カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第三章 打ち合わせ、やらないとダメですか?

ぴよぴよファミリー

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「お疲れさま」

 冷えたハイボールを、飯塚社長がマヒルさんへ渡す。

「あ~っ、緊張したぁ」

 戦い終わって、マヒルさんはハイボールを胃の中へと流し込んだ。さっきまで二時間飲みっぱなしだったというのに、彼女は自分の肝臓に容赦ない。

「全然緊張していた風には、見えなかったけれど?」
「何言ってんすか。この汗見て!」

 上着の革ジャケットを、マヒルさんが乱暴にはだけた。白いTシャツに、赤いスポブラがじっとりと透けている。胸は社長と違い、控えめだ。

 オレは残った寿司を皿へ移し、ラップする。明日の昼にまた食べようかな。寿司桶を洗って、外へ出す。

「今日はよくがんばったな。ごちそうしよう」
「焼肉がいいっす!」

 結構食べたと思ったが、まだ腹に入るか。若いなぁ。

「よしよし。ぴよ先輩一家も連れて行くから、小さい子どもが入ってもOKな店でいいか?」
「デザートの方に力を入れていようが、何でも入りそうなんで」

 とにかく、食べに行きたいらしい。

「グレース、条件に合う場所は?」
「ここから近い場所なら、席があるそうです」

 さすが秘書さん、もう予約を入れていた。

 次に、ぴよぴよさんのお宅へ。

「ぴよ先輩、これでいいだろうか? 赤ん坊を連れても煙くないぞ」

 社長が、ぴよぴよさんにスマホの画面を見せる。

「焼肉いいね。子どもがいると中々拝礼から。ありがとう」

 スマホの画面を見ると、ぴよぴよさんも快く同席してくれた。

「ただ、宴会席ではないんだ。席が別れてしまうが。他の店なら開いているが、煙たいぞ。赤ん坊には辛いかもしれん」
「話し合いするわけじゃないからね、別席でいいですよ」

 世間は、平日の午後だ。仕方ないだろう。

「ご同席ありがとうございます、奥様」

 ぴよぴよさんと同い年くらいの女性に、社長が声をかける。
 赤ん坊を抱きながら、ぴよぴよ夫人が笑顔を見せた。
 夕方になり、グレースさんの乗るバンで焼肉店へ。

「ふおお。このお店、バイクでよく横切るんですけど、入るのは初めてですっ」

 もうマヒルさんが、ヨダレを垂らす。

 オレはまず、ドリンクバーへ。
 みんなの飲物を淹れつつ、周囲を見渡す。

 お店の商品は、焼肉だけじゃない。アイスや寿司、カレーなども扱っている。もう寿司はいいかな。カレーは気になっているが。

「はいどうぞ。社長とグレースさんは、お茶でいいですね?」
「ありがとう」

 オレの向かいに飯塚社長が、隣はグレースさんの順である。

 山盛りの肉を載せた皿を持って、マヒルさんは社長の隣に座った。

 ぴよぴよさんご一家は隣の席で親子水入らずだ。まだ肉が食えない赤ん坊は、潰した焼き野菜を食べさせてもらっている。

 マヒロさんのハイボールが来て、いよいよ乾杯に。

「では楽しんでくれ」

 社長からの軽い挨拶の後、歓談となった。

 見たこともないぶ厚い肉を、マヒルさんが豪快に焼き始めた。肉を焼いても、煙が出ないタイプのロースターだ。これなら、赤ん坊連れでも安心だな。

「こんなタン、見たことないですよ」
「あたしもっすよ」

 焼き上がったところで、レモンを掛けてパクリ。

「うわあ、成功者の味です」
「どうなんだろうな。でも、たしかにうまい」

 豪快な食いっぷりのマヒルさんとは対照的に、飯塚社長は上品に肉を口へ運ぶ。

 さすがグレースさんだ。いい店を知っている。本格焼肉で赤ん坊連れOKの店なんて、チェーン店くらいだろう。しかし、その編み目をくぐってナイスな店を選んでくれた。

「遠慮するな。好きなだけ食べればいい」
「ごちそうになります、社長」

 オレは遠慮したが、マヒルさんは「あざっす」とだけ言って、ハイボールとカルビをパクパク放り込む。

 ライス片手に、オレはじっくりとロースを育てては巻いて食べている。オレはこれでいい。

 飯塚社長とグレースさんは、あまり箸が動いていなかった。ホルモン系をチビチビ食べている。オレたちの食い振りを見ているのが、楽しいんだとか。

「グレース。家族も連れてきたらよかったのに」
「家族は社員ではないので、お気になさらず。家は家で、FPSの公式大会で盛り上がっているので」

 グレースさん一家は、揃って相当のゲーム中毒らしい。オレより重症だな。

「ぴよぴよ先生、今日はありがとうございました」

 次にオレは、ぴよぴよ夫妻にあいさつをしに行く。

「いえいえ。勉強になりました。妻が作ったキャラが生放送で動くのを、喜んでいます。ひめにこも、妻が産んだキャラなので」
「といいますと?」

 オレが質問すると、社長が代わりに解答した。

「そういえば、伝え忘れていたな。【ぴよぴよ】というのは、ユニット名なんだ。奥さんがメインのデザイナーなんだよ。奥さんが考えたキャラを、先輩が動画として動かすんだ」

日吉ひよし」さんご夫妻は、大学で同人誌サークルをしていた縁で結婚したという。ダンナさんが動画などの可動部門を。主な美術面は、奥さんが担当するのだとか。それで【ぴよぴよ】ねぇ。

「先輩は奥さんを食べさせるために、技術系のブラック企業にいてな」

 首になりかけていたところを、『ならば面倒を見ましょう』と社長が引っ張ってきたらしい。

「おかげで、子どもまで授かりました。後輩ながら、飯塚さんには頭が上がらないよ」と、ぴよぴよさん夫は優しい声で語る。
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