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海鮮丼は、罪の味 ~漁港の海鮮丼とオジサンの……~

お寿司屋さんの奇策

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 お酒が入っているせいか、ヘルトさんの口調がヒートアップします。

「ねえクリスちゃん、いいでしょ? ごちそうするわ」
「はい。ご一緒しましょう!」

 そんなお約束でよろしければ、いつでもお相手しましょう。

「海賊が来たぞ!」

 そうこうしている間に、船が海賊と接触したようですね!

 海賊船に武装した船をぶつけ、肉弾戦になりました。

「ちい、偽装船か!」

 相手はこちらが冒険者を連れていると知って、慌てふためきます。

 そう。我々の乗っている船は貴族船を模していたのでした。いわゆる、おとり捜査です!

「ホアタ! ホアトゥ!」

 殺すのではなく無力化すればいいので、楽です。

 相手は相当素人なのか、攻撃を受けて海にダイブする人が多い印象でした。

「なんだよ。手応えがねえな」
「最近は、こんなヤツらばっかりだそうよ」

 ミュラーさんもヘルトさんも、早々と武器をしまいます。

 海賊たちを縄で縛って、港まで連行しました。

 その間に聞いた話だと、彼らはこの都市から離れた半島の出身だとか。農作物が取れなくなって、海賊業を余儀なくされた一団でした。

 島の方たちには漁師もいるそうです。が、地元では魚を安く買い叩かれているとか。

「捕れすぎるんです。それも小魚ばっかり」

 自分たちで食べるにも、保存方法や調理法がわからないそうです。もっぱら、干物や保存食にするしかないとか。

「このままでは、家族が餓死してしまいます」
「とはいっても、人様のものを盗むのは感心しねえなぁ」

 腕を組みながら、ミュラーさんもうなります。

 助けてあげたくても、どうにもなりません。

 結局、港についても何一つ解決しませんでした。

「ウチで、なんとかしますよ」

 そう言ったのは、漁港に来ていた二人組のオジサンです。片方はお寿司屋さんを運営して、もうひとりは、海鮮丼を出しているそうで。

 二人は、何か話し合っています。

「あんたら、船はあるかい?」

 お寿司屋の店主が言うと、海賊たちは船を指差しました。

「うーん。漁に出られるような頑丈さはねえな。よし。ウチで船を貸そう。これで漁に出な」

 海賊たちは色めき立ちます。

「しかし、調理法がありません。シメ方も」
「ウチで氷魔法使いを雇ってやろう。それで保存も効く。その代わり、うちに魚を卸してくれ」

 その後、店主と海賊たちで細かい話し合いが始まりました。

 どうやら、お寿司屋さんたちはこの海賊たちを漁師として採用するようですね。

「あんたらは島の家族を食わせる。オレはあんたらの釣ってきた寿司を客に食わせて儲ける。それで、おたくらへ貸した船代も浮くってわけよ」
「なるほど。協力します」
「よしきた。そうと決まれば、今夜早速漁に出てくれ。イカを釣ってくるんだ」

 海賊たちは、元気に返事をしました。

「ちょっと勝手に決めないでください。彼らが逃げ出すとも限らない」

 やはりというか、海賊を捕まえた騎士団や冒険者ギルドなどが、反対をしてきます。

「だったら、あんたらも船に乗りなさいな。監視しておけばいいでしょ。逃げたんなら容赦なく、ねえ」

 責任は採用した自分にあるので、責任は自分で持つと言いました。

 提案したのは、海鮮丼オジサンのようです。お寿司屋さんに、お礼を言っていました。

 今どき、こんなたくましいオジサンがいるんですね。
 

 わたしは、この方たちに興味を持ちました。

 ついていくことにします。

 まずは、お寿司屋さんへ。

 外から覗くと、貴族さんたちが舌鼓を打っていました。


 しかし、わたしはすぐに後ずさります。

 お店に、値段が書いていなかったからでした。
 時価ってなんですか? なんの単位なのでしょう?


 後ろへ下がった直後、見覚えのある人物の姿を発見しました。



 なんと、シスター・エンシェントです!



 路地裏で、海鮮丼の大将と話し込んでいました。


 エンシェント院長が手に持っているのは、魚のアラですね。なるほど、ここから仕入れていたと。

 直後、信じられない光景が!


 二人が、泣きながら抱き合ったではありませんか!
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