神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第二章 完 秋季限定キノコピザは、罪の味 ~シスタークリス 最大の天敵現る?~

食い物でしか、動かない女

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「なぜです?」

 食後のヨーグルトをいただきながら、わたしは尋ねました。

「道案内をさせる。あそこは馬車で行くと、最短でも三日はかかるからね」

 相手が対決に応じる条件が、ジャッジをドレミーさんにしてもらうことだそうですね。
 勝ったほうが、ドレミーさんを好きにできると。
 ほんと、ドレミーさんを好きすぎますね。
 そんなに、ボーイッシュ巨乳がお好きなんでしょうか。

「わかりました。ただし条件を。ひとつ、わたしは殺し屋ではありません」

 退治と言っても、命までは奪いません。

「ああ。あたしもヤツを殺せとは言わない。ケンカして、勝ってくれたらそれでいい」

 相手が「まいった」といえば、こちらの勝ちだそうです。

「あんたがギブと言ったら、こちらの負になるから注意しな。まあ、そんなことにはならないだろうけどさ」

 随分な信頼ですね。
 わたしが負けるなんて、想像さえしていないようでした。

 割と緊張気味なんですが、わたし。

「なら、安心です。あと、もうひとつ。報酬の件ですが」
「心得ているさ、シスター。ほらよ」

 言って、魔王ドローレスはパンフレットを投げてよこしました。

『秋の小麦粉まつり』と書かれています。色とりどりの小麦粉メニューが、ずらりと並んでいました。
「好きなものを頼みな。用意させる」
「ありがとうございます」

 こんなにあると、どれにしようか迷います。

 うーん。秋季限定のキノコピザ、Lサイズですかぁ。そそられますね。

 土鍋グラタンパスタも捨てがたい。
「グラタンパスタなんて、小麦粉だけだろ」ですって?
 何をおっしゃいます。
「小麦粉の可能性が増えた」と言ってもらいたいですね!
 あとポテトも入っています。

 チーズフォンデュも、こういう機会じゃないと食べられないでしょうし。

 ですが、今のお腹はキノコ腹なんですよねー。

 フォンデュはみんなで鍋を囲んで、食べるものですから。

「あの、どうして報酬が料理なのですか? 食べ物で動くような人なのでしょうか?」
「あーっ。そっか。あんたはこの子のことを、よく知らないんだったね」

 ドローレスは、天井を見上げました。

「覚えておきな。シスター・クリスは食い物で動くんじゃない。食い物でしか動かねえのさ」

 魔王の、おっしゃるとおりです。

「お金をあげるほうがいいじゃないですか」
「大金をもらったら、この子は寄付しないといけないんだ。それが、聖職者の決まりだからね」

 はい。我々は金銭の授受があった場合、すみやかに教会へ寄付する必要があります。

「ウチが悪徳教会だったら、そうは考えないのですが。エンシェントがいる限り、不正は働けませんよ」

 お金なんてもらったところで、食費で消えていくだけ。
 教会で貧しい人のために活用してもらったほうが、有意義ですからね。

「だから、食事の提供が一番いいのさ。とくにシスター・クリスの場合はね」
「そんな。パン一個のために強盗を働く子どもではないんですから」
「じきにわかるさ。あんたもね」

 説明は以上だと、魔王はコーヒーをすすりました。

「決まりました!」
「うむ。何を食いたい?」
「候補は二つ。土鍋グラタンパスタと、キノコピザです!」

 指を二つ立てて、コールします。

「わかったよ。結構苦労するだろうから、二つとも頼みな」
「いいんですか?」
「代わりにケンカしてくれるんだ。お安い御用さ」
「ありがとうございます!」
「よし、商談成立だな」

 魔王が唐突に、ホテルの窓を開けました。

 相当、高いところです。この街の全景が見えますね。

「ドレミー、彼女を乗せてってやんな」
「承知しました」

 一礼して、ドレミーさんが窓からダイブしました。
 かと思えば、巨大なドラゴンの姿に。

「どうぞ乗ってください。魔王ルーク・オールドマンの城は、ここから見える山の頂上ですので」
「はい。ありがとうございます」

 わたしはジャンプして、ドレミーさんの背中に乗りました。

 ドレミーさんが、どんどん加速していきます。
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