1 / 1
たそがれさんの秘密
しおりを挟む
窓際族の蘇我は、入社以来褒められたことがない。
また、怒られることもなかった。
飲みに誘われることも。
誰が呼んだか、蘇我は社内で「たそがれさん」よ呼ばれている。
ただ、彼はときどき妙なのだ。
「蘇我さん、聞いてよ」
昼食時である。
バリバリキャリアウーマンの課長が、蘇我に相談を持ちかけたのだ。
鮭定食を消化していきながら、蘇我は単に「はい。はい」と相槌を打つだけ。
きっと、愚痴を聞かされているか、ミスをねちっこく指摘されているのだろうと誰もが考えた。
「いやさ、ちょっと聞いたことがあるんだけど」
蘇我についてウワサをする。
どうも蘇我は、不倫しているらしいと。
彼の机は広いのに、何も載っていない。
ノートPCでできる作業だけなので、それさえ片付けてしまえばいいのだ。
そのデスクをベッド代わりに、情事を行っているのでは、と。
「それも、すっげえテクニシャンらしい」
若手社員のウワサに、他の社員たちは「まさか!」と笑う。
こんな蘇我でも、家庭がある。社内で浮いた噂も聞かない。
「いやでもさ、何の変哲もない人が殺人鬼だったりするじゃん。蘇我さんだって、どんな趣味があるかってことだよ」
「蘇我さんに限って、ないでしょ。バカバカしい」
結局社員たちは誰も、謎めいた蘇我の実態を知らない。
アフター六になり、他の社員たちが帰っていく。
蘇我はひとり、「残業」のために残っていた。
そこに、昼に語りかけてきた課長が。
「お願い」
艶めかしい声で、課長は蘇我のデスクを折りたたむ。
蘇我のデスクは、折りたたみ式になっているのだ。
その下に、シートを敷く。
シートの上に、課長は横たわった。服を脱ぎながら……。
ネクタイを緩めて、蘇我もワイシャツを脱ぐ。
「ここですか?」
「ええ、そうよ。いいわ……」
課長が、うっとりした声を漏らす。
自分より一五も年上の男性に、課長は翻弄されていた。
これが、ずっと窓際でくすぶっていた男性のテクニックかと。
ときに大胆なポーズを取らされて、課長は乙女のように恥じらう顔を見せる。
「普段使わないトコロを攻めるのが、ポイントなんですよ」
「そうなの? 家でも試してみるわ……」
「それがいいです」
段々と、二人の息が荒くなっていく。
動きもだんだんと、激しくなってきた。
「もうだめ」
「いやいや、もっとできますよ。ラスト一回」
「ムリよ。もうできない」
「大丈夫。課長はステキな方です。まだまだいけますよ」
二人の息がリズミカルになっていく。
限界が、近い。
「う~ん」
「これで、ラストです!」
『びくとり~っ!』
折りたたんだデスク状のモニタで、ゲームキャラクターがダブルバイセップスを決めた。
課長の手に持っているのは、鉄アレイ型のコントローラーである。
彼女は、女子社員相手にフィットネスゲームをしていたのだ。
蘇我は、課長のコーチを務めていた。
「ふわあああ。わたし、達成したわ」
ようやく、課長は今までクリアできなかったステージを越したのである。
「ありがとう、蘇我さんのおかげよ」
「いえいえ。息子がやらなくなったゲームの使いみちを、応用しただけですよ」
控えめに、蘇我さんは語った。
「では、また来週」
「はい」
蘇我は、次の予定表を確かめる。
「明日は、専務ですね」
汗を拭くため、ランニングを脱ぐ。
そこには見事なシックスパックが。
また、怒られることもなかった。
飲みに誘われることも。
誰が呼んだか、蘇我は社内で「たそがれさん」よ呼ばれている。
ただ、彼はときどき妙なのだ。
「蘇我さん、聞いてよ」
昼食時である。
バリバリキャリアウーマンの課長が、蘇我に相談を持ちかけたのだ。
鮭定食を消化していきながら、蘇我は単に「はい。はい」と相槌を打つだけ。
きっと、愚痴を聞かされているか、ミスをねちっこく指摘されているのだろうと誰もが考えた。
「いやさ、ちょっと聞いたことがあるんだけど」
蘇我についてウワサをする。
どうも蘇我は、不倫しているらしいと。
彼の机は広いのに、何も載っていない。
ノートPCでできる作業だけなので、それさえ片付けてしまえばいいのだ。
そのデスクをベッド代わりに、情事を行っているのでは、と。
「それも、すっげえテクニシャンらしい」
若手社員のウワサに、他の社員たちは「まさか!」と笑う。
こんな蘇我でも、家庭がある。社内で浮いた噂も聞かない。
「いやでもさ、何の変哲もない人が殺人鬼だったりするじゃん。蘇我さんだって、どんな趣味があるかってことだよ」
「蘇我さんに限って、ないでしょ。バカバカしい」
結局社員たちは誰も、謎めいた蘇我の実態を知らない。
アフター六になり、他の社員たちが帰っていく。
蘇我はひとり、「残業」のために残っていた。
そこに、昼に語りかけてきた課長が。
「お願い」
艶めかしい声で、課長は蘇我のデスクを折りたたむ。
蘇我のデスクは、折りたたみ式になっているのだ。
その下に、シートを敷く。
シートの上に、課長は横たわった。服を脱ぎながら……。
ネクタイを緩めて、蘇我もワイシャツを脱ぐ。
「ここですか?」
「ええ、そうよ。いいわ……」
課長が、うっとりした声を漏らす。
自分より一五も年上の男性に、課長は翻弄されていた。
これが、ずっと窓際でくすぶっていた男性のテクニックかと。
ときに大胆なポーズを取らされて、課長は乙女のように恥じらう顔を見せる。
「普段使わないトコロを攻めるのが、ポイントなんですよ」
「そうなの? 家でも試してみるわ……」
「それがいいです」
段々と、二人の息が荒くなっていく。
動きもだんだんと、激しくなってきた。
「もうだめ」
「いやいや、もっとできますよ。ラスト一回」
「ムリよ。もうできない」
「大丈夫。課長はステキな方です。まだまだいけますよ」
二人の息がリズミカルになっていく。
限界が、近い。
「う~ん」
「これで、ラストです!」
『びくとり~っ!』
折りたたんだデスク状のモニタで、ゲームキャラクターがダブルバイセップスを決めた。
課長の手に持っているのは、鉄アレイ型のコントローラーである。
彼女は、女子社員相手にフィットネスゲームをしていたのだ。
蘇我は、課長のコーチを務めていた。
「ふわあああ。わたし、達成したわ」
ようやく、課長は今までクリアできなかったステージを越したのである。
「ありがとう、蘇我さんのおかげよ」
「いえいえ。息子がやらなくなったゲームの使いみちを、応用しただけですよ」
控えめに、蘇我さんは語った。
「では、また来週」
「はい」
蘇我は、次の予定表を確かめる。
「明日は、専務ですね」
汗を拭くため、ランニングを脱ぐ。
そこには見事なシックスパックが。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる