カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第四章 レトロゲーで懐かしみますか?

懐かしの制服

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「どうしたんです、社長?」
「あっ、これは、だなあ……」

 オレは社長から、「イラストレーターのぴよぴよ奥さんのお宅に来い」と言われて来た。

 お宅訪問してみると、セーラー服を着た社長が、ぺたんこ座りをしていたのである。スカートの丈が、やけに短くてきわどい。

「仕方ないのです。『ひめにこ』にセーラー服を着せるという名目ゆえ」

 グレースさんが、事情を説明してくれた。

 そういえば、打ち合わせでそんなこと言っていたっけ。ひめにこの差分が必要だとかなんとか。

「私もマヒルちゃんも、制服はブレザーだったんです。グレースさんに至っては、海外なのでねぇ。で、社長に絵のモデルになっていただこうと」

 ぴよぴよ夫人は、そう語る。資料がなかったので、社長が中学時代の制服を引っ張り出してきた、と。スカート丈がやたら短いのは、イラスト化に合わせて切ったらしい。

「コスプレ衣装でも、よかったのでは?」
「それだと安っぽさが前に出すぎて、望んだ質感が出ないんですよ。ここはこだわりたいんで」

 熱心なイラスト魂だ。ぴよぴよさんは妥協を許さないタイプらしい。
 セーラー服を着ながら、社長は恥ずかしがる。

「ひめにこなら、マヒルさんに着させ……あーっ」

 オレは黙り込む。

 モデリング自体、マヒルさんには無理だった。ひめにこのバストは、社長と同じ九二センチだから。ひめにこのスタイルは、社長に合わせているという。

「マヒルさんは?」
「寝てます。昼夜が完全に逆転してますね」

 夜からの配信に向けて、夕方までぐっすり眠っているそうな。マヒルさんのスケジュールは、夜から二一時までがひめにこ配信だ。それ以降は気まぐれで夜、中まで個人動画の配信だという。

「やはり、若くないから似合わないか……」

 ピッチピチの制服をつまみながら、社長はシュンとなった。

「似合ってます! 社長が化粧しているから、大人びて見えるだけです。それにしても……」
「胸がよく入ったな、とか思っているだろ?」

 オレの視線を追いかけたのか、社長は図星をつく。

「いや、これは……」
「いいんだ。中学当時から胸はあったからな。小学五年くらいから、急に膨らんできたのだ。欲男子にからかわれたから、今でも男は苦手なんだ」
「オレ、引っ込んでた方がいいでしょうかね?」

 絵のモデルをしているなら、集中したいだろうし。オレもいたたまれなかった。

「いいや、側にいてくれ。そうだ、ゲームでもしよう。ほら、隣に座る!」

 自分の隣にクッションを置き、社長がオレに着席するようにせがむ。手に持っているのは、メガエンジンのminiだ。当時知らなかったゲームばかりが揃っているとのことで、俄然興味が湧いたらしい。

「ハードはあるんですよね?」
「もちろん。プレミアが付いていて、結構高かったが」

 とはいえ、昔のゲームハードを持っていても、ロード時間が長いなど問題がある。

「動かなくなったハードもあった。これは、夢のマシンだよ」

 このハードは社長にとって、なんでも叶えてくれるオモチャ箱のよう。ダウンロード版のゲームとは、また違った趣があった。

「さあ、何をするんだ、ハナちゃん?」

 さっそく、ハナちゃんモードを社長は要求する。

「そうだな。せっかく制服になってるんだ。ギャルゲーなんてどうだ?」
「確かに、一つだけ入っているな。やってみるか」

 ギャルゲーの元祖と言われているゲームが、メガエンジンには入っていた。

「ただ当時の難易度だから、理不尽だぜ」
「任せろ。私に不可能はない」

 だが、その自信はもろくも崩れ去る。

「なにぃ……フラれた! この選択肢は間違っていたのか?」
「選択肢は合ってる。ルートが違うんだよ」

 この会話に入る前に、場所の移動をしないとフラグが立たない。これでは、騒がしい野球場で告白するようなもんだ。今ならいざ知らず、当時のゲームでそれはありえない。

「むむう、ゲームが嫌いな子はずっとゲームが苦手だな」
「女の子のチョイスのしやすさとして、わかりやすいんだけどな」

 ギャルゲーは、『自分の趣味を、推しに理解してもらう』ゲームじゃないからなぁ。

「一人もクリアできないとは」
「当時のゲームなら、こんなもんだぜ」
「昔から考え尽くされていて、奥が深いな。勉強になった。とにかく、セオリー通りにいかないと攻略できんのはわかったぞ」

 気を取り直して、ギャル要素のあるアクションゲームに変更した。

「おお、ベルトアクションか。これも今はあまり見なくなったな」
「こっちも制服だな」
「正確には、魔法少女だ。このシリーズなら、私も知っているぞ」

 社長が子どもの頃にやっていた女児向けアニメの、ゲーム版らしい。

「誰が好きだった? オレはミコトちゃんだが」
「雷使いか、マニアックだな。おっぱいの大きさで選んだな? 私は、頭脳派のクミちゃん派だ」
「一番人気のヤツか。それもいいな」
「あー青春だなぁ。『スプラッシュ・トルネード』!」

 当時にタイムスリップしながら、技名を発した。

「うーっす。収録するかー」

 玄関が開き、マヒルさんが入ってくる。

 社長はまだ、制服のままだ。マヒルさんの登場に気づかず、TV画面に向かって女児向けアニメの技を連呼していた。

「そっとしてやってくれ」
「……うっす」


 五分後、そこには四つん這いになってうなだれる社長の姿が。
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