メカクレ根暗少女が、サイクロプス魔王と契約して魔獣少女になり、魔界の頂点を目指す! でも、キャットファイトだなんて聞いてませんが!?

椎名 富比路

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第四章 魔獣少女とお嬢様! 本当の敵は!?

第34話 魔獣少女の涙

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 どけアマチュアとでも言いたげな視線で、男はわたしを睨む。

来栖クルスさん?」
「イヴキ様には、指一本振れさせない!」

 男のナイフが、軌道を変えた。まずはわたしを狙う。

 これを待っていた。動きの早そうな相手を倒すには、動きを止めること。

 わたしは、脇の下で相手の腕を取る。

 反対の手から、敵がナイフを取り出す。また刺しにかかった。

 相手の太ももを踏みつけ、反対の足でアゴを蹴り上げる。

 護身術の基本なら、本当は逃げるべき。しかし、素人がプロ相手に逃げられるとは思えない。ここで仕留めないと。

「痛う!」

 わたしの足に、激痛が走った。相手がナイフで、わたしのモモを刺したのだ。

 だが、これでいい。両方の武器を奪った。

「フーッ! フーッ! フン!」

 わたしは、相手をスープレックスで投げ飛ばす。できるだけ、頭を地面へ落とす形で。

 反撃してこようとしたが、敵は頭がまともに地面へとめり込んだ。

「お父さん、確保を!」

 父が駆けつけてきたのを見て、わたしは大声を上げる。

 殺し屋の手に、手錠がかけられた。あとは、他の警官に引き渡される。

 犯人も抵抗しない。女子高生に負けたのが、よほどショックだったのだろう。完全に、怯えきっていて。

 わたしも父も、汗だくである。

「みんなは無事ですか?」
「お前以外はな」

 安心して、わたしは腰を抜かした。

 力が抜けたわたしを、父が抱きしめる。

「どうしてこんな無茶をした、ヒトエ!? いつも逃げろって言ってるだろ!」
「友だちが、ピンチだったので」
「とにかく、病院へ行くぞ」

 結局遠足は中止となり、わたしは救急車で運ばれた。

 簡単な治療を受けて、わたしは退院する。

 松葉杖をついて、フロントのソファで母の車を待った。

「ふう、危ないところでした」
『バカが、ヒトエ。危ないなんてレベルじゃねえよ。死ぬところだったぜ』

 自分でも、バカなことをしたと思う。

 魔獣少女の力を使わずに倒すことが、これほど怖いものだったとは。

『なんで魔獣少女にならなかった?』
「みんながいたので」
『大バカ野郎すぎるぜ。気にせずぶっ飛ばせばよかったんだ。でなければ、オヤジのいうとおり逃げればよかった』
「あのとき戦わなかったら、イヴキ様は相手を殺してた!」

 わたしは、声の限り叫んだ。

 ナースに注意されて、声を落とす。

「父も、人の生き死にに関わったことがあったと聞きました。一生、心に残るんだって。そんな思いを、イヴキ様にはしてほしくない。絶対に」

 涙をこらえ、わたしは感情を吐露する。

『ウワサをすれば、だぜ』

 イヴキ様のリムジンから、ユキちゃんたちが飛び出してきた。

「ユキちゃん?」
「ヒトエちゃん! 大丈夫……じゃないよね?」
「ええ。骨には届いていないので、一応は無事」
「でも、ダメだよこんなケガしたら!」
「はい。気をつけるね」

 泣きじゃくるユキちゃんの頭をわたしは撫でる。

 ユキちゃんの後ろに、イヴキ様が立っていた。

 悲しみと後悔、いろんな感情が混ざったような顔をしている。

「イヴキ様」
「みなさん、少しだけ二人きりにさせてくださいまし」

 イヴキ様が、わたしの手を引く。自販機コーナーまで連れて行った。わたしに「どうぞ」と、オレンジジュースを渡す。

「ごめんなさい。遠足をダメにしてしまって」
「あなたのせいではありません。謝るのは、わたくしの方ですわ。ここではあなたを、治せませんの」

 スポドリを飲んで、イヴキ様が一息ついた。

「わかっています」

 ヘタに治療すると、怪しまれる。

「助けていただいて、ありがとうございました」

 そうは言うが、イヴキ様の声に感情はこもっていない。

「いえ。わたしは、あなたの仇を奪ってしまった」

 おそらく、イヴキ様がわたしを呼んだ理由はそれだ。


 わたしは、彼女の生きがいを奪った。


「いいのです。わたくしはあのとき、動けませんでしたわ」

 イヴキ様が、スポドリのボトルを取り落とす。

 感情の塊が、イヴキ様の瞳からこぼれ落ちた。
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