上 下
91 / 269
ヤンキー巫女と炭焼きサンマと、罪の秋 ~咎人青春編 その1~

思い出の焼き芋は 罪の味

しおりを挟む
「そんなこともあったな」

 当時を懐かしみながら、ソナエさんが語ります。

「昔話をしていたら、一時間経っていましたね」

 わたしがそう教えると、ソナエさんがポンとヒザを叩きました。

「よし。見てろよ」

 炭になった落ち葉から、芋を回収します。

「あんときの石焼き芋とは勝手が違うが、ほれ」

 割ってみると、見事に内側までホクホクに焼けていました。

「ささ、食えよ」
「はい。いただきます」

 あのときのように、皮ごと食べてみます。

「うううん。罪深うまい。これはすばらしいです」

 ホクホクですね。ちゃんと、甘いです。
 何より、この皮! 皮まで甘みが詰まっていますね。
 しっとりとした甘さが、ほんのりと苦いほうじ茶にベストマッチですよ。

 さすがソナエさん、焼き加減を心得ていらっしゃる。
 わたしがやったら、表面カチカチのおいしくないお芋ができていました。

「あたいも。はぐう……これは厄払ヤバい!」

 ソナエさんも、皮ごとバリッといただいています。
 ご自身の作った味に満足げでした。

「我ながら、とんでもねえモノノケを作っちまった。これは厄払《ヤバ》い。バチが当たるなぁ」

 もぐもぐと芋をかじっては、ソナエさんはお酒を間に挟みます。

「なにより、芋自体の出来がいい。こいつは、どっかの上等なブランド芋なのかい?」
「いいえ。普通の農家さんからいただいた、出荷できない品を分けてもらいました」

 形がいびつなものを、大量に譲ってもらいました。
 これだけではありません。
 大半を教会で蒸して、ホームレスさんに支給しています。

「型落ちか? それでも、こんなにうめえのか。侮れんな」

 ソナエさんが、ムシャムシャと一本目の芋を平らげました。

「懐かしいな。こうしていると」
「はい。昔を思い出しますよ」

 二本目の焼き芋をいただきながら、昔話に花を咲かせます。

「あのとき、あんた何本食ったっけ?」
「八本です」
「あたいは九本だったな。芋の大食い対決では、勝ったんだけどな」

 悪党ではないのですが、ソナエさんは変なところで意地を張る人でした。

「本数では、そうでしょう。大きさはわたしが勝っていました」
「キロで売っててくれてたらなぁ。公平にわかったんだが」

 そうそう。大事な話があったのです。

「今更ですが、クラーケン退治お疲れさまでした」
「いやいや。前にもお礼を言ってきたじゃん。でも、クラーケン退治のせいで、祭りではあんたと会えなかったんだよなぁ」

 夏祭りのとき、ミュラーさんたちと組んで戦っていたのは、シスター・ローラだけではありません。
 ソナエさんが主導となって、海を浄化していたのです。

「クラーケンのヤロウは、うちら東洋大陸の天敵だからね。あいつらにデカイ顔をさせないために、あたいら巫女はここに来たからさ」

 どうもクラーケンは、頻繁に海を荒らす邪神の一味らしいですね。
 彼らから海を守るために、ソナエさんの一族はここに分社を建てたそうです。

 わたしたちの神は、異界の神を「間借り」させてあげているのではありません。共通して守る土地があるから、共に手を取っているのです。

「うまい芋をありがとうな。町内で分けて、それでも余ったらウチの保存食にするよ」
「そうしてください。ところで、もう焼かないんですか?」

 どうも、彼女にしては少食のような。具合でも悪いのでしょうか?

「いや。あんたには特別メニューを用意したくてな」
「なんです、それ?」
「コイツさ」

 彼女が用意したのは、七輪です。炭がぎっしりと詰まっていました。

「火を付けるから、待ってな」

 焚き火から火種を取り出し、七輪の炭へ点火します。

 落ち葉焚きとは違った、チリチリという炭の焼ける音が鳴り始めました。

 続いて、台所からソナエさんが戻ってきます。

「夕飯まだだろ? 次はよ、コイツを焼く」

 ソナエさんが用意したのは、二尾のサンマでした。
しおりを挟む

処理中です...