カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第二章 スポーツはゲームに含まれますか?

夜の運動?

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 昼は買い物に行き、大型デパート内で夕飯にした。前に社長が食っていた、ちゃんぽん麺をいただく。チェーン店なのにうまい。

 忘れずに、来客用のカップを買った。 
 オレのセンスは疑わしいが、きっと気に入ってもらえると思う。
 お茶菓子も、ちょっといいものを揃えるか。営業をやっててよかった。よそを参考にすればいいから。
 

 必要なモノは揃えた。帰って、ゲーム三昧といきますか。


 それにしても、業者の人はありがたかった。オレの間取りほぼそのままトレスしてくれたからな。

 新居だが、少しだけグレードが上がっている。
 
 エアコンは設置済み、契約せずともWi-Fiがアパート内で繋がる。デパートも近い。本社とも古巣の支社ともアクセスが容易だ。

「さてさて今度こそミステリのアドベンチャーゲームを、と」

 ゲームを立ち上げた。

 最初から、おどろおどろしいオープニングからスタートする。

 キャバクラ嬢が、企業の内部告発をしようとしていた社員と無理心中した現場から、物語は始まった。
 しかし、探偵であるプレイヤーは現場の不自然な状況に気づく。
 探偵は、被害者が勤めていた会社の女社長が怪しいと睨む。
 が、彼女も命を狙われていると判明した。
 重要参考人なので疑いを抱きつつ、探偵は彼女を守る決意を固める。

 複雑な心境だ。やるなぁ。

「よっほっやっ」

 壁の向こうから、女性の声が聞こえてきた。

 飯塚社長だろうか。ドタドタする音からして、フィットネスゲームを続けているらしい。

 それにしても、響くな。壁が薄い? いや、防音はバッチリのハズ。

 話が進むに連れ、このゲームにもややセンシティブなシーンが挿入される。アダルトめな絵柄なので、そこまで興奮はしない。あくまでも、場の説得力を持たせるためのシーンだ。 

「んあっ……んはあっ」

 あれ。このゲーム、音声がないよな。

 また、お隣の飯塚社長が運動中らしい。

「おいおいおい」

 よりによってどうしてゲームの方まで、「探偵と女社長とのラブロマンスシーン」なんて始まるかな。狙っているのか? 相手役の女社長も、どことなく飯塚社長に似ているし。

「はあっ、はあっ、はああっ!」

 待って待って待って……。暗転したシーンで、あえがないで社長! 

「ダメだ。集中できん」

 オレは、ゲームを中断した。やばいな、想像してしまいそうだ。

 少し落ち着こう。炭酸を飲んで、一息つく。別ゲーを立ち上げて、妄想を頭から追い払わないと。派手目なシューティングにしよう。脳を忙しくして、気分を変えることにした。

「あはあ、ん……」

 まだ聞こえてくるよぉ。

 集中力が切れたところで、自機が爆発した。

 骨伝導ヘッドホンは、ちょっと失敗だったかも。耳を塞がない分、他のノイズも拾ってしまう。
 かといって、耳を塞ぐタイプには戻す気はない。インターホンやスマホの連絡などが聞き取れなかったことが何度もあったからだ。
 ましてここは、社長の部屋も近い。いつ、この間のように呼び出しがあるか。

「はひい。あはあ」

 勘弁してくれ。ホントにゲームしてるのか? なにか、よからぬ行為をいたしているのでは?

「う~ん……ふ~んっ」

 飯塚社長の声は、オレに妙な妄想までさせた。絶対にあり得ない。なのに社長の声はオレの思考を歪ませ、変な期待をさせてしまう。

 いつの間にか、シューティングの手も止まっていた。もう、ゲームどころではない。炭酸を飲む勢いも増す。こんな時に酒でも飲めたら、声を気にせずぐっすりと眠れるのだろう。

「はあはあはあはあっ……はあっ!」

 段々、社長の声が乱れ、いや淫らになっていく。

 先日社長の裸を見てしまったばかりに、頭が社長のことで一杯になってしまう。

 オレが妄想でモヤモヤしていると、ドンドン! と強いノックオンが隣から聞こえてきた。

 社長が鍵を開けたらしい音がする。

「おお、まひるちゃんじゃないか」

 どうやら、「まひる」という女性が部屋に入ってきたらしい。

「ちょっとクリスねえさん! 窓を閉めて! 隣までHな声がまる聞こえッスよ!」
「そうか。スマンスマン!」

 ガラガラと、窓を閉める音が鳴った。そこから、向こう側の音が止む。

「窓が開いてたから、社長の音が聞こえてきていたのか」

 だとしたら。オレは慌てて、自室の窓を閉めた。よし、音は聞こえなくなったぞ。

 引き続き、ミステリを進める。だが、何も情報が頭に入らない。思考は乱れ、推理は悉く外す。結局「ひとつも真相が分からないまま未解決」という、最悪のバッドエンドを迎える。

 周回を続けようかと思ったが、やめた。真夜中の鈍った思考では、どうせ続けても同じだろう。

「今日はもう寝ようぜ」と、頭の中でつぶやいた。

 ぼんやりした脳を休ませるため、ベッドの中へ入る。 

 小さなボリュームで、『まひる』という女性が社長に説教している声がした。それはいつしか、雑談になっていく。

 まひるちゃんって、何者だろう? 妹さんかな? いや、確か飯塚 久利須くりすは一人っ子のハズだ。となると、お隣さんかもしれない。

 そういえば、隣の人にあいさつもしておかないと。しかし、GWが終わってからの方がいいだろう。向こうも旅行に行くかもだし。



 結局GW中は誰とも会うことなく、休むことができた。

 ときどき呼び出されて社長とゲームはしたが、ちゃんとグレースさんも一緒である。
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