カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第五章 ホラーは苦手ですか?

配信者の現実

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 会社兼自宅に戻る。
 改めていつものキャラで、『幻想神話』をプレイした。

「ところでイーさん、どうしてゲーム内で編集者みたいなまねごとをしたんだ?」
「キミとの出会いを思い出したからだ。ゲームの中にいきなり会社の関係者が出てきたら、親しみも湧くだろ?」

 オレ発祥なの!?

「どうだろう、私のアイデアは?」 
「それはそれで、プレッシャーが掛かるかと」

 メッセアプリとかも、会社が管理するとやりづらいというし。

「確かに、負の一面もあるか。ならば、ほどほどにしよう」

 やめる気はないと……。

「サプライズに命かけちゃってるな」

        ~~~~~~~~~~~~~~


 この日は、会社公認バーチャル配信者「ひめにこ」の方針を決める。

「マヒルくん、キミは個人だと『登録者数にさしてこだわらない』主義を貫いているよな」

 ミーティングの場所は、マヒルさんの自宅だ。ここを会議場にした理由は、マヒルさんの個人的事情が関係している。

「そうっすね。一人一人と会話したいんで、数を増やすつもりはないっす」

「聞けば、メンバーシップも作らないとかいうじゃないか」

 メンバーシップとは、会費を募って特別な配信を行う取り組みのことだ。

「視聴者を差別化したくないんすよ。あたしのポリシーは、少数でワイワイすることなんで」

 大手に所属する配信者の一部も、同じ理由でメンバーシップを募集していない。

「登録者数を増やす予定の我が社の目的と、かけ離れてしまうな……」

 飯塚社長が、アゴに指を当てた。

「人を増やすと、一人では対処に限界があるっすよ。少数だろうがアンチも湧くし、実際湧いてます」

 マヒルさんはその性格上、ひめにこの登録者に面が割れている。マヒルさん自身も、あまり正体を隠そうとしていなかった。

「姐さんの手助けは、したいっす。でも、ここであたしが下手に人を増やす方向性になると、荒れちゃいませんかねぇ?」
「そうなんだよな」

 同じ懸念を、飯塚社長も感じている。

「いいんじゃないでしょうか。マヒルさんはマヒルさん、ひめにこはひめにこでしょ? マヒルさんはそのままやっていけばいいんですよ」

 オレは、膠着状態の二人に口を挟む。

 ひめにこがマヒルさんだとしても、人格まで同じなわけではない。
 あくまでひめにこは会社のモノだ。マヒルさんの私物ではない。
 そこは分けて考えてもいいだろう。

「そっかー。ちょっとひめにこに寄り添い過ぎてたっす」

 チェアにもたれかかり、マヒルさんが伸びをする。

「わかりました。人は増やす方向でいいっす。御社の意向に従うっすよ」
「そうか。よろしく頼む」

 これで、方針は決まった。

「じゃあ早速、今日の生配信やるッスか?」
「その前にマヒルさん、ひとつ質問いいですか?」
「どうぞ」
「ニコラの社員として、窮屈じゃないんですか?」

 クリエイターは、企業などのいわゆる「会社」という制度から開放されたくて、創作の道に入ると思っていた。
 しかし、オレが会ってきたクリエイターたちは、割とおとなしく「従業員」として働いている。

「安定を持っちゃうと、染まっちゃうのかなって思って」
「そういうことッスか? 現実知っただけっすよ」
 
 マヒルさんが、ニカッと笑う。
 
「というと?」


「正社員だと、クレカの審査に通りやすいんスよ。そんだけッスよ」

 よく、配信者が語っているな。

『クレジットカードが作れなくて、ガチャが回せない』

 とか愚痴ってるのを見かける。

 めちゃめちゃ稼いでいるのに、だ。

 で、クレカを作ったことがある人は「労働経験のある人」ばかりだった。

「知ってました? 個人事業主でも、クレカの審査に通りにくいんらしいッスよ」

 それは、聞いたことがあるな。
 奥を稼いでいた事業主でも、クレジットカードの審査に通らなかったとか。

「ありがとう。じゃあ、始めるか」

 初めて、生で『幻想神話』をプレイする。
 全員で、ノートPCを開いた。

「花咲くん、見てないで手伝ってくれたまえよ」

 なぜか、オレもゲームを立ち上げる。なんか、傍観者ではいられない事態に。

「どうして?」
「キミも、生放送でプレイするんだよ」
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