伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第二章 ひかしぼう! (我慢しているのに中々ウエイトが落ちず、将来を悲観して絶望!)

怪しい占い師 カメリエ・ゾマ

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 セリスに手を引かれてやってきたのは、占いの館だった。
 大量の豆が入ったカゴが、ズラッと並んでいる。
 豆は売れているようだが、占いの方はさっぱり人が来ていない。

「魔女様、豆をくださいませんか?」

 入り口の先には、水晶玉が載った台と、それを覗き込む怪しい少女がいた。
 丸メガネ越しに、紫色をした視線がこちらに注がれる。

「おやおや、セリス様じゃありませんか」
 老婆のような口調だが、随分と若い。

「そちらのご婦人方は?」


「ライガ・ゲンヤといいます。旅のモンクです」

 続いて、テトもお辞儀をして名乗った。

「これはご丁寧に。ワシはウォーロックのカメリエ・ゾマという。魔術の研究を行っておる。予言者とも呼ばれておるわい」

 ウォーロック、魔法使いか。
 どうりで強力なプラーナを放っていると思った。
 研究者が多いと聞くが、魔法使いが予言まで行うとは。

「いい状態の豆ですね。おいくらですか?」

「言い値でいいわい。まあ一律、だいたいこれだけじゃわい」
 言いながら、カメリエはそろばんを弾く。

 ライカは豆を吟味しながら、袋へ詰めていった。気持ち多めに、代金を払う。 

「まいどあり。あと、お時間があれば占いはいかがかな? 金は取らんから」
「魔女様は、予言もなさるのです」

 セリスは言うが、見るからに怪しい。ライカは誘われている。
 魔導の類に引っかかるライカではないが、女性からはただならぬプラーナを感じた。


「予言など研究の副産物よ。確実性はないぞよ」
 こちらの考えを見透かしたかのように、返答が返ってきた。


「ほう、聖女様の指導員とはそなたか?」
 一発で、ライカの素性を見抜かれた。

「なぜ、それを」
 聖女のダイエット計画は秘匿されているはずだ。

「知っているも何も、魔王復活とセリス殿の聖女覚醒を言い立てたのは、私じゃぞ?」

 確かに、カメリエは一番事情を知っている人じゃないか。

「どうやらお困りのようで。何でも申しつけてみよ」
 カメリエと名乗ったウォーロックは、テーブルの上に手を組んで、身を乗り出す。

 うっ、と思わず身を引いてしまう。

「実はですね、とある御婦人の世話をしているんですが、好き嫌いが多いのです。トマトやピーマンなど、野菜が中心です。何とか食べさせたいのですが」

 体質改善は着実に進んでいるが、懸念材料はあった。セリスの好き嫌いだ。
 セリスは、トマトなど酸味のある野菜や、ピーマン、ナスなどの苦い野菜、キノコ類を嫌う。

「あうう」と、セリスはつぶやく。

 対して、テトの方は着痩せするタイプだった。

「テトさんは好き嫌いはないどころか、逆に食べ過ぎているくらいですね。気がついたら、酒に視線が向いています」
「気づかれていたか」

 甘いものより、テトは酒のアテになるようなものを好む。食事制限でどうにかなるだろう。

 そこまで聞いて、カメリエは水晶ごしに、ライカの顔を覗き込む。

 カメリエと同じように覗き込み返す。

 水晶から見ると、カメリエの顔が、魚眼レンズのように歪む。


「秘策はある。明日の午後、この地図を頼りに我が屋敷へ」
 カメリエから一枚の紙を渡された。屋敷に続く簡単なルートが書かれている。

「では、続きは屋敷にて」
「ありがとうございます」

 ライカが頭を下げた。

「何をされるのでしょう?」
「わかりませんね。とにかく明日、魔女様のお屋敷へ行ってみます」


                            ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 たっぷり食材の入ったカゴを、キッチンテーブルにドンと置く。
 セリスはホッと息をつき、テトはグルグルと両肩を回す。

「どうされました。筋を違えたとか?」

「いいえ。ちょっと肩こりが」
 苦労しているのだろう。テトの顔からは疲労の色が窺えた。

「夕食も、二人に作ってもらいます」

 ライカが出した提案は、セリスとテトによる料理だ。

 この屋敷では、主にミチルが料理を担当していたという。だが、ミチルは身ごもっている。

 料理担当はテトでも十分なのだ。

 が、この調理にはもう一つ意味があった。
「セリスに何を食べているか把握させること」である。

 料理を自分で作る事で、どういった食材を食べているのか、どれだけの調味料が使われているか。
 把握することで、どんな味付けが成されているのかを自分で考えて欲しかった。

「テトさん、ご指導よろしくお願いします」
「うむ」

 セリスが頭を下げると、テトは早速エプロンを着けてあげる。

「では、セリス殿。棚の上にあるボールを取っていただけませぬかな?」

 テトに頼まれて、セリスはボールに手を伸ばす。

「うーん、うーん」

 どんなにつま先立ちしても、棚に指が届かない。
 業を煮やしたセリスは、側にあった木箱を台の代わりにして、ボールを取った。

「では、レタスをボールに入れて、オリーブオイルを垂らして下され」
「はい」と、セリスはレタスにオイルをかけて混ぜる。

 続いて、ほうれん草を炒め始めた。

「コショウは、振りすぎないで。食材からも味が出ますし、豚肉があります。味が物足りなければ一緒に食べればよいでしょう。おいしくなりますゆえ」

「は、はひ」
 ぎこちないながらも、セリスはフライパンを扱う。

 その姿勢には、食べる人に対する誠意が込められているように思えた。

 さすがに花嫁修業をしていただけあって、セリスは段々と手際がよくなっていく。
 調理の方は言う事がないようだ。

 今日のメインは、ソーセージの盛り合わせである。
 サイドには、ほうれん草とキノコのソテー、パンは雑穀の混ざった物を使用した。
 レタスサラダには、茹でた貝を合わせてある。

 食卓の準備をしていると、屋敷のドアが開く。

「こんばんはー」

 二人組のカップルが、来客してきた。
 一人は大きなお腹を抱えている。

「あれ、ミチルさん? お兄様も」
 突然の来訪者に、セリスがその場で硬直した。

「入院してたんじゃ?」
「セリスお嬢様がお料理を作ってくれるって、お義母さまが。だったら、行かなきゃです」

 ミチルが言うと、隣に立つ男性が帽子を脱ぐ。
「はじめまして。セリスの兄です」
「ライカと申します」

 セリスの兄も、妹が心配な様子だ。

 二人が席に着いたところで、食事が始まる。

「ダイエットの方は、順調?」
 ミチルは、貝を殻ごと口に入れた。口の中で身を取り出して殻を出す。

「まだ始まったばかりですから、何とも」

 しかし、やせる体質作りは滞りなく行われているはずだ。
 下手にいきなり減量を始めると、その過酷さから断念してしまう人も少なくない。
 身体を運動になれさせること、運動を好きになってもらうことの方が、今後において、減量よりずっと大事だ。

「そうね。あなたの教え方は、そうよね」

「あの、お二人に質問があるんですが、どうしてミチルさんはやせようとしたんですか?」

 夫からの質問に、ミチルが照れ臭そうにため息をつく。

「あー、言いにくいんだけど、私、子供の頃に大失恋したの」
「もう五年前になるんですよね」

 ミチルの思い人が、他の女性と結ばれてしまった。
 その後、やけ食いした結果、ミチルは激太りに。

「近所にあった寺院がダイエットを教えているって聞いて。そこで修行していたライカに、手取り足取り減量方法を教えてもらったってワケ」

 その甲斐あって、三ヶ月で一〇キロ減に成功した。

「三ヶ月で、一〇キロも」と、テトが青ざめる。

 だが、ミチルはブンブンと頭を振った。
「あなたたちはマネをしてはダメよ。当時は私をフった奴を見返したくて必死だった結果よ。無理して減量したから、体調も崩しかけて、ライカに注意されたんだから」
 ミチルが当時の思い出を語る。

 無理な減量で食欲をなくしたミチルは、ライカが作った粥しか食べられなくなった。
 あの時ほど、ダイエットが危険だと思ったことはないと、ミチルは当時を振り返る。

「でも、嫁ぎ先がいい方たちばかりで、今は幸せよ」

 旦那も微笑みながら頷く。

「素敵です」
 ロマンチストなのか、セリスは目を輝かせて手を胸で組む。

「これって運命です。うちの庭で、恋の花が咲いたわけですから」

「ありがとう、セリス嬢」

「妹に祝福してもらって、うれしいよ。本当に、すばらしい妹に育った。昔から優しい子だったけど」 

 幼い頃から、セリスはどんくさかった。
 運動はダメ、剣術の稽古もロクにできない。
 攻撃魔法も覚えられず。

 両親は、セリスに戦闘技術の習得は不可能だと見切りをつけて、花嫁修業にシフトした。
 それでも失敗続き。

「何をしてもうまくいかないセリスは、ある日、家を飛び出したんだ。辛いことがあったら、丘の上で夕陽を見るのが習慣だったよね」

「もうっ、お兄さまったら」
 セリスが照れ笑いをする。

「では、お二人を送りましょう。本日はありがとうございました。ミチルさん」

 ミチル夫婦を家まで送った。

「いいなあ。わたしも、もう一度あの子に会いたいです」
 セリスにも、想い人がいるらしい。

「兄が話していた丘の上に、一人の少年がいたんですよ」

 誰も知る人がいないはずだった丘の上で、セリスは一人の少年と出会った。
 丸々と太った、ヤマンド人風の少年だったらしい。

「その時に会った男の子がくれたのが、甘納豆でした。『これをあげるから、泣かないでください』って渡されて、一口食べたら、勇気が湧いてきたんです」

 それ以来、セリスは泣き言を言わずに、花嫁修業に勤しんだという。

 どうりで家事が得意なはずだと、ライカは思った。

「そ、そうですか。なるほど」



 なるほど。そういうことか。


「どうかなさいましたか、ライカさん?」

「いいえ。なんでも」
 慌てて、ライカは首を振る。
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