伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第二章 ひかしぼう! (我慢しているのに中々ウエイトが落ちず、将来を悲観して絶望!)

商店街へ

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 一〇時になって、休みを取る。

 ライカは、二人をキッチンへ呼んでお茶を淹れた。カップに、薄茶色い液体をなみなみと注ぐ。

「ボクの故郷、ヤマンドで作られている、麦で作ったお茶です。熱くても冷やしてもおいしいですが、暑い季節ですから、冷やしておきました」

 木のボールには、クルミなどの実や、乾燥した豆類が山のように入ってある。

「おやつはアーモンドとクルミです。共に抗酸化作用といって、活性酸素を抑制してくれます」
「この、砂糖がまぶしてある豆は何であるか?」と、テトが豆に手をつけた。

 指摘通り、乾燥させた小豆、ウグイス、エンドウ、金時豆などだ。
 それら全てに、甘い砂糖がまぶしてある。

「ヤマンドの伝統的なおやつで、甘納豆と言います。保存が利いて、ダイエットにも最適です。と言うより、ボクが好きなだけです。山ほど持ってきているんですよ。荷物の大半は甘納豆です」

 言いながら、ライカは甘納豆をぽいぽいと口へ放り込む。
 アイスクリームやアメなどといった洋風の菓子に比べると甘さこそ少ない。
 が、疲れたときにはこういった丁度いい甘さが堪らない。

「いただきます」

 家のホコリと格闘して喉が渇いていたセリスは、ゴクゴクと麦茶を飲み始める。
 甘納豆とクルミを交互に食べている。グリーンピース味が気に入ったようだ。

「暑いですから、水分は十分取っておきましょう」と、カップにお茶を注ぐ。

「エールの方が欲しいのだが」と、渋々テトはお茶を啜る。

「アルコールは液体ですが、水分ではありません。夜までの我慢ですね」

 この国では、一五歳で成人である。セリスはまだ飲めないが、テトは問題ないだろう。

「確かに。ご褒美は後で取っておくべきか」

 甘納豆をポリポリとかじりながら、テトはお茶をチビチビと飲む。
 全種類を少しずつ食べたところ、金時豆が好きらしい。

「それにしても甘納豆の減りが思っていたより早いですね。これは、別のおやつも考えておいた方がよさそうだ。自分で甘納豆を作りますか」
「作り方を教えてもらえないか?」
「ええ、どうぞどう……⁉」

 甘納豆をずっと見つめながら、セリスが手を止めていた。

「あれ、セリスさん、おいしくなかったですか?」
 ライカが話しかける。

 セリスの瞳に、ひとしずくの涙が零れた。

「うわあ、すいませんセリスさんっ、そんなに嫌いだったなんて⁉」

 涙が出るほどとは。

「違うんです。そうじゃなくて、懐かしいなって」
「懐かしいとは?」
「子供の頃に、この味に救われたんです」

 甘納豆は、セリスの過去と関係しているらしい。

「それはそうと、お昼を作りましょう!」

 もしかすると、セリスは少し疲労が溜まっているのかもしれない。
 昼は、豪勢なメニューにするか。



 二階でも、一階で行った掃除と同じ作業が続いた。
 夕方になる前に、おやつがてら夕飯の買い物へ。

「グラタンなんて太りやすそうなもの、食べちゃってよかったんですか?」

 メニューはグラタンだった。

 掃除ばかりでトレーニングが足りないと思っているのか、不安そうな顔をセリスが浮かべている。

「いいんです。お昼は外出することも多いでしょうし。避けられないパーティなどがある日も、パーティの時間は目一杯食べちゃいましょう。そうでないと、心が萎れてしまいます」

 あまりストイックに縛りすぎても、身体によくない。反動で食べたくなってしまう。

 適度にストレスを発散させることが、長続きのコツだ。

 どうしても萎んでしまいそうになったら、好きなものを食べさせて、他のものを断つ。
 要は心と食のバランスを考えてやればいい。
 それで、身体と相談する。

「キャスレイエットの商店街は、みなさん初めてでしたよね?」
「はい。商店は回っておきたかったです」
「ご案内しますわ。ついてきてくださいね」

 セリスが先頭を歩いて、石畳で整備された道へ。
 橋を渡り、田畑を通り過ぎる。

 ここに来るときは、景色を見る暇さえなかった。
 ライカは、聖女領の美しい光景を目に焼き付けていく。

 二〇分ほど歩くと、街に入った。
 港が近い為、カモメの声が空から聞こえてくる。
 キャスレイエットから程近くにある街は、家々が赤煉瓦の屋根と白い壁で構成されていた。
 
 当然ではあるが、木や瓦でできたヤマンドの街並みとは全く違う。
 雅でありつつ、スッキリとしたデザインの建物が多い。

 住宅街の近くにパラソルを差して、様々な露店が鎮座している。
 屋台に吊られたソーセージ、色とりどりの野菜、キノコ類、そして魚介類。
 果物の籠からは、まるでフェロモンのような匂いを醸しだし、自身の美味を歌う。
 売り手は声を張り上げる。

「ハアハア。あのアイスクリームが、またおいしいんですよねえ。あっちのクレープもチョコと生クリームのマッチングが素晴らしくて……」

 目の色を変えてセリスが道案内をしてくれる。甘味処ばかり勧めてくるが。

「は、すいません! つい」

 セリスが取り乱すのも無理はない。

 目移りするとはこのことだ。ダイエット用の食事を買いに来たはずなのに、興奮が収まらない。
 二人の目がなければ、屋台の二、三件はハシゴしていただろう。
 節制の達人であるライカでさえ、胸の高鳴りを覚える。

 それほど、この市場は活気と明るさに満ちていた。

「結構、お詳しいんですね?」
「お散歩に行く際に、ついつい食べ歩きをしてしまうんです。ああ、あそこのドーナツ、久しく食べてません。ああん、どうしましょう。頭の中が甘味で一杯に!」

 先陣を切るセリスに到っては、手をワキワキとさせて、既に理性を失いつつある。
 腹が減っているのだろう。三歩も歩けば、唾液を飲み込む音が鳴った。

 こうなったら、まともな判断力など働かない。

「少し早いですが、一服しましょう」

 これだけ芳醇で色とりどりの甘味を見逃しては、かえって罰が当たる気がした。
 今日は下見もかねて、自重を解くことにする。

「あそこなんてどうでしょう?」
 テトが差したのは、海沿いのオープンカフェだ。

 テラスに並ぶテーブルには、パラソルが掛けられている。

 三人は、適当な席に腰を掛けた。

 ケーキセットをオーダーする。

「チーズケーキを三つ」

 テトとセリスも驚いた様子だ。
 ダイエットを志す立場からすると、意外すぎるメニューだと感じたのだろう。

 セリスは砂糖控えめのコーヒー、テトはノンシュガーの紅茶、ライカはハーブティーをもらい、ケーキで腹を少し膨らませた。

「少しは、落ち着きを取り戻したのでは?」
「はい。お腹が膨れたせいか、献立を冷静に考えられるようになりました」

 満足した様子で、セリスは腹をさする。

「では、買い物の続きをしましょう」

 カフェを出て、買い物を再開。

「今日は野菜多めで、薄切り肉をメインで」
「肉は食べていいのか⁉」

 意外だったのだろう。テトが驚いている。

「むしろ摂取して下さい。脂肪の燃焼には、筋肉が必要なので」

 筋肉を構成するには、タンパク質が必須だ。  

 いくらダイエットとは言え、過度な制限もよくない。
 神経質になりすぎると、ストレスで食べ物に手をつける危険がある。
 少しずつ発散させていき、本当に控えないといけない分をカットしていく。
 少量ずつ、確実に。

 それだけでも、十分制限になるのだから。

「でも、あまりやせている実感が湧きません」
「最初はそんなものです。まずは、やせやすい体質に自分を作り替えることが重要なのです」

 いきなりやせようとしても、体重は落ちる。
 だが、それは脂肪ではなく筋肉が落ちただけだ。
 それでは、やせたことにはならない。
 脂肪を落とすには、筋肉の作用が必要になってくる。

「そうでした。豆類もタンパク質でしたね。こっちです!」

 豆を売っている売店を教わり、買い物は終了した。
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