44 / 269
海鮮丼は、罪の味 ~漁港の海鮮丼とオジサンの……~
シスター・クリス包囲網
しおりを挟む
まさかまさか、海鮮丼の大将と「いけない関係」だったなんて。
「なぁ……」
思わず、わたしは声を上げそうになりました。
いけません。ここで居所を知られたら、殺されちゃいますよ。
こんな現場を目撃したとて、いったい何になりましょう?
弱みを握ったことには該当しません。
わたしの立場が逆に危うくなるだけです。
きっとウワサごとモミ消されますよ。物理的に。
この場はとっとと逃げるに限りますね。
でも、目の前でオバサンが焼いているホタテも気になります。
小さいボウヤが、呼び込みをしていました。一〇歳前後くらいですかね。
前門のホタテ、後門の海鮮丼。うーむ。
とにかく、海鮮丼の値段はわかりました。後日改めて。
「おねえさん、ウチに用?」
小さいボウヤが、わたしの足元に立っています。
「あ、いえ。お邪魔しま――」
最悪のタイミングで、お腹が鳴りました。
「入りなよ。おっとう呼ぶからちょっとまっててね。おっとう、お客さーん!」
ボウヤが、路地裏へ行きます。店主を呼びに行ったのでしょう。
「はい。お邪魔します」
ここまで包囲網を敷かれては、覚悟を決めるしかありません。
エンシェントと鉢合わせすることになっても、平静を保ちましょう。
壁にかけられた木の板に、商品名らしき名前がびっしり書かれています。
さっきのお寿司時やさんと違って、ちゃんと値段も書いてありました。これは選びやすいですね。
「おまたせしました。お嬢さん、なににいたしましょう?」
先程エンシェントと抱き合っていた大将が、カウンターに立ちました。
「か、海鮮丼を。あと……」
わたしは、メニューに気になる名前を見つけます。
「この『オジサン』ってなんですか?」
「口にヒゲの生えた見た目の、高級魚ですよ」
例のオジサンという魚の実物を、見せてもらいました。
「ウマイよ、コイツは。サッパリしててさ。でも、この見た目でしょ? 寿司屋じゃウケが悪くってさあ」
へへへ、と大将が苦笑いします。
「召し上がってみますか?」
「お高いのでしたら」
わたしは、遠慮します。
「いいっていいって。海鮮丼の中にも入ってるんだから。この際、一匹まるまる食っちゃってよ。セットメニューにもあるから、そっちにいたしますか?」
オジサンのセットは、お試しでオジサンを格安で食べさせてもらえるようですね。ただし、初見の方だけ頼めるとあります。
「で、ではお願いします」
ここまで言われては、食べない手はありません。
「かしこまりました。おい、オジサンのセット」
「はいよ!」
ボウヤが、注文を取ります。
気さくに、大将は魚をさばき始めてしまいました。
「あ」
大将の手首に、縄の跡があります。この夢のような世界で、ただ一つだけのリアルでした。
わたしが思わず声を出してしまうと、大将は皮肉めいて笑います。
「わかっちゃったかい。そう。オレもあいつらと同じ」
ため息をついて、大将は語り始めました。
「オレもバカやったよ。盗んだし、騙した。人殺し以外は、たいていやったかな? そしたらある日、ボスがアンタくらいの娘をさらってきたんだ」
娼館へ売り飛ばす予定だったそうです。
「ムカついたね、あんときゃ。ガキの頃に姉貴が同じ目に遭わされて、思い出しちまったんだ。エンシェントって偉い方が無事に助けてくださって、今は故郷で暮らしてるよ」
大将は、女性を助け出して自首したそうです。そのときの少女が、今の奥さんだとか。
となると、シスター・エンシェントとは「やましい関係」ではない、と。
「そうだったんですね」
正直、ホッとしました。まさかとは思っていましたが。
「どうかなさったんで?」
わたしが虚空を見上げていると、大将が声をかけてきました。
「いえ。こちらの話です」
「そうですか。はい。オジサンおまちどう」
「オジサン、―罪深《うま》いですね」
これで、冒頭に戻ります。
「なぁ……」
思わず、わたしは声を上げそうになりました。
いけません。ここで居所を知られたら、殺されちゃいますよ。
こんな現場を目撃したとて、いったい何になりましょう?
弱みを握ったことには該当しません。
わたしの立場が逆に危うくなるだけです。
きっとウワサごとモミ消されますよ。物理的に。
この場はとっとと逃げるに限りますね。
でも、目の前でオバサンが焼いているホタテも気になります。
小さいボウヤが、呼び込みをしていました。一〇歳前後くらいですかね。
前門のホタテ、後門の海鮮丼。うーむ。
とにかく、海鮮丼の値段はわかりました。後日改めて。
「おねえさん、ウチに用?」
小さいボウヤが、わたしの足元に立っています。
「あ、いえ。お邪魔しま――」
最悪のタイミングで、お腹が鳴りました。
「入りなよ。おっとう呼ぶからちょっとまっててね。おっとう、お客さーん!」
ボウヤが、路地裏へ行きます。店主を呼びに行ったのでしょう。
「はい。お邪魔します」
ここまで包囲網を敷かれては、覚悟を決めるしかありません。
エンシェントと鉢合わせすることになっても、平静を保ちましょう。
壁にかけられた木の板に、商品名らしき名前がびっしり書かれています。
さっきのお寿司時やさんと違って、ちゃんと値段も書いてありました。これは選びやすいですね。
「おまたせしました。お嬢さん、なににいたしましょう?」
先程エンシェントと抱き合っていた大将が、カウンターに立ちました。
「か、海鮮丼を。あと……」
わたしは、メニューに気になる名前を見つけます。
「この『オジサン』ってなんですか?」
「口にヒゲの生えた見た目の、高級魚ですよ」
例のオジサンという魚の実物を、見せてもらいました。
「ウマイよ、コイツは。サッパリしててさ。でも、この見た目でしょ? 寿司屋じゃウケが悪くってさあ」
へへへ、と大将が苦笑いします。
「召し上がってみますか?」
「お高いのでしたら」
わたしは、遠慮します。
「いいっていいって。海鮮丼の中にも入ってるんだから。この際、一匹まるまる食っちゃってよ。セットメニューにもあるから、そっちにいたしますか?」
オジサンのセットは、お試しでオジサンを格安で食べさせてもらえるようですね。ただし、初見の方だけ頼めるとあります。
「で、ではお願いします」
ここまで言われては、食べない手はありません。
「かしこまりました。おい、オジサンのセット」
「はいよ!」
ボウヤが、注文を取ります。
気さくに、大将は魚をさばき始めてしまいました。
「あ」
大将の手首に、縄の跡があります。この夢のような世界で、ただ一つだけのリアルでした。
わたしが思わず声を出してしまうと、大将は皮肉めいて笑います。
「わかっちゃったかい。そう。オレもあいつらと同じ」
ため息をついて、大将は語り始めました。
「オレもバカやったよ。盗んだし、騙した。人殺し以外は、たいていやったかな? そしたらある日、ボスがアンタくらいの娘をさらってきたんだ」
娼館へ売り飛ばす予定だったそうです。
「ムカついたね、あんときゃ。ガキの頃に姉貴が同じ目に遭わされて、思い出しちまったんだ。エンシェントって偉い方が無事に助けてくださって、今は故郷で暮らしてるよ」
大将は、女性を助け出して自首したそうです。そのときの少女が、今の奥さんだとか。
となると、シスター・エンシェントとは「やましい関係」ではない、と。
「そうだったんですね」
正直、ホッとしました。まさかとは思っていましたが。
「どうかなさったんで?」
わたしが虚空を見上げていると、大将が声をかけてきました。
「いえ。こちらの話です」
「そうですか。はい。オジサンおまちどう」
「オジサン、―罪深《うま》いですね」
これで、冒頭に戻ります。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる