伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第三章 ないぞうしぼう!(果てしない減量と未曾有の危機に、聖女は思慕を歌う!)

セリス 対 スライム

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「どうなされたので⁉」
 あまりに予想外の展開だったので、ライカも驚く。

「心配無用。このスライムゴーレムと着る毛布は、ワシのプラーナと連動しておるでのう。ゴーレムにダメージが通ると、ワシのプラーナにも影響が出るようじゃのう」

  スライムにダメージを与えると、カメリエに反動が来るらしい。

「それじゃあ、ゴーレムを倒したら素っ裸になるじゃないですか⁉」
「ワシ自身に傷がつくのではないでのう。服もプラーナが回復すれば、また再生できるよってに」
「そうですか。ご安心ください。幸い、ここは回復温泉のそばです。回復したくなったらご入浴ください」
「そうさせてもらおうぞ」

 安全だと分かると、セリスはスライムに一礼してパンチを叩き込む。

「スライムさん、痛いですか?」とセリスが言うと、プルプル小刻みに振るえた。痛くはないらしい。
「ふむ……」

 気むずかしそうな表情を、カメリエが浮かべた。

「どうなさいました、カメリエさん」

「いやのう。ちょっとセリス殿の様子をのう」

 ライカは、セリスに目を向ける。

 へっぴり腰気味に、セリスは拳をスライムにペチペチ叩き込む。
 その度に「ごめんなさい」と何度も繰り返す。

「スライムにまで気を遣うとはのう」

 セリスにはそういう一面がある。セリスの拳には、思い切りが足りない気がしていた。
 憎くもない相手と戦えない気迫の弱さ。人を傷つけることを極端に恐れている感じがする。

 セリスとテトは、向かい合ってパンチを打ち込む。

 ようやくセリスが、本気を出し始めた頃だ。

「おお、この感触は!」
 水袋のような弾力を、テトが揉みしだく。

「まさしく、おっぱい……」
「話せるのう。そうじゃ。この感触を出すのに苦労したわい」
「ふむふむ、完璧……」

 テトとカメリエが、オッパイ談義を始めてしまった。

 そこまで言われたら、少し気になる。

 自然と、手が勝手に動き出す。

「もう、何を考えてるんですか、ライカさん!」

 一心不乱にパンチを叩き込んでいたセリスが、急にスライムの脇から顔を覗かせる。

「いえ、ボクは何も⁉」
 セリスに窘められ、ライカは手を引っ込めた。
 頬を膨らませるセリスに、弁解する。
 別にやましい考えなどないのだが。

「ライカさんのエッチ!」
 強烈なボディーブローを、無意識ながらスライムに叩き込む。

「おっと」
 カメリエの胸元が、少し破れた。

「あわわ。ごめんなさい!」

「構わんよ。人に肌を見られるのは気にせん」

「でもでも⁉」

「ええから続ければよい」
 カメリエは、まったく気にしない。

「蹴りも追加してみましょう。腰に回転を加えて。捻ることを意識して下さい」

 テトがローキックを叩き込んだ。こういう時のテトは、ためらいがない。

 その様子を、セリスが憧れも眼差しで見ている。負けじと思ったのか、セリスも腰をひねった。豪快な足払いを繰り出す。

 脚が反動で跳ね上がる。

「きゃん」と声を上げて、セリスが転倒しそうになった。

 これでは、固い地面に尻餅をついてしまう。

「おっと」と、ライカが身体を貸す。

 ライカの方が尻餅をついたが、セリスは幸い無事だった。

「おケガはありませんか、セリスさん」
「あ、あわわわ」
 どういうわけか、セリスは口をパクパクさせて、硬直していた。

「ライカ殿、それはいくらなんでも」
「おお、なんとも奇っ怪な現象。これが主人公時空という奴かいのう?」

 テトは呆れ顔になり、カメリエはニヤついている。

 ライカは、二人の視線の先を追った。

 視線はライカの手の位置に集中している。厳密には、ライカが掴んでいるモノに。

 やけにスライムと同じような感触に触れていると思った。
 当のスライムはライカとセリスの前方にいる。触れようがないはずだ。
 しかし、確かにライカの手には、スライムと同じ弾力のある物体が手の中に。

 その物体はほどよい弾力があり、スライムにはない温もりがある。

「まさか」
 ライカは確信した。自分はセリスの胸に触れているのだと。

「ほあああああ!」
 飛び跳ねるようにライカから離れ、自分の身体をかばう。

「し、失礼!」
 ライカの顔面に、セリスの平手打ちが飛んできた。

「すみません、手が勝手に」
 倒れたライカに、セリスが手を差し伸べてくる。

「いえ、当然の反応かと」
 セリスの手を掴み、引っ張り起こしてもらう。

「やや、眼福眼福。ではセリス殿、ワシと実戦とまいりましょうかな?」
「魔女様とですか?」
「左様ぞな」

 ただし、戦う相手はスライムである。

「そんな。魔女様と戦うなんて」
「敵は待ってくれぬぞい」

 カメリエが、杖をスライムにコツンと当てて、更に魔力を流し込んだ。

 力こぶを作って、ポヨンとダッシュした。強烈なタックルを、セリスに見舞う気である。

「モップ!」
「はい!」

 腰を落とし、セリスは衝撃に備えた。
「はあっ!」
 インパクトの瞬間、カウンターで正拳突きを食らわせる。

「ほっほー」
 カメリエのフードが、吹っ飛んだ。人間の頭だったら一大事である。
「さすが聖女殿じゃ。これだけの力を引き出せるかえ」

「そんな。わたしはただ、ライカさんの教えに従ったままで」
「それだけで、ここまで強くなるとは。恐ろしいのう」

 セリスの脇腹に、スライムの打撃が入る。
 ただし、当てただけ。

「あれ、痛くな……いいっい⁉」

 スライムに攻撃されても、ダメージが入るわけではなかった。
 しかし、水着の面積が薄くなっていく。

「水着が肩代わりしてくれたのじゃ」

 痛みを与えない代わりに水着が溶ける魔法を、スライムに施したのか。

「ボクがフォローします。セリスさんは、回避に専念して!」
「は、はいい!」

 ワンツーが、スライムから飛んでくる。

「基本は回し受けで!」

 ライカの指示通り、セリスは動く。防御できている。

 もどかしい。ライカなら一撃なのに。

 しかし、ライカの全力を与えても、服が多少破れただけだった。
 魔女カメリエ、美闘士はじかじった程度だといっていたが、相当の実力があるようだ。
 なにより、攻撃はロクに教えていない。


 だが、待てよ。


「セリスさん。おっぱいを狙って!」

「はあ⁉ 何をおっしゃって⁉」
 顔を真っ赤にしたセリスが、振り返った。

「ほら、攻撃が来ますよ!」

「わわ!」
 身体をのけぞらせて、セリスは回避する。が、わずかにかすってしまった。

「ちょちょ!」

 水着のヒモが、ほどけそうだ。

「スライムの弱点は、おっぱいです! おっぱいに一撃を!」

 わなわな、という音が、セリスから聞こえてくる。

「ライカさんの、ばかーっ!」

 オッパイを狙ってのハイキックを、スライムに食らわせた。

 前蹴りを浴びて、スライムがライカのいる方角へ吹っ飛ぶ。

「ぶっぺ!」
 せっかく、セリスからの攻撃だ。甘んじて受ける。

「大丈夫ですか、ライカさん⁉」

 大慌ての様子で、セリスとテトがライカの元へ。

「平気ですよ、このくらい」

 ライカは、スライムを片手で持ち上げる。

 スライムの背中が、不自然に曲がった。
 弾力のあったゴーレムは、緑色の液体に戻ってしまう。
 ドロドロの体液を、ライカはまともに浴びてしまった。

 と、いうことは……。

「お見事!」
 カメリエが、全裸になってしまう。

「えっ、ちょ!」
 ライカが慌てて、腰布をカメリエにかぶせた。

「どうしたんです⁉ セリスさんの攻撃は、それほどでもなかった気が」

「そうなんじゃ。実際、セリス殿のキックはそこそこのダメージしかなかった。じゃが、テト殿の攻撃も浴びておったし、ライカ殿が」

 全力の掌打をスライムに与えたことを、ライカは思い出す。

「すいません。カメリエ様の痴態は、ボクのせいですね」
「なんのなんの。美闘士たるもの、このくらいは慣れておかねば」

 カメリエは笑っているが、魔力切れの状態で魔物に襲われては。

「回復用のお風呂があります。今日は休んでください」
「ありがたく、湯をちょうだいする」
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