カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第四章 レトロゲーで懐かしみますか?

格ゲー mini

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 とうとう、「ニコラ公式 ひめにこチャンネル」が再生回数四〇〇〇時間を超えた。
 つまり、収益化に成功したのである。
 制服差分の効果だろうか。
 飯塚社長が身体を張った甲斐があったというモノだ。

 しかし、社長の受難は続く。

 今日の衣装は、チャイナドレスだった。

「また、イラスト用の資料ですか?」
「そうなんだ……」と、社長は涙目で答える。
「早くも『差分はよ』の催促がありましてぇ……」

 ぴよぴよさんによると、まだ差分が必要らしい。
 
 今日はぴよぴよさん宅ではなく、収録スタジオにいる。

「下はレオタードですから、きわどい以外は特に問題ございません」
「大ありだ。こんなのまたマヒルちゃんに見られたら」

 冷静なグレースさんとは対照的に、社長は必死だ。


「もう遅いかと。連れてきちゃったんで」


 オレは今日、マヒルさんと同席していた。

「大丈夫っすよ。おちょくったりしないでしょ?」

 マヒルさんは、基本社長には優しい。拾ってくれた恩があるからだろう。

「だが、慈悲深い目で見つめられると」
「まあまあ。とにかくゲームゲーム」

 マヒルさんが、レトロゲーの準備を始める。ちなみに、彼女が持ってきたのは格ゲーのタイトルばかりが入ったmini端末だ。

「ああ、マヒルさんは『キング・オブ・ギア』世代だよね」

 剣を持った格闘家たちが、三人ひと組で戦う格闘ゲームである。

「シリーズ後半から入りましたけどね」

 マヒルさんは忍者・大剣使い・女カンフー使いを選ぶ。

 社長は、このカンフー娘のコスプレをさせられているのだ。

 自分のモデルが華麗に戦う姿を見つつ、イラストのモデルにされるという羞恥プレイである。

『こんばんはー。ひめにこなのじゃ~。今日は懐かしい格ゲーを動かすぞよ~』

 収録がスタートし、ゲームが始まる。ちなみに、録画収録だ。

 ぴよぴよダンナは今日、子どもの世話でここにはいない。自宅の機材を使い、リモートで収録を手伝っているという。

 慣れているということで、マヒルさんはカンフーマスターだけで勝ち星を重ねていく。

「ぬおっ!?」

 女性格闘家だけで構成されたチームを負かしたとき、社長が呻いた。収録中だと言うことも忘れて。

「どうしたんですか?」

 オレが社長の口を手で覆う。

 社長も我に返り、口に指を当てた。

「さっき、女性キャラが脱衣したぞっ」

 そう。女性格闘家は負けると服が脱げるのだ。全裸とまではいかないが、衣装ははだけてしまう。

「服が脱げたくらいで驚いちゃダメっすよ。『イモータル・ソルジャー』とかエグいんで」

 タイトルを聞いて、オレも「うおお」とうなった。

「どんなゲームなんだ?」
「抹殺コマンドってのがあるんですよ。このゲームが終わったら見せますよ」

 ひとまず、仕切り直す。ひめにこにプレイを続けてもらう。

「このままエンディングまで行けそうだ」
「いや、ラスボスが強いんだよ。このゲームは」

 当時の格闘ゲームに登場するラスボスは、ほぼ勝つのが不可能な調整を施されている。特に本作のボスである「オーベルシュタイン」は、格ゲー界隈随一の壊れ機能を有していた。

『ぬわーやはり強いのはそのままかえっ、このっ!』 

 ひめにこチームは忍者が瞬殺され、大剣使いは一本こそ取ったが、本気を出したボスに敗北する。

「なんすか、あの対空カカト落としは」

 当時プレイしていなかったので、まったく意味がわからない。空中にいる相手にカカトを振り下ろす「ジェノサイドプレス」が、鬼判定すぎる。

 あれだけ猛威を振るっていたカンフー娘さえ、虫の息に。

 ラスボスが、必殺技の一撃を見舞おうと迫った。

「やられる!」
「こっからっすよ」

 その意味は、オレにもわかる。彼女は、この瞬間を狙っていたのだ。

 乱舞技をボスに喰らわせて、マヒルさんは一気に逆転した。

『いよしっ! チョロいあるネ!』

 マヒルさんの使用キャラが、勝ちポーズを決める。

 相手がツッコんできてからのカウンターだったから、ダメージが倍に入った。

『よし、ひとまず当時と同じ強さであることは立証できたので、別のゲームをしようかのう? これじゃ』

 さっきオレが解説したゲームを、ひめにこが選択する。

「まあ見ててください社長」

 ゲーム開始から、ひめにこは押して押して押しまくった。

『ぬおお、とどめじゃあ』

 相手の体力ゲージが極限まで減ったとき、ひめにこが必殺技を繰り出す。

 ブシャアアと、ひめにこのキャラが相手の胸板を貫いた。

「うごおっ!」
「やばいでしょ? これが『抹殺コマンド』なんですよ」

  他にも、首を飛ばしたり炎で焼き尽くす抹殺コマンドがある。


「いや、そうではない!」

 社長の表情は、明らかに変わっていた。

「問題は、この描写だ! こんなの、サイトの規約に違反する!」

 グロすぎる動画などは、収益化が剥がされる可能性があるのだ。

「せっかく収益化できているのに、これでは権利を剥奪されてしまうぞ!」

「だから、今日は収録なんすよ。センシティブって意味なら、さっきの脱衣もNGです」

 放送当日は、モザイクをかけて処理するという。

「当時のゲームは、規制も何もなかったんだな」
「今がデリケートすぎるだけなんですけどね」
「刺激的なのは魅力があるのはたしかだ。当時は、これがウケたんだろうな」

 レトロにはレトロのよさがある。

「でも、全裸になるトドメはダメだろっ!」

 トドメのバリエーションに『モロ出し』もあったことを、オレはすっかり忘れていた。
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