カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?

水着回

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  シャツを脱ぎ捨て、マヒルさんが真っ先に海へと飛び込んだ。

「ヒャッハー海だーっ!」

 アンちゃんとぴよぴよジュニアを除けば最も若いので、人一倍はしゃいでいる。
 これが若さか。
 それにしても大胆だな。

「チューブトップか。えらく決めてきたな」
 
 社長が、マヒルちゃんの水着に驚いていた。

 マヒルちゃんのスタイルはそこそこ、という感じである。ごくごく一般的な女性の体型だ。

「プライベートビーチで人がいない、って聞いてたんで。こういうときじゃないとこんなの着られないないっすから」

 声優のラジオでこの水着をもらったが、着る機会がなかったという。

「ありがとう姐さん、これでこの水着も浮かばれるっすよ」
「死んでないからな」

 マヒルさんは、一人でワイワイと楽しんでいた。

 ぴよぴよ一家は、赤子と砂の城を作っている。三人ともラッシュガードで、露出は控えめだ。まあ、彼らのサービスショットを求める人はいないだろう。

 グレースさんのお嬢さんは……トボトボとスマホ片手に歩いていた。父親と一緒に。フリフリのセパレートを着ている。彼女なりに、攻めてきたみたいだ。

「あー、スラッシュ・ドラゴン ウォークですか?」
「はいっ。レアモンスターがいるという情報がありまして」

 父親はアンちゃんと手を繋ぎ、正面を向いている。父親の視線を頼りに、アンちゃんがモンスターを探すという感じだ。

「なーんか、しまらないなぁ」

 焚き火台を設置しながら、オレはつぶやく。

 各々が、それぞれ別行動をしている印象を受ける。

「まあ、いいじゃないか。こちらはこちらで楽しもう」

 飯塚クリス社長は、テーブルの上で割り箸を削っていた。フェザースティックを作っているのだ。火おこしもマッチやガスバーナーではなく、麻紐とファイアースターターという本格仕様である。

「動画で見て、やってみたいと思っていたんだ。よし、火をおこすぞ」

 細い着火棒を小さい金属で擦って、火花を起こす。

「一発! すげええ」
「よし、ヒモに火が付いた。これを炭へイン! 花咲くん、炭を積み上げてくれ」
「はい!」

 空気の通り道を残しつつ、オレは炭を重ねていった。あとはひたすら仰いで、空気を送り込む。

「上出来だ、ハナちゃ……花咲くん」

 歯切れの悪い答えが、返ってきた。

「は、はい。てっきり新聞紙とライターで火をつけるモノかと」

 途中のトイレ休憩で寄ったコンビニで買おうかしらと、一瞬考えたが。

「私も同じことを考えていた」

 グレースさんによると、
「新聞のインクが具材に付着しまうからダメ」
 とのこと。手慣れてるなぁ。

 ちなみにグレースさんの水着は、昔懐かしいハイレグである。競泳水着に近いデザインだ。メンバーの中で、一番細い。

「火が安定してきたな。鉄板に具材を放り込むぞ」

 ワンボックスの荷台を占拠していた大半が、肉と魚介という組み合わせだ。

「道の駅で買ったから、全部新鮮だぞ」
「そうですね。いい匂いです」

 肉を焼くオレの隣では、グレースさんがずっと野菜を切っている。

「では、みんなを呼んできてくれ」
「はい。おーい!」

 全員を呼び戻し、食事になった。

「うまいっ! 焼きナス好きです。適度にしおれた感じが最高ですよね」
「光栄です。ウチの子にも食べさせたいのですが……」

 梶原さんが、アンちゃんにナスをすすめているが、アンちゃんは口にしようとはしない。
 好き嫌いは、誰にでもあるよな。

「肉サイコー」

 焼けたカルビに、マヒルさんは真っ先に手を付ける。小さい子もいるのに、大人げない。

「すんません。意地汚くて」

 本人も、よくわかっているらしい。

「ウチねえ、五人きょうだいの真ん中で、メシ争いが苛烈だったんすよ。だから一刻も早く一人暮らしがしたくってぇ、都会に出てきたんすよ」

 焼きおにぎりをハイボールで流し込みながら、マヒルさんはモゴモゴと話す。ひめにこと同じような設定だな。だから選ばれたのかもしれない。

「ちょうどね、女男の順で生まれて、あたし、下は弟がいて、末が妹っす」
「ごきょうだいは、今何をしてるんだ?」
「長女が二児の母で、長男が美容師、下の子はまだ高校っす。弟が受験だって」
「育ち盛りだな」
「みんなマジメな家系で、あたしだけがこうなったっす。一番放任だったんで」

 一家の中で、マヒルちゃんはもっとも自由人な生き方をしてきたらしい。まともすぎる一家で、窮屈だったのだろう。そこは飯塚社長と似ていた。

「それはそうと花咲さんさぁ」

 もうできあがった状態で、マヒルちゃんがオレの肩に腕を回してくる。

「姐さんにもっとさぁ、言うことないんすか? 水着褒めるとかぁ」

 缶を持っている方の指で、マヒルちゃんが社長を指す。
 水着を指摘され、飯塚社長が縮こまった。

「一緒に買ったときに見ただろ? 驚かないだろう」
「似合ってます、社長。デパートで見たときより、ドキドキします」

 オレが言うと、マヒルちゃんがうれしそうに「やっば!」と茶化す。

「言うっすね。やっぱり男はシャキッと正直にならないとっすよね。うん」

 新しいハイボール缶を開けながら、マヒルちゃんが「ふう」とため息をついた。

「社長、マヒルちゃんが一番楽しんでますね」
「あの娘が一番、働いているからな」
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