カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?

記念撮影イベント

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 マヒルちゃんは、肉を口に詰め込む作業へ。
 話し合っていると、飯塚社長が急に箸を止める。

「あれ、どうしたんです?」
「いやあ、その、なんだ。ありがとう」
「なにがです?」
「水着だ。褒めてくれたじゃないか」

 頬を染めながら、社長が肩紐を撫でた。

「そうだっ、何やってたんだって話じゃん。姐さん、今日の趣旨忘れてるっす。ぴよぴよめさん」

 我が社は、ぴよぴよさん夫妻を区別するため、奥さんの方を「ぴよぴよめ」と呼ぶことにしている。

「どうしたの?」

 ぴよぴよめさんは、煙から離れて子どもをあやしていた。ダンナさんが側について、ぴよぴよめさんに食べさせている。

「撮影っす。外での水着姿、撮ってないっしょ?」
「そうだった! じゃあ社長、食べ終わったら浜辺で撮影会をお願いします」

 食事時間が終了し、オレたちは撮影を始める。

「ここでいいか?」
「太陽が入っちゃうんで、崖をバックに」

 ぴよぴよめさんが、指示を出した。

 社長は、崖が背景に入る位置に立つ。ひめにこをイメージしながら、言われたポーズを取る。

「うーん……なんかしっくりきませんねぇ」
「そんなもんですか?」
「事前に屋内で撮影した写真と代わり映えしなくて」

 被写体はバッチリなのだが、それによってカメラが負けているらしい。

「そうだ。花咲さんが撮ってください」
「オレがですか?」
「わたしが撮っちゃってるから、変化のない写真になってるっぽいですね」

 唐突に、ぴよぴよめさんがカメラを渡してきた。

「じゃあ社長、いきますよ」
「うむ。キレイに撮ってくれ」

 シャッターを押してみる。ぴよぴよめさんは変化が生じると言っていたが、実際は何も変わらない。カメラマンが変わったところで、劇的によくなるわけでもなく。

 こういうとき、ゲームのキャラならどうしていたっけ?

「たしかに、表情が硬いですね」
「そうか?」

 本人は、意識していなかったらしい。

「私は、ごく普通にしていただけなんだが」

 これでは、満足いく写真が決まらないまま終わりそう。

「いっ……った!」

 オレは、何かに小指を挟まれた。
 よく見ると、カニがオレの足をハサミでサンドしているではないか。

「こんにゃろ」

 オレが手を伸ばすと、カニは砂の中へ隠れてしまった。

「プッ! ハハハハハハ!」

 社長が笑う。この日一番の笑顔を見せた。誰に指示されたわけでもなく。

「その顔です。いいですよ!」

 夢中になって、オレはシャッターを押す。

 しかし、オレが指摘するとまた引きつった笑いになる。

 うーむ……どうするか。 

 ふと、梶原親娘が視界に映る。相変わらず、二人はレアモンスターを探していた。

 そうだ。

「アンちゃん、ちょっと」
「ん?」

 オレはアンちゃんを呼び出す。

「近くのコンビニでアイスを買ってきてあげるから、おじさんの頼みを聞いてくれるか?」
「御意」

 初対面から思っていたが、アンちゃんって子どもらしくないよね。
 オレはアンちゃんに耳打ちする。

「じゃあ、アイス約束な」
「ほうじ茶きなこ黒蜜のヤツ」
「はいはい」

 チョイスが渋いな。

 梶原父と娘が、さりげなく通り過ぎる。ここまでは、指示通り。

「彼らも写すのか?」
「通行人になって、ってお願いしたんですよ」

 リアリティのある絵が欲しかったのだと、社長にはごまかす。

 これから何が起きるとも知らず、飯塚社長はのんきにポーズを決めていた。

 今だ。オレは、アンちゃんに合図を送る。

 アンちゃんは暗殺者の動きで、社長のガラ空きになった脇へ指を這わせた。

「うぎゃあああ!」

 いつものクールビューティらしからぬ叫び声を、社長があげる。

 その瞬間を狙って、オレはシャッターを下ろす。

「な、なにを……!」

 社長が振り返ると、アンちゃんが悪魔のような微笑みを浮かべていた。

 隣では、梶原さんが必死で頭を下げている。

「もう、ハナちゃんの指示だろ!」
「すいません社長。でも、社長の日常を写し出すには、これしかないだろうと」

 撮ってみて、何かが足りないと思っていた。笑顔だったんだ。それも、指示されて出せる表情じゃなく、自然と出てきた。

「満足のいく写真は撮れたか?」
「バッチリです!」

 サムズアップで、オレは返答する。

 太陽より眩しい笑顔を、飯塚社長は向けてきた。


 撮影後、オレはカメラをぴよぴよめさんに返す。

「ありがとうございます。おかげで楽しいイラスト差分が作れそうです!」

 ぴよぴよめさんが、満足げに画像データを見た。


 一仕事を終えて、オレはコンビニに向かう。みんなにアイスをおごるためだ。最初はアンちゃんだけのはずが、社長もねだってきた。

「いやぁ、まったくとんでもないヤツだな、キミは!」

 サンダルをペタペタ鳴らしながら、社長もついてくる。「荷物持ちくらいやってやろう」と。

「すいませんって。欲しいアイスを買ってあげますから!」

 入店してすぐ、早歩きで社長はアイスのコーナーへ。子どもみたいだな。

「他のメンバーには……」
「アイスバーでいいって言っていた。赤ん坊がいるから、片手でも食べられるタイプがいいだろう」
「じゃあ、これにしましょう」
「持つよ」

 社長はオレの代わりに、カゴを引き受けてくれた。

「ありがとうございます。社長は結局、なににするので」
「そうだな。おっ、このほうじ茶アイスなんか超オスス……違うな。これがいい」

 そう言って社長が選んだのは、二等分して食べるタイプのチューブシャーベットである。

「これ、一度食べてみたかったんだ。コーヒー味だからそんなに甘くもないだろう」
「中学生のカップルみたいなチョイスですね」

 両手が塞がっている社長の代わりに、オレはチューブアイスの先端を開けた。

「いいじゃないかっ。こういうの、憧れていたんだ」

 オレたちはチューブアイスを吸いつつ、みんなの待つ海岸まで戻る。
 買い物袋を、二人で片方ずつ持ちながら。
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