カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第一章 美人社長とゲームを一緒に遊ぶのは辞令ですか?

カリスマ様がみてる

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「つまり、このキャラクターを操っているプレイヤーのことだよ」

 見ず知らずの人に、中の人の説明を語る。
 よく見ると、奇妙な光景だよな。

「ああ、それは、申し訳ない……」

 ペコリと、2Dのキャラが頭を下げる。
 アバターに実装されているエフェクトの一種だ。

「あんた、中身も女性なんだろ? オレが出会いちゅ……コホン、交際目的に近づいたと思うんだったら、身を引きますが」

 また、『出会い厨』なんて専門用語が出そうになった。

「じゃあ、オレは行くから」

 さっさとダンジョンへ行こう。

 と思ったが、サムライが行く手を遮る。

「いやあ、あなたはそんなタイプに見えないな。引き続きレクチャーをお願いしたい! それと、私に敬語は不要だ」
「わかりま……わかった。じゃあパーティを組もうぜ」

 まずオレは、自分の所持していた『ショートソード』をイーさんに渡す。
 初期にコボルドを殴って手に入れたドロップアイテムだ。

「ハナちゃん殿、サムライの私に西洋剣は装備できないのでは?」

 その段階からか。

「いいんだよ。持ってみな」

 半信半疑で、イーさんはショートソードを持つ。

「おお、装備名が変わった」

 剣はたちまち、『小刀』へと変換された。

 このゲームは、「同種類の装備なら、職業ごとの武装に変換される」のである。
 これにより、ファンタジー的な雰囲気は壊れず、「特殊な職業だと装備できない」といったキャラごとの差も出ない。

「これで振りが早くなる。当分はこれで戦闘をやろうか」
「うむ。かたじけない」

 また、イーさんのアバターが頭を下げる。

「課金して手に入れた上質の刀だが、やむを得ない。しばらくは封印だな」
「強くなったら、より強力な刀をドロップできるよ」

 課金や店売りに頼るより、さっさと戦場に出てレベルを上げた方が覚えは早い。
 それが、このゲームの特徴だ。
 無駄に長いチュートリアルがないのも、魅力である。
 そのせいで、イーさんのような初心者は路頭に迷うのだが。

 またスライムの集団が、こちらへ近づいてくる。

「頭で考えるより、戦って肌で覚えよう」
「よし。やるぞ」

 あれだけタイピングが早いのだ。コツさえ掴めば楽勝だろう。

「とうっ。はっ。やっ! すごいすごい。スパスパ倒せるぞ!」

 振りが早くなったイーさんは、自分を取り囲むスライムをバシバシやっつけていく。

 オレの見込んだとおり、イーさんは飲み込みが早かった。
 あれだけ苦戦していたスライムに囲まれても、どうにか生き延びる。

「魔法も覚えたぞ」

「……魔法のレベルが上がったんだ。『ヒール』と『ファイアーボール』は、誰でも持ってる初期装備なんだけど」

 レベルが三になったあたりで、イーさんは仕事に戻ると言い出す。

「今日はありがとう。また潜ることがあったら、ゲーム内で連絡する」

「わかった。そんときはよろしく。オレはもう少し強いところに行って、狩りをしてくる」

 イーさんと別れて、お目当てだった狩り場へ直行した。
 この間見つけた、レベル上げとアイテム堀りにちょうどいいダンジョンである。

 ずっとスライムばかりと戦っていたから、知らぬ間にフラストレーションが溜まっていたようだ。
夢中になって狩りまくる。


          ◇ * ◇ * ◇ * ◇

 
 みんなが休憩を終える中、オレはソロ狩りをしていた。
 辞めどきが見つからない。しかも、セーブ禁止とか出ている。
 
 これは本格的にマズイかも。
 とはいえ、手を止められない。

「あとちょっとは、もうヤバい」という教訓をオレは頭から除外していた。危険な兆候である。

 
「花咲、さっさと仕事に戻れよ。お前、タダでさえ課長に睨まれてるんだからな」

「ういーっす。もうちょっとだけ潜るわー」

 しかし、そろそろ頃合いかなと思っていた時点で、昼休みが終わっていた。

「こらぁ花咲ぃ! 花咲はなさき 電太でんたはおるか!?」

 中年オヤジが、社食に入室してわめいている。
 課長だ。
 俺を探しているみらしい。

「まーたサボッとるのか! どこだ花咲ぃ!」

「やべ! さっさとログアウトして」
 
 オレはアイテムボックス内から、セーブ先へワープするアイテムを探す。
 しかし、こんな時に限って見つからない。

「あれ、どこだっけ?」

「あれ、どこだっけ?」

 どこへやってしまったか、思い出せない。

 しまった。イーさんに一個あげちゃったんだ。自力で帰らねば。

 大急ぎで、ダンジョンを駆け抜ける。敵なんか無視だ無視。


「もうすぐ、もうすぐ出口だ! あっ!」
  

 まだログアウトしていないのに、ノートPCがパタンと閉じてしまった。
 正確には、何者かの強い力で畳まれたのである。


「おい何をす――」

 てっきり課長の仕業かと思った。
 しかし違う。
 目の前にいるのは、スタイルのいい女性だ。

 すぐ目の前に、大胆なスリットの入ったタイトスカートが見えた。
 二七という若さの中に、威圧感が混じる。
 白いYシャツを突き破らんとするメロンカップの上には、眼鏡を掛けた鋭い眼光があった。


「えっ、イーさん!?」
 
 その姿は、さっきまでゲーム画面にいた、イーさんを想起させる。

「……!?」

 女性は首をかしげた。
 
 そこでオレはようやく、現実に覚醒する。

 目の前に立つ女性の正体を、思い出したからだ。

 我が社に君臨する若き覇王が、オレを見下ろしている。

飯塚いいづか久里須くりす社長……」

 社長とオレの目が合う。

 その瞬間、ゲーム内でハナちゃんがモンスターから攻撃を受けた。

「ぎゃー」と断末魔の叫び声を上げ、オレのアバターはダウンする。
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