カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第二章 スポーツはゲームに含まれますか?

子ども部屋おじさん

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「あ、の、これは、だな……」

 飯塚社長は弁解しようとする。

 そうだよ。オレたちはやましい関係では断じてない。

 オレと社長の状況を見て、突然グレースさんが頭を下げる。

「大変失礼致しましたっ。気が利きませんでっ」

 この人は何を言っているんだ?

「お楽しみの所をお邪魔してしまったみたいで」
「とんでもない。グッドなタイミングでした!」

 危うく過ちが起きるところでしたぞ! ナイスッ!

「充実した一日だったようですね?」
「ええ、どうも……」

 実に大変な一日でしたよ。

「用事が整いましたので、お宅へ……
「え、オレに用事って?」
「引っ越しの荷物を運び終えましたので。確認をお願いします」

 そっか、すっかり忘れていた。

 社長とトレーニングする前に、カギを預けていたのだ。朝早くから業者に、オレの荷物を全部持っていってもらっていた。

 オレの家はなんと、社長の隣である。

 ドアの前で、社長がソワソワしていた。

「なんです、社長?」
「部下のプライベートをのぞき見するのは、マナー違反だろうか」

 気にしなくてもいいのに。見られて恥ずかしいモノはない……たぶん。

「お気になさらず。どうぞ」

 立たせているのもなんだったので、オレは社長を家へ招き入れた。グレースさんも一緒だから、間違いは起きない。

「お邪魔します」

 クツを脱ぎ、飯塚社長スリッパに履きかえる。

「うわあ、初めてだ」
「男性の家に上がることが、ですか?」
「人の家に上がること自体が、ほぼ久しぶりかも。いや、むしろ初めてかもしれない」

 飯塚社長の口ぶりから、彼女がどういった生活を送っていたのか想像できた。誰も信用できない人生だったんだろうなぁ。

「気兼ねなく入ってしまっていいんだろうか?」
「遠慮しないで。どうぞどうぞ。お茶を淹れます」

 オレは食卓へ行く。しかし、すでにグレースさんがコーヒーを用意してくれた。

「勝手に使用させていただきました。ご不満でしたら」

 自分で淹れるより、一〇〇倍うまい。同じ粉を使ったというのに。

「ありがとうございます。今度、来客用のカップを買っておきますよ」

 本当、私物のカップしかないのが悔やまれる。

「間取りなどで問題がありましたら、やり直します。あと、貴重品などには触れていません」
「いや完璧です。ありがとうごさいました」

 通帳は全部電子だし、パスワード的なモノは全部リュックに入れてあった。ミニマリストを気取るつもりはないが、できるだけ身軽さを優先したのである。

「仕事で使う資料や衣類の他は、ゲームばかりでしたね」

 そのゲームも、今はほとんどネットで使えるモノばかりだ。いつどこに出張へ行かねばならないか、わからない。着替えも現地で揃えたりする。荷物は、極力減らしていた。

「コントローラーだけが、キレイだ。本当に、ゲームをするために帰ってくる場所だな」

 我が家のレイアウトを見て、社長はため息をつく。
 幻滅させてしまったかな。

「オレの家なんて、いわゆる『子ども部屋おじさん』ですよ」

 自嘲すると、飯塚社長は首を振った。

「子ども部屋おじさんといっても、自立しているわけだからいいだろう。自分の居場所があるのはいいことだ」

 腰に手を当てて、自分のコトのように誇らしげに言う。

「と、いいますと?」
「私には、自由がなかった」

 社長いわく、飯塚家には自分の居場所なんてなかったらしい。
 部屋には必ず誰かがいて、自分を監視・監督していた。

「グレースも、我がメイドの一人だったんだ。私が事業を立ち上げ、買い取った」

 ただ一人、グレースさんだけが気の許せる人だったという。

 しかし、窮屈な飯塚から抜け出したくてたまらなかったそうだ。

 JKになった途端、不満は一気に爆発した。資本金たった千円で会社を興し、スマホを介した事業を立ち上げる。

「始めはやはり、反発もあった。妨害だって、どれだけあったか。しかし、『マネーのクマ』で強力なバックやコミュニティ関係を結び、事業は成功したよ」

 自分で探しても、ロクなパートナーと巡り会えないと踏んでのことだった。半年で融資を返したのも、協力してくれた会社に被害が及ぶのを防ぐためだったとか。

 今の地位に至るまでどれだけの血を流したのか、想像も付かない。
 まして敵は身内。味方は誰もいない中で。

 オレが一六の頃って、何をしていた?

 ダメだ。ゲームの画面しか頭に出てこない。
 自己投資なんてまるで考えないで、二次元に逃げていたな。

「キミの部屋が子ども部屋なら、私のこのアパートなんて子ども部屋どころか自分専用の遊園地だな。居場所を、丸ごと買い占めたから」

 社長は苦笑いを浮かべる。

 これだけの建物を独占できるなんて、並みの努力じゃない。

「飯塚社長は、立派な方です。自分を貶めないでください」
「ありがとうハナちゃん。では失礼する。ゆっくり休んでくれ」

 コーヒーを飲み終えて、飯塚社長はカップをオレに返す。
 突然、グレースさんがオレに耳打ちしてきた。

「……え、それマジで言うんですか?」
「効果は抜群です」

 ひょいっと、グレースさんが脇へどく。

「ま……また遊びに来いよ、イーさん!」

 去り際の飯塚社長に向けて、オレは大声で告げた。
 オレの声に、社長が真っ赤な顔で「う、うん」と言う。

「はあっ。オレの心臓は持つのか?」

 二人が去った後、オレは一人でつぶやいた。

「よし、デパートまで行くか」

 とにかくだ。客が来てもいいように、上等なカップを買いに行かねば。
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