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第三章 ないぞうしぼう!(果てしない減量と未曾有の危機に、聖女は思慕を歌う!)
スライムゴーレムとスパーリング
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本格的な格闘訓練を開始してもいいと判断したライカは、ゲストを招く。
「ん、どうしたよ? ドーンと来てくれていいんだよ?」
スパーリングパートナーには、ドミニクが名乗りを挙げてくれた。
「え、ええ。そうなんですけど」
ところが、セリスは防御ばかりで、攻撃しようとしない。
「セリス殿が行かぬなら、私が」
テトは、積極的にアタックを掛ける。
「ふん!」
上腕で、ドミニクはテトのキックを受け止めた。
「いいキックだね! なにか、特殊な訓練でもやってきたみたいだ!」
「特に何も」
本気の打撃を、テトは繰り出す。
しかし、肝心のセリスはへっぴり腰のままだ。彼女が強くなってもらわないといけないのに。
強い打ち込みは、血液の流れや筋肉の働きをよくする。
活性化した筋肉を手に入れれば、休んでいても脂肪を燃焼してくれるのだ。
できれば、本腰を入れて取り組んでほしいのだが。
「アタシが怖いかい?」
「そんなつもりでは」
一八〇センチを超える身長に圧倒された、という雰囲気ではない。
どこか遠慮が見える。
「アンタが来ないなら、こっちから来させてもらうよ!」
豪腕が、セリスに振り下ろされた。ライカが放つより数倍威力のこもったパンチが。
教えたとおり、セリスは受け流す。水中トレーニングの成果が出ているのだ。
「やるじゃないか! そんなにセンスがいいなら、打撃にだって真剣にやれば」
「それが、できないんです」
「なぜだい?」
「傷つけるのが、怖いです」
セリスの弱点は、この優しさである。
誰かを傷つけたくないばかりに、手加減してしまうのだ。
「アンタなんかにボコられるほど、ヤワじゃないさ。思いっきり叩き込みな!」
ドラミングのように、ドミニクは胸をバチンと叩いた。
「ほら、この両腕に打ち付けるつもりで」
ドミニクは右手を縦に、左手を横に構える。
「えいえい!」
セリスは意を決したらしい。
パンチやキック、手刀をドミニクの腕に当て続けた。
顔を狙わないなら、手加減はしないようだ。
「そうそう。なかなか鋭い攻撃ができるじゃないか! 聖女のトレーニングをしてきただけあるね!」
拳やケリを受けながら、ドミニクが感想を述べる。
それでも、打ち込みが弱い。
「もっと力を込めて大丈夫です。でないと、脂肪が燃焼しません」
やはり、まだ心の弱さが残っているようだ。
「アンタも、不意打ちが卑怯だなんて思わなくていいから!」
背後から攻撃するかためらっていたテトに、ドミニクが呼びかける。
作戦を見透かされていたテトが、苦し紛れに攻撃した。
ドミニクは、膝を曲げただけでテトのパンチを受け止める。
反撃の足刀を繰り出した。
身体をのけぞらせて、テトは回避する。
が、体操着が破れてしまった。
スパーリングを終了して、反省会に。
「セリスさまは、自信がなさすぎだねぇ。相手をブチのめすつもりでないと、相手にも失礼なことがある。拳を交えないとわからないことだって、あるんだ」
「はい」
セリスは落ち込んでいる。
「テトっていったかい? アンタはたしかに筋がいい。打撃になんのためらいもないから、武術の心得があるのはわかる。けど、大振りすぎだ。セリスさまとは逆で、自信家なところはないかい? もっと危機感を持ったほうがいいね」
「助言、感謝する」
テトはずっと、自分の手を眺めていた。自分に足りないものを吸収するかのように。
トレーニングを終えて、ライカはひとり買い物へ行くと出かけた。
二人にはストレッチとプチ断食を行ってもらう。
その間に、ライカはとある人物に相談をしに行く。
「おやおや、誰かと思えば」
「先日は、ありがとうございます」
ライカが知恵を借りに来たのは、魔女カメリエである。
「ワシはダイエットに関しては、お主に遅れを取っておるぞよ」
「いいえ。今回ご相談したいのは」
ライカは、事情を説明した。
「どうにか、なりませんか?」
「実験的に作ったええもんがある。待っておれ」
◇ * ◇ * ◇ * ◇
翌日、トレーニングの場にカメリエが現れる。
「どうも、魔女様お茶をお持ちします」
てっきり顔見せだと思って、セリスは部屋へ行こうとした。
ライカは、慌てて止める。
「いやいや。今日は別の用事で来たのじゃ。ライカ殿に呼ばれてのう」
「あの、魔女様? いったいなにを?」
「スパーリングじゃ」
「え⁉」
セリスが、驚きの声を上げた。
「もしかして、魔女様も美闘士だったのですか⁉」
カメリエは、セリスの質問に手をヒラヒラと振る。
「たしかにワシは、美闘士の心得もある。じゃが、今回戦うのはワシじゃない」
フラスコを一本だけ、カメリエは道具袋から取り出す。
「お主らの相手をするのは、これじゃ」
言いながら、カメリエはフラスコを揺らした。緑色の粘っこい液体が中に入っている。
「それは?」
「まあ見ておれ」
セリスへの返答もそこそこに、カメリエはフラスコの中味を地面へ零す。
液体は意志を持っているかのように、ブヨブヨと動き出した。
テトは興味深そうに間近で見つめる。
セリスは怯えながら、ライカの後ろに隠れた。
カメリエが呪文を唱え、緑色の液体に向かって杖をかざす。
杖から放たれた光が、液体に降り注ぐ。
ブヨヨヨ、という粘り気のある音を発し、液体が巨大化した。人間の身体よりも大きく成長した。さすがに天井までは届かないが、それでも大した巨大さである。
立方体がいくつも重なったスライムが誕生した。
人間の姿に切り取った緑色のこんにゃくを連想させる。
「スライムじゃ」
緑色のゼリーがピョンピョンと跳ねった。
まるで、挨拶をしたみたいに。
「スパーリング相手が必要かのうと思って作ったのじゃ」
カメリエが腰に手を当ててのけぞる。
「これを相手に、組み手をしろと?」
「左様。テト殿はともかく、セリス殿は人間が相手じゃと手加減してしまうじゃろ?」
力なく、セリスはうなずいた。
「実は、そうなんです」
ライカも同意する。
ここ数週間で、スパーリングの成果に差が出てきていた。
テトは積極的で、スパーも激しい。
しかし、セリスはどうも全力で来てくれなかった。
こちらは、これでも美闘士だ。手加減など不要なのに。
「多少の意識を植え付けているので。簡単な意思疎通くらいならできるぞい。あと、此奴からは攻撃はせぬ。打ち込むだけじゃ」
「それだと、可哀想ですぅ」と、セリスが抗議する。
「心配はいらぬ。攻撃は受け付けぬ。その為のスライムじゃ」
「では、遠慮なく」
試しに、ライカがスライムに拳を打ち込んだ。軽くジャブを。
まるで、水袋のような感触だ。思ったより不快感はない。
「連続で打ち込みますよ!」
容赦なく、回し蹴りやボディブローを叩き込む。
「顔も?」
六面体の顔に拳を打ち込むか、ライカは一瞬ためらう。
「OKじゃ。こやつに顔などあってないようなものじゃ」
カメリエから許可をもらえた。相当の丈夫さがあるらしい。
ベタ付く感触もなく、手首も痛めないように弾力も考えられている。
「これなら、浸透勁も!」
ライカは、体中のプラーナを練り込む。
久しく全力を出してこなかったが、これだけ柔軟性の高いスライムなら。
「電光パンチ!」
電気を帯びた掌打を、スライムへと打ち込んだ。
拳を電気で加速させ、さらに雷属性のプラーナを相手に流す。
スライムゴーレムの身体が、大きく跳ね上がる。
「しまった、強すぎたか?」
勢い余って、ゴーレムを破壊してしまったかと思った。
しかし、波のように上下しただけで、ゴーレムは無事、原型を保つ。
「おりょ?」
突然、カメリエの着る毛布がビリっと破れた。
紫色のハイレグ下着が、顕になる。
「ん、どうしたよ? ドーンと来てくれていいんだよ?」
スパーリングパートナーには、ドミニクが名乗りを挙げてくれた。
「え、ええ。そうなんですけど」
ところが、セリスは防御ばかりで、攻撃しようとしない。
「セリス殿が行かぬなら、私が」
テトは、積極的にアタックを掛ける。
「ふん!」
上腕で、ドミニクはテトのキックを受け止めた。
「いいキックだね! なにか、特殊な訓練でもやってきたみたいだ!」
「特に何も」
本気の打撃を、テトは繰り出す。
しかし、肝心のセリスはへっぴり腰のままだ。彼女が強くなってもらわないといけないのに。
強い打ち込みは、血液の流れや筋肉の働きをよくする。
活性化した筋肉を手に入れれば、休んでいても脂肪を燃焼してくれるのだ。
できれば、本腰を入れて取り組んでほしいのだが。
「アタシが怖いかい?」
「そんなつもりでは」
一八〇センチを超える身長に圧倒された、という雰囲気ではない。
どこか遠慮が見える。
「アンタが来ないなら、こっちから来させてもらうよ!」
豪腕が、セリスに振り下ろされた。ライカが放つより数倍威力のこもったパンチが。
教えたとおり、セリスは受け流す。水中トレーニングの成果が出ているのだ。
「やるじゃないか! そんなにセンスがいいなら、打撃にだって真剣にやれば」
「それが、できないんです」
「なぜだい?」
「傷つけるのが、怖いです」
セリスの弱点は、この優しさである。
誰かを傷つけたくないばかりに、手加減してしまうのだ。
「アンタなんかにボコられるほど、ヤワじゃないさ。思いっきり叩き込みな!」
ドラミングのように、ドミニクは胸をバチンと叩いた。
「ほら、この両腕に打ち付けるつもりで」
ドミニクは右手を縦に、左手を横に構える。
「えいえい!」
セリスは意を決したらしい。
パンチやキック、手刀をドミニクの腕に当て続けた。
顔を狙わないなら、手加減はしないようだ。
「そうそう。なかなか鋭い攻撃ができるじゃないか! 聖女のトレーニングをしてきただけあるね!」
拳やケリを受けながら、ドミニクが感想を述べる。
それでも、打ち込みが弱い。
「もっと力を込めて大丈夫です。でないと、脂肪が燃焼しません」
やはり、まだ心の弱さが残っているようだ。
「アンタも、不意打ちが卑怯だなんて思わなくていいから!」
背後から攻撃するかためらっていたテトに、ドミニクが呼びかける。
作戦を見透かされていたテトが、苦し紛れに攻撃した。
ドミニクは、膝を曲げただけでテトのパンチを受け止める。
反撃の足刀を繰り出した。
身体をのけぞらせて、テトは回避する。
が、体操着が破れてしまった。
スパーリングを終了して、反省会に。
「セリスさまは、自信がなさすぎだねぇ。相手をブチのめすつもりでないと、相手にも失礼なことがある。拳を交えないとわからないことだって、あるんだ」
「はい」
セリスは落ち込んでいる。
「テトっていったかい? アンタはたしかに筋がいい。打撃になんのためらいもないから、武術の心得があるのはわかる。けど、大振りすぎだ。セリスさまとは逆で、自信家なところはないかい? もっと危機感を持ったほうがいいね」
「助言、感謝する」
テトはずっと、自分の手を眺めていた。自分に足りないものを吸収するかのように。
トレーニングを終えて、ライカはひとり買い物へ行くと出かけた。
二人にはストレッチとプチ断食を行ってもらう。
その間に、ライカはとある人物に相談をしに行く。
「おやおや、誰かと思えば」
「先日は、ありがとうございます」
ライカが知恵を借りに来たのは、魔女カメリエである。
「ワシはダイエットに関しては、お主に遅れを取っておるぞよ」
「いいえ。今回ご相談したいのは」
ライカは、事情を説明した。
「どうにか、なりませんか?」
「実験的に作ったええもんがある。待っておれ」
◇ * ◇ * ◇ * ◇
翌日、トレーニングの場にカメリエが現れる。
「どうも、魔女様お茶をお持ちします」
てっきり顔見せだと思って、セリスは部屋へ行こうとした。
ライカは、慌てて止める。
「いやいや。今日は別の用事で来たのじゃ。ライカ殿に呼ばれてのう」
「あの、魔女様? いったいなにを?」
「スパーリングじゃ」
「え⁉」
セリスが、驚きの声を上げた。
「もしかして、魔女様も美闘士だったのですか⁉」
カメリエは、セリスの質問に手をヒラヒラと振る。
「たしかにワシは、美闘士の心得もある。じゃが、今回戦うのはワシじゃない」
フラスコを一本だけ、カメリエは道具袋から取り出す。
「お主らの相手をするのは、これじゃ」
言いながら、カメリエはフラスコを揺らした。緑色の粘っこい液体が中に入っている。
「それは?」
「まあ見ておれ」
セリスへの返答もそこそこに、カメリエはフラスコの中味を地面へ零す。
液体は意志を持っているかのように、ブヨブヨと動き出した。
テトは興味深そうに間近で見つめる。
セリスは怯えながら、ライカの後ろに隠れた。
カメリエが呪文を唱え、緑色の液体に向かって杖をかざす。
杖から放たれた光が、液体に降り注ぐ。
ブヨヨヨ、という粘り気のある音を発し、液体が巨大化した。人間の身体よりも大きく成長した。さすがに天井までは届かないが、それでも大した巨大さである。
立方体がいくつも重なったスライムが誕生した。
人間の姿に切り取った緑色のこんにゃくを連想させる。
「スライムじゃ」
緑色のゼリーがピョンピョンと跳ねった。
まるで、挨拶をしたみたいに。
「スパーリング相手が必要かのうと思って作ったのじゃ」
カメリエが腰に手を当ててのけぞる。
「これを相手に、組み手をしろと?」
「左様。テト殿はともかく、セリス殿は人間が相手じゃと手加減してしまうじゃろ?」
力なく、セリスはうなずいた。
「実は、そうなんです」
ライカも同意する。
ここ数週間で、スパーリングの成果に差が出てきていた。
テトは積極的で、スパーも激しい。
しかし、セリスはどうも全力で来てくれなかった。
こちらは、これでも美闘士だ。手加減など不要なのに。
「多少の意識を植え付けているので。簡単な意思疎通くらいならできるぞい。あと、此奴からは攻撃はせぬ。打ち込むだけじゃ」
「それだと、可哀想ですぅ」と、セリスが抗議する。
「心配はいらぬ。攻撃は受け付けぬ。その為のスライムじゃ」
「では、遠慮なく」
試しに、ライカがスライムに拳を打ち込んだ。軽くジャブを。
まるで、水袋のような感触だ。思ったより不快感はない。
「連続で打ち込みますよ!」
容赦なく、回し蹴りやボディブローを叩き込む。
「顔も?」
六面体の顔に拳を打ち込むか、ライカは一瞬ためらう。
「OKじゃ。こやつに顔などあってないようなものじゃ」
カメリエから許可をもらえた。相当の丈夫さがあるらしい。
ベタ付く感触もなく、手首も痛めないように弾力も考えられている。
「これなら、浸透勁も!」
ライカは、体中のプラーナを練り込む。
久しく全力を出してこなかったが、これだけ柔軟性の高いスライムなら。
「電光パンチ!」
電気を帯びた掌打を、スライムへと打ち込んだ。
拳を電気で加速させ、さらに雷属性のプラーナを相手に流す。
スライムゴーレムの身体が、大きく跳ね上がる。
「しまった、強すぎたか?」
勢い余って、ゴーレムを破壊してしまったかと思った。
しかし、波のように上下しただけで、ゴーレムは無事、原型を保つ。
「おりょ?」
突然、カメリエの着る毛布がビリっと破れた。
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