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第一章 宗教勧誘から助けた元上司が、ボクに「いっしょに住んでくれ」と頼んできた。
元上司を、宗教勧誘から助けた
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今日の仕事も、散々だったな。
ボクって、必要なのかどうかわからん。
まあいいさ。次に繋がったらいいよね。
日頃から自炊を心がけているが、今日は身体が動かない。なにより、献立の頭があんまり回らないのがねぇ。
というか、今日は惣菜がめちゃめちゃ食べたい気分である。
こうなったら、欲望に従ったほうがいいって相場が決まってんだよね。
自炊はあきらめて、最寄りのスーパーで惣菜を、と。
「ん?」
あれは、穂村 亜紀子さんじゃないか。
ボクの元上司で、最近仕事をやめた。
仕事中はキリリとしていた顔立ちも、どこか影を潜めている。
困り顔で、誰かの応対をしている。
同性ではあるが、ナンパではない。
なんか、迷惑そうなヤツに絡まれているようだ。ご近所トラブルか?
「あなた! 最近、幸せが遠のいていませんか? それは、財産が有り余っているからです! 今すぐこちらへ入信なさい! 今ならスマホのコミュニケーションアプリから気軽に……」
「ああ、はいはい。さよならー」
ボクはさりげなく、二人の間に割って入る。
「なんですか、あなたは!? 神への奉仕を無視なされば、災いが降りかかりますよ」
「間に合っています。それでは」
「お待ちなさい! このままだとあなたは!」
おばさんはなおも食い下がっていたが、車に水たまりの水をぶちまけられていた。
「なにをする、貴様! 神に向かって!」
おばさんの怒りは、車の方に向いてくれたようである。
「今のうちに」
「ありがとう、沖くん」
「どうってこと、ありませんよ」
手っ取り早く、ボクは穂村先輩をカフェへと誘った。
「ボクといっしょなんてイヤかも知れませんが、ガードがいたほうがいいでしょう」
「とんでもない。助かる」
手頃な純喫茶を見つけて、避難する。
仕方ないので、夕飯はここで食べることに。
ナポリタンとライスを、注文する。ドリンクは、メロンソーダ。
だが、穂村さんは何も食べようとしない。
「なにも頼まないんですか?」
「お金を使うのが怖い病に、なっていてな」
穂村さんはサイドFIRE、つまりセミリタイア勢だ。
会社を退職して、今は副業で食べていると聞いた。
「老後に備えてしまうんだ。老後なんて、まだだいぶ先なんだけどな」
先輩はまだ、二八にも満たない。なのに、将来をちゃんと考えているんだ。ボクと違って。
「私が頼まないのも、悪いな。すいません。ホットコーヒーをください」
「すいません、エビグラタンと、チョコケーキも追加で」
店員さんは驚いていたが、ボクは構わず頼む。
「それより、なんすか。あれ?」
「宗教だ。『セミリタイアした人たちを集めるセミナーに行った帰りだ』といったら、勧誘されてな」
うわー。
「金持ちって、バレちゃったんですね?」
「そうなんだ。会社員時代は脳もシャキッとしていたから、あんなのはスルーできたのだが。昼間からブラブラしているからか、頭が回っていない」
「結構深刻ですね。FIREって、やっぱりヒマを持て余すもんですか?」
「そうだな。三ヶ月もすると、脳が鈍る」
楽しかったのは、最初の一ヶ月だけだったとか。
ひたすら溜まっていたアニメや映画、ゲームを楽しんだという。
まったく寝ずにゲームをして、気がつけば朝という日々だったそうな。
うらやましい。学生の夏休みのようだ。
「しかし、二ヶ月目に突入した途端、することがなくなってしまった」
もともとアニメも倍速で見る人だったので、数カ月もしないうちに見尽くしてしまった。
ゲームもやりきってしまい、スマホゲーにも手を出しかけたらしい。
「そんなに?」
「やはりゲームやアニメというのは、忙しい合間を縫って遊ぶのが楽しいのだと悟ったよ」
料理がやってきた。
「ん?」
ボクは、エビグラタンを先輩に差し出した。
「頼んでいない」
「どうぞどうぞ。好きだったでしょ?」
「好物だが。よく覚えていたな」
「会社の立食パーティで、よく食べてらしたので。あと、チョコケーキも」
食欲はないかも知れないが、今は腹に何かを入れたほうがいい。
「悪いな。いただきます」
やはりエビグラタンが好物なのは、本当のようだ。子どものように、ウッキウキで食べている。
「よかった。元気になって」
「人と会話すること自体が、もう久しぶりなんだ」
「そうなんですか? 副業してるんですよね?」
「ほぼ、メールのやりとりだけだ。ライターだからな」
穂村先輩の副業は、よくわからない。取材して一から記事を書くのか、テープ起こしなのかも知らなかった。
稼いでいるのは、たしかだけど。
「セミナーだって、ほとんど私は話していない。人の会話を聞いて、参考にするだけだった。まったく、サンプルとして機能しなかったが」
空気が違いすぎて、まるで話について来られなかったそう。
「でも、金持ちってのがどういう習性なのかは、あるていどわかる。例えば、キミのケースもだ」
「ボクの?」
「キミも、相当溜め込んでいるだろ?」
穂村さんは、ボクのお財布事情をズバリ言い当てた。
「チープな腕時計、地味な服装、あまり目立たない小物など、ムリに、人の価値観に合わせようとしていないスタイル。キミは、ある程度自力で財産を築いたんじゃないか?」
「お見事です。そのとおりですよ」
たしかにボクは、ある程度資産運用をしている。
中学の頃から。
ボクって、必要なのかどうかわからん。
まあいいさ。次に繋がったらいいよね。
日頃から自炊を心がけているが、今日は身体が動かない。なにより、献立の頭があんまり回らないのがねぇ。
というか、今日は惣菜がめちゃめちゃ食べたい気分である。
こうなったら、欲望に従ったほうがいいって相場が決まってんだよね。
自炊はあきらめて、最寄りのスーパーで惣菜を、と。
「ん?」
あれは、穂村 亜紀子さんじゃないか。
ボクの元上司で、最近仕事をやめた。
仕事中はキリリとしていた顔立ちも、どこか影を潜めている。
困り顔で、誰かの応対をしている。
同性ではあるが、ナンパではない。
なんか、迷惑そうなヤツに絡まれているようだ。ご近所トラブルか?
「あなた! 最近、幸せが遠のいていませんか? それは、財産が有り余っているからです! 今すぐこちらへ入信なさい! 今ならスマホのコミュニケーションアプリから気軽に……」
「ああ、はいはい。さよならー」
ボクはさりげなく、二人の間に割って入る。
「なんですか、あなたは!? 神への奉仕を無視なされば、災いが降りかかりますよ」
「間に合っています。それでは」
「お待ちなさい! このままだとあなたは!」
おばさんはなおも食い下がっていたが、車に水たまりの水をぶちまけられていた。
「なにをする、貴様! 神に向かって!」
おばさんの怒りは、車の方に向いてくれたようである。
「今のうちに」
「ありがとう、沖くん」
「どうってこと、ありませんよ」
手っ取り早く、ボクは穂村先輩をカフェへと誘った。
「ボクといっしょなんてイヤかも知れませんが、ガードがいたほうがいいでしょう」
「とんでもない。助かる」
手頃な純喫茶を見つけて、避難する。
仕方ないので、夕飯はここで食べることに。
ナポリタンとライスを、注文する。ドリンクは、メロンソーダ。
だが、穂村さんは何も食べようとしない。
「なにも頼まないんですか?」
「お金を使うのが怖い病に、なっていてな」
穂村さんはサイドFIRE、つまりセミリタイア勢だ。
会社を退職して、今は副業で食べていると聞いた。
「老後に備えてしまうんだ。老後なんて、まだだいぶ先なんだけどな」
先輩はまだ、二八にも満たない。なのに、将来をちゃんと考えているんだ。ボクと違って。
「私が頼まないのも、悪いな。すいません。ホットコーヒーをください」
「すいません、エビグラタンと、チョコケーキも追加で」
店員さんは驚いていたが、ボクは構わず頼む。
「それより、なんすか。あれ?」
「宗教だ。『セミリタイアした人たちを集めるセミナーに行った帰りだ』といったら、勧誘されてな」
うわー。
「金持ちって、バレちゃったんですね?」
「そうなんだ。会社員時代は脳もシャキッとしていたから、あんなのはスルーできたのだが。昼間からブラブラしているからか、頭が回っていない」
「結構深刻ですね。FIREって、やっぱりヒマを持て余すもんですか?」
「そうだな。三ヶ月もすると、脳が鈍る」
楽しかったのは、最初の一ヶ月だけだったとか。
ひたすら溜まっていたアニメや映画、ゲームを楽しんだという。
まったく寝ずにゲームをして、気がつけば朝という日々だったそうな。
うらやましい。学生の夏休みのようだ。
「しかし、二ヶ月目に突入した途端、することがなくなってしまった」
もともとアニメも倍速で見る人だったので、数カ月もしないうちに見尽くしてしまった。
ゲームもやりきってしまい、スマホゲーにも手を出しかけたらしい。
「そんなに?」
「やはりゲームやアニメというのは、忙しい合間を縫って遊ぶのが楽しいのだと悟ったよ」
料理がやってきた。
「ん?」
ボクは、エビグラタンを先輩に差し出した。
「頼んでいない」
「どうぞどうぞ。好きだったでしょ?」
「好物だが。よく覚えていたな」
「会社の立食パーティで、よく食べてらしたので。あと、チョコケーキも」
食欲はないかも知れないが、今は腹に何かを入れたほうがいい。
「悪いな。いただきます」
やはりエビグラタンが好物なのは、本当のようだ。子どものように、ウッキウキで食べている。
「よかった。元気になって」
「人と会話すること自体が、もう久しぶりなんだ」
「そうなんですか? 副業してるんですよね?」
「ほぼ、メールのやりとりだけだ。ライターだからな」
穂村先輩の副業は、よくわからない。取材して一から記事を書くのか、テープ起こしなのかも知らなかった。
稼いでいるのは、たしかだけど。
「セミナーだって、ほとんど私は話していない。人の会話を聞いて、参考にするだけだった。まったく、サンプルとして機能しなかったが」
空気が違いすぎて、まるで話について来られなかったそう。
「でも、金持ちってのがどういう習性なのかは、あるていどわかる。例えば、キミのケースもだ」
「ボクの?」
「キミも、相当溜め込んでいるだろ?」
穂村さんは、ボクのお財布事情をズバリ言い当てた。
「チープな腕時計、地味な服装、あまり目立たない小物など、ムリに、人の価値観に合わせようとしていないスタイル。キミは、ある程度自力で財産を築いたんじゃないか?」
「お見事です。そのとおりですよ」
たしかにボクは、ある程度資産運用をしている。
中学の頃から。
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