カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第一章 美人社長とゲームを一緒に遊ぶのは辞令ですか?

クビ宣告(?)は、突然に

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花咲はなさき! まったくどうしようもないな、キミは」

 課長の怒鳴り声は、部署じゅうに轟いている。

「すんません」

 ぐうの音も出ない。

「みんな給料をもらうために頑張っているんだ。それを、キミときたら、いったい会社をなんだと……」

「はい、はい」

 オレは頭を下げっぱなしだった。

 同僚たちも、我関せずと視線を合わせようとしない。

「しかも、本社の社長に睨まれるなんて! 私の首にもしものことがあったら、末代まで呪ってや……」

 けたたましく、電話の音が鳴り響く。

「なんだ! この忙し……あわわ社長!?」

 威張り散らしていた課長の態度が、電話のヌシによって急変する。
 一気に縮み上がり、小声で「はい、はい」と返答する機械に変わっていた。

「花咲、本社の社長がお呼びだそうだ」

「あーっ……クビッスかね」

「知らん。とにかく社長室へ行け。場所は知ってるよな?」

「はい」

 トボトボと、オレはその場を後にする。

「いつかはこうなると思ってたよ、電太でんた

 道すがら、机に座る太っちょの同僚から冷たいジョークが飛ぶ。

「お前がいなくなると、社内の空気が悪くなるから困るんだけどな。しかし、今回はさすがにフォローできん」

 オレもさすがに、苦笑いしか出ない。

「そうですよ。そもそも花咲先輩は、自由人過ぎです。その分、営業先からのウケはいいんですけどねっ。私も何度か助けられたし」

 女性の後輩からも、突き放された。
 投げつける言葉も、褒められているのか軽蔑なのかよくわからない。

「戻ったら、辞表の書き方を練習しないとな」

「死にたくなったら言えよ。HDのデータはもらってやるから」

「いらん。死ぬつもりなんてないやい」

 オレは太っちょに舌を出す。

「電太、いい転職先がある。ゲームライターのギャング梶原が、編集を募集してるぞ。お前ならイケるかも」

 ありがたい申し出だが、と断りを入れて、オレは首を横に振った。

「ゲームを仕事にするつもりはないかなぁ。あくまでも遊びというスタンスを貫きたい」

「わかった。戻ったら、何があったか教えてくれ」

「うい」

 同僚たちに手を振って、オレは社長室へ。
 これが今生の別れになるかも。

 エレベーターに乗りながら、気持ちを落ち着かせる。

 大昔に見たヒーロー映画に、悪徳エンジニアが出ていたのを思い出す。
 そいつは悪いボスに横領がバレて、悪事を働かざるを得なくなった。
 彼も、こんな気持ちだったんだろうな。

 ノックをすると、「入りたまえ」と威圧的な声が。

「失礼しまーす……」

 オレは、木製の扉をあける。

 広い。おそらく小さめの柔道場くらいはある。
 しかし、テレビドラマでよく見るだだっ広い部屋を連想させた。
 気が遠くなる。

 窓に視線を向けているのは、タイトスカート姿の女性だ。
 飯塚いいづか 久里須くりす、オレの勤めるニコラ社のトップである。

 壁は、一面が姿見になっていた。

 飯塚社長とオレの姿が、鏡状の壁に移る。

 遠い。これが、オレと社長の距離である。
 
 相手はオレより、二学年年上だ。
 しかし影響力は、三年と一年なんててレベルではない。
 二歳しか違わないのに、どうしてここまでの差があるのか。

「花咲 電太、ただいま参りました」

「秘書の麗花れいか・グレースです」

 眼鏡をかけた中年の女性秘書が、オレに一礼をした。
 左手の薬指に、指輪がしてある。

「花咲さん。本日お呼び立てした理由は、ご存じですね?」

「は、はあ」

 クビ宣告ですよねぇ。

 もう一度、姿見に視線をそらす。
 さらばスーツ姿のオレよ。
 生まれ変わったら勇者にでも転生したいよねえ。

「花咲くん」

 社長が、オレに振り返る。

「はいっ」

「キミはゲームは得意か?」

「ま、まあまあです。腕は大したことないですね。プロ級ではありませんが、人よりはプレイしている方かと」

 正直に答える。
 ここでイキって「ゲームなら大得意ですよぉ。シューティングや格ゲーなら、全国一位です!」なんてウソをついてみろ。
 虚言が発覚したら、たちまち処刑だろう。

「じゃ、ゲームは好きか?」

「たいだい、どのゲームも偏見なく遊ぶタイプですかね」

 好き嫌いは、とにかく遊んでから決める方だ。そう告げた。
 それと会社と、何が関係あるのだろう?

「キミに折り入って、頼みがある」

「なんでしょう?」

 よかった。クビじゃない。

「この度、我がニコラ社は新しい部署を設けたいと考えている。アミューズメント系だ。そのアドバイザーとして、キミを迎えたい」

「マジですか?」

 ゲームが趣味なヤツがなりたい職業、そのトップクラスにオレはなれるのか。すげえ。

「お願いできるか?」

「……条件によります」

 何を言ってるんだ。
 ここは二つ返事で「はい」だろうが。
 ゲームする時間がなくなるのが、そんなに惜しいか?
 いや、惜しいのだ。本能ではそう言っている。

「頼む。キミしかいないんだ!」

 社長がなぜか、オレにしがみついてきた。

 やめてください。色々柔らかいモノがオレの足に当たっているので!

「頭を上げてください社長」

 できれば、振りほどきたい。
 が、ケガをさせるわけにもいかないよな。
 オレはなすがままに。

「私と一緒に、ゲームを遊んでくれないか!」

「はあ……」

 状況が、理解できない。 
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