神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

ルームサービスは、罪の味

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 魔王ドローレスが促すので、わたしも着席しました。
 燕尾服の男装少女は、わたしに微笑みかけます。

「ああ。誰かと思えば、そうでした」

 わたしは先日、ドラゴンを追い払ったんでしたっけ。

「人間に擬態できるのですね」
「魔王ドローレス様より、教わりました。地上で生活するなら、この姿が効率いいと。名前までいただきました。ドレミーといいます」

 たしかに、ドラゴンのままでは、討伐されるリスクが高まります。

「すいませんでした。あなたを有名な方とは知らず」
「ドラゴンは血の気が多いからね」

 まして、主の元から逃げて飢餓状態だったそうで。

「いえいえ。魔王は優しくしてくださっていますか?」
「それはもう。よくしてもらっています。首の紋章も、ほら」

 ドレミーさんがスカーフを解きました。すっかり首はキレイになっています。

「まあ、せっかくだ。食いながら聞きなよ。コーヒーが冷めちまう」

 ドレミーさんに指示を出して、ドローレスはわたしの前にワゴンを用意しました。

 蓋を開けると、コーヒーのポットとデニッシュ、フルーツが並んでいます。
 わお、メロンですよ、メロン!
 これはテンションが上がりますね。

「よろしいので?」
「構わんよ。あんたのために用意させたんだからさ」

 他人のルームサービスですが、くださるというので。

「遠慮せず、いただきます」

 この、ブドウを一口。

 ええ。うん。問題なく罪深うまい。
 確認するまでもありません。
 フルーツですからね。
 当然、おいしいに決まっています。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 ドレミーさんに、コーヒーを淹れていただきました。
 おしゃれなポットですねぇ。
 ミルクも足して、カフェオレで飲みます。

「はああ。最高ですね」

 思わず、ため息が漏れました。

 このカフェオレと、デニッシュの相性がまたバツグンで。

 ジューシーなブドウとは対照的なのですが、デニッシュは合わせるものに応じて味が変化します。
 カフェオレと合わせれば、パンの味わいがしました。

「では、メロンと一緒にいただきます」

 ああもう、手が震えます!

 フルーツと合わせると、これがパイに変わるのですよ。

 なんという変わり身の速さでしょう。
 お見事としか言いようがありません。

 満足気に、魔王はもう一房のブドウを一気に手に取りました。
 顔の前に吊るして、皮ごとガブッとかじっています。
 砂漠の国の食べ方ですよ、それは。

「キレイなもんだろ、ドレミーの首は」

 魔王が、ドレミーさんに顔を近づけさせました。

 きれいな首筋を強調され、ドレミーさんは困惑しています。

「はい。見事なお仕事ぶりで」
「あたしのところに転がり込んできたときは、戸惑ったよ。しかし、メモにあんたの名前があったからね。すぐに押し付けられたんだってわかったさ」
「すいません」
「いいんだ。ドラゴンを世話できるなんて、この界隈じゃあたしくらいだからね。いつでも頼ってきなって言ってやった」

 事情を察し、ドローレスは彼女を配下にしました。
 稽古まで付けているとか。

「術式まで、解いてあげたんですね?」
「これがまいっちまったよ。複雑な魔術式で。外すのが大変だった」

 魔術関係で、魔王がグチをこぼすとは。

「あなたほどの使い手でさえ、手こずるほどだったんですね?」

 ドラゴンを手なづけられる人間なんて、聞いたことがありません。

 信頼関係があるなら、隷属魔法など唱えないでしょう。

 かといって、命令を下すなんて、相手がよほど弱っているか、同じ野心を掲げているかくらいしか。

「人間が相手だったら、まだよかったんだけどね」

……なるほど。ようやく話が繋がりました。

「ヴァンパイアの真祖が相手なのですね?」
「よくわかってるじゃないか」

 ドローレスの言いたいことは、だいたいわかりますよ。

 少しの間、わたしはあなたの弟子だったんですから。
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