなら出前サイトがあるし、なにより、白浜家の一人娘を預かるプレッシャーは感じていたようだ。
「白浜家って、なにかしらの権限があるんだな」
「威厳があるだけ。別になにも問題はないよ」
「そうか。では、動画を撮るぞ」
オレは、スマホを構えた。オレが持っているのは、どうやって動かしてもブレない自撮り棒である。軸で支える『ジンバル』というタイプで、スタビライザーのように「重り」を必要としない。このホルダーは、叔母の星梨が持たせてくれた。
「ブレがあった方が、素人臭くていいんじゃね?」
オレはそう提案してみたが、星梨おばさんは首を横に振る。
「たしかに低予算をアピールするなら、それでいいんだけど。見づらくなるぐらいなら、見やすさを重視するわ」
そもそもこの動画は、おばさんの運営する会社の系列動画だって、紹介しちゃってるのだ。ジンバルも、星梨おばさんの会社が出している試作品らしい。
「じゃあ、本番スタート」
「よお、オレの名はおひとりさまYouTuber、カイカイだ。初めてだな、よろしくな」
軍手をはめた状態で、オレはスマホに手を映り込ませる。
夢希は、小物類を運んでいく。
「今日はオレのパートナーである、もうひとりのおひとりさまYouTuberを紹介する」
「よお、ムゥだ」
夢希が、軍手をはめた手をスマホに映す。
「顔出し配信じゃなくて申し訳ないな。このご尊顔は、オレだけのものだ」
オレが言うと、ムゥが画面に見えないところで赤面している。
「ちょっと、ムゥちゃん? 今顔が赤くなっていたら、次がもたないわよ?」
「はあ、はあ」
ムゥはまだちょっと、興奮気味だ。
ちなみに、オレたちはふたりとも、顔出し配信はしない。この家の映像だって、ほとんどモザイクをかける。近隣の家はもちろん、家の内装もほぼ映さない。映すのはたいてい、市販品ばかりだ。個人を特定されては、危険な目に合うから。
「その箱に入っているのは、なんだ? 自分の部屋に持っていかないんだな?」
ダンボールを持って、ムゥがキッチンへ向かう。
「料理をするので、調理器具を」
市販の包丁と、ホムセンで買ったお鍋とをしまっていった。来客用のちょっといい感じなティーセットがうれしい。
オレの食器の隣にムゥの食器が並ぶ。
ああ、ほんとに婚約者なんだなと、オレは撮影しながら胸が熱くなった。
「レンジがいいやつだから、使い方を覚えてレンジでの焼き物に挑戦してみたいな」
「楽しみだ。じゃあ、ちょっとオレは台所で用事をする。楽しみにしておいてくれ」
ジンバルスマホをキッチンにセットして、オレは準備を始める。
ムゥの部屋はさすがにプライベートルームなので、星梨おばさんに撮ってもらうことにした。「よし、じゃあ忙しいムゥに代わって、オレは今から調理を開始するぞ。今回作るのはコイツだ。引越しソバ!」
まな板の上に、ソバ打ちセットを用意する。
「準備完了だ。では始めるぞ」
生地に水を入れて、混ぜて、こねて、と。
「あとはテーブルの上でやるか」
テーブルに台を敷いて、麺棒で生地を延ばす。
「やべえな、肩がバッキバキになりそうだ。でもこうやって、うまいソバが作れるなら、重労働も苦じゃねえよな」
延ばした生地を、畳んで切っていく。
でも、せっかく女子の引っ越し動画だってのに、オレのソバ打ちを映すってどうなんだろうな? ドキドキしねえだろうが。
とはいえ、下着類などが映り込んだら、You Tubeくんがお怒りになるからな。めちゃ編集せねばならん。
それはやべえから、こうしてオレのソバ打ちでごまかす。
「完成だ。後は茹でていくぞ」
鍋でグツグツと茹でる。
「ちょっと切れちまったが、だいたいいいんじゃねえかな?」
ダシの入った器に麺を入れたら、できあがりだ。
二階にいる二人を呼んで、昼食に。
「いただきます。うん。ヤワイけどこれはこれで」
「そうなんだよ。適当に作ったんだが、イケるだろ?」
ちなみに業者さんには、星梨おばさんが市販のソバをザルで用意した。オレが打っていないヤツを。さすがにプロ相手にはヤバいものを食わせるワケにはいかないからな。ここ以外にも、仕事があるだろうし。
また、業者さんには配信のことは伝えていない。どこで情報が漏れるかわからないからだ。ちゃんと口止めもする。
「ごちそうさまでした。初料理だよね? こんなにうまく作れるもんなの?」
「いや、わっかんねえ」
ひたすら料理サイトとにらめっこしていたからな。その分、時間がかかって、固いところもある。とはいえ、それなりじゃないかな? と自分では思う。解説動画じゃねえし。
「オレの動画は、たいていこういった雑な料理動画が中心となる。ちゃんとした料理動画は、ムゥが上げてくれるだろう。そこは期待していてくれ。では、ご視聴ありがとうございました。じゃあな!」
こうして、第一回の動画は終わった。
「ちなみにわたしのお部屋は、編集した後にアップするから。じゃあな!」
おお、これは期待しちゃうぜ。
「じゃ、快斗。今から編集お願い」
「え!?」
あのあと夢希は、ホントにバイトを辞めてきた。
一ヶ月弱での退職で迷惑がられるかと思ったらしいが、まったくトラブルにはならなかったらしい。配達だけなら出前サイトがあるし、なにより、白浜家の一人娘を預かるプレッシャーは感じていたようだ。
「白浜家って、なにかしらの権限があるんだな」
「威厳があるだけ。別になにも問題はないよ」
「そうか。では、動画を撮るぞ」
オレは、スマホを構えた。オレが持っているのは、どうやって動かしてもブレない自撮り棒である。軸で支える『ジンバル』というタイプで、スタビライザーのように「重り」を必要としない。このホルダーは、叔母の星梨が持たせてくれた。
「ブレがあった方が、素人臭くていいんじゃね?」
オレはそう提案してみたが、星梨おばさんは首を横に振る。
「たしかに低予算をアピールするなら、それでいいんだけど。見づらくなるぐらいなら、見やすさを重視するわ」
そもそもこの動画は、おばさんの運営する会社の系列動画だって、紹介しちゃってるのだ。ジンバルも、星梨おばさんの会社が出している試作品らしい。
「じゃあ、本番スタート」
「よお、オレの名はおひとりさまYouTuber、カイカイだ。初めてだな、よろしくな」
軍手をはめた状態で、オレはスマホに手を映り込ませる。
夢希は、小物類を運んでいく。
「今日はオレのパートナーである、もうひとりのおひとりさまYouTuberを紹介する」
「よお、ムゥだ」
夢希が、軍手をはめた手をスマホに映す。
「顔出し配信じゃなくて申し訳ないな。このご尊顔は、オレだけのものだ」
オレが言うと、ムゥが画面に見えないところで赤面している。
「ちょっと、ムゥちゃん? 今顔が赤くなっていたら、次がもたないわよ?」
「はあ、はあ」
ムゥはまだちょっと、興奮気味だ。
ちなみに、オレたちはふたりとも、顔出し配信はしない。この家の映像だって、ほとんどモザイクをかける。近隣の家はもちろん、家の内装もほぼ映さない。映すのはたいてい、市販品ばかりだ。個人を特定されては、危険な目に合うから。
「その箱に入っているのは、なんだ? 自分の部屋に持っていかないんだな?」
ダンボールを持って、ムゥがキッチンへ向かう。
「料理をするので、調理器具を」
市販の包丁と、ホムセンで買ったお鍋とをしまっていった。来客用のちょっといい感じなティーセットがうれしい。
オレの食器の隣にムゥの食器が並ぶ。
ああ、ほんとに婚約者なんだなと、オレは撮影しながら胸が熱くなった。
「レンジがいいやつだから、使い方を覚えてレンジでの焼き物に挑戦してみたいな」
「楽しみだ。じゃあ、ちょっとオレは台所で用事をする。楽しみにしておいてくれ」
ジンバルスマホをキッチンにセットして、オレは準備を始める。
ムゥの部屋はさすがにプライベートルームなので、星梨おばさんに撮ってもらうことにした。「よし、じゃあ忙しいムゥに代わって、オレは今から調理を開始するぞ。今回作るのはコイツだ。引越しソバ!」
まな板の上に、ソバ打ちセットを用意する。
「準備完了だ。では始めるぞ」
生地に水を入れて、混ぜて、こねて、と。
「あとはテーブルの上でやるか」
テーブルに台を敷いて、麺棒で生地を延ばす。
「やべえな、肩がバッキバキになりそうだ。でもこうやって、うまいソバが作れるなら、重労働も苦じゃねえよな」
延ばした生地を、畳んで切っていく。
でも、せっかく女子の引っ越し動画だってのに、オレのソバ打ちを映すってどうなんだろうな? ドキドキしねえだろうが。
とはいえ、下着類などが映り込んだら、You Tubeくんがお怒りになるからな。めちゃ編集せねばならん。
それはやべえから、こうしてオレのソバ打ちでごまかす。
「完成だ。後は茹でていくぞ」
鍋でグツグツと茹でる。
「ちょっと切れちまったが、だいたいいいんじゃねえかな?」
ダシの入った器に麺を入れたら、できあがりだ。
二階にいる二人を呼んで、昼食に。
「いただきます。うん。ヤワイけどこれはこれで」
「そうなんだよ。適当に作ったんだが、イケるだろ?」
ちなみに業者さんには、星梨おばさんが市販のソバをザルで用意した。オレが打っていないヤツを。さすがにプロ相手にはヤバいものを食わせるワケにはいかないからな。ここ以外にも、仕事があるだろうし。
また、業者さんには配信のことは伝えていない。どこで情報が漏れるかわからないからだ。ちゃんと口止めもする。
「ごちそうさまでした。初料理だよね? こんなにうまく作れるもんなの?」
「いや、わっかんねえ」
ひたすら料理サイトとにらめっこしていたからな。その分、時間がかかって、固いところもある。とはいえ、それなりじゃないかな? と自分では思う。解説動画じゃねえし。
「オレの動画は、たいていこういった雑な料理動画が中心となる。ちゃんとした料理動画は、ムゥが上げてくれるだろう。そこは期待していてくれ。では、ご視聴ありがとうございました。じゃあな!」
こうして、第一回の動画は終わった。
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おお、これは期待しちゃうぜ。
「じゃ、快斗。今から編集お願い」
「え!?」
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