伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第四章 ちゅうせいしぼう! (途中で何度も挫折しかけたけど、ここまで頑張ってこられた理由は、みんなの声援と支援と希望!)

完 ダイエットは続く⁉

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 激闘が終わって、キャスレイエットに帰還する。

 夕飯の準備は、済んでいた。誰も箸をつけずに、セリスたちの帰りを待っていたのだ。

「はやく食おうぜ。こちとら酒を飲まずに待っていたんだぜ」
 せっかちなドミニクが、ライカを急かす。

「お待ちください。二人が着替え終わるまでです」

 ライカが行った直後、着替え終えたセリスとテトが戻ってきた。

 ふたりとも、パーティのときに来ていたドレスに身を包んでいる。

「やはり、よくお似合いです」
 二人が席についたのを確認し、ライカは鍋のフタを開けた。

 湯気と共に、食欲をそそる香りが溢れ出す。湯気が晴れると、情熱的な赤い色が飛び込んできて、食欲をそそる。

「ブイヤベース風の海鮮鍋です。シメに飯も放り込んで、リゾットにします」

「うわぁ」と、言葉にならないため息が、口々に漏れ出した。

「では、いただきます」
 ライカの言葉で、全員が箸を伸ばす。

 熱々の具を、セリスはハフハフ言いながら夢中でかき込む。

 トマトの中で魚介と鶏がいいダシを出している。
 確実にうまいはず。
 事実、その場にいる全員が揃って箸を止めず、一心不乱に自分の分を取り分けていた。

 臨月のミチルには、旦那が皿へ注いであげている。

 鍋を囲んで、思い思いに談笑が始まった。

 雷漸拳秘伝のダシは、この笑顔だ。
 この笑顔なくして、鍋は語れない。

 固かったテトの態度も、ようやく軟化した。
 ずっと我慢していたエールで喉を潤す。
 厳密にはアルコールの入ってないただの苦い飲み物だが、それでも待ち焦がれていた苦みだったのだろう。

 実に絵になる表情で飲み干す。
 いつもの調子が戻ってきたようだ。

 具の入れ替えも二度目にさしかかった頃、テトがライカに近づいて、頭を下げる。
「ライカ殿、今日は感謝する」

「ボクは、何もしていませんよ」
 
 そうだ。ライカは何もしていない。
 全部、自力で解決したのだ。
 それでいいじゃないか。

 シメには米を入れてリゾットを振る舞い、鍋の中味はキレイになくなった。

 どれくらいの時間が経っただろう。酒を飲んでいた組は、酒も気持ちよく回ったのか、ソファで突っ伏している。

 デザート片手に、ライカはセリスの姿を探す。

 セリスは一人、バルコニーにあるテーブル席で涼んでいるようだ。

 バルコニーでセリスと二人きりとなり、デザートを差し出した。

「お待たせしました。手作りのチョコレートケーキです」
 一際、セリスの瞳が輝きを増す。
 遠慮のないフォークが、チョコレートの壁を崩した。

「ありがとうございます。わたし、幸せです」

 カフェオレとチョコケーキを堪能して、セリスは満面の笑みを浮かべる。

 こうして、賑やかな夜が更けていった。

 二人はもう、ダイエットをする心配はない。

「わたし、聖女としての勤めを果たしたでしょうか?」
「十分すぎるくらいです。あなたは見事に武具を着こなし、こうして世界も救えた。あなたにしか、できなかったんですよ」
「わたし、ライカさんと出会えて、幸せです」

 セリスの言葉は、僅かに熱を帯びていた。
 言霊というのだろうか、特別なプラーナが籠もっている。

 それがどういう意味を持つか分からないほど、ライカは鈍くない。

「……ライカさん、これからもずっと」
「そこまでです」

 ライカは、セリスのセリフを遮った。

「あなたは務めを果たした。ボクは、故郷に帰ろうかと思います」
 セリスが、少し寂しそうな顔になる。

「ボクは、あくまでも客人です。いつまでも居座るわけには」
「ライカさんは、ここにいていいんですよ」
「セリスさん」
「だって、ライカさんはわたしのお友達じゃないですか」

 まるで太陽みたいな人だ。
 聖女であることも頷ける。
 けれど、それ以上に彼女は誰よりも人間らしい。

 ああ、だからこの人に惹かれたんだな、と、ライカは感じた。

「テトさんだって、ずっとここで働けることになったんです。ライカさんも、この地でずっと修業なさってもいいんです」

「ありがとうセリスさん」

 ライカとセリスが話していると、ドミニクが呼びに来る。
「おーい! ミチル嬢が産気づいたって!」

 ミチル出産の報を聞き、ライカはウーイックの治療院へ。




 あれから、武具は元の場所へ封印された。

 二つのビキニアーマーは、仲良く揃って像に掛けられている。

 自然界の力が元に戻った以上、もう必要はないかもしれない。
 魔王のプラーナにあてられても、魔物が暴れ出す予兆もなかった。
 ウーイックのプラーナが安定した今、もう二度と封印が解かれることはないだろう。

 セリスとテトのダイエットは、これで終わったかに思えた。

 しかし、終わってなどいない。むしろ、これからが始まりだったのである。

「はひ、はひ」
「えっほ、えっほ」

 屋敷の外れにある広場にて、競歩で争う影二つ。
 お互いにブルマー姿の二人は、競い合うようにウォーキングで汗を流す。

「負けないのだ」と、テトがセリスを追い抜く。

「わわ、わたしだって負けないです!」

 セリスが、テトを抜き返す。

 実をいうと、セリスとテトの両名は、少し体重が戻った。

 ライカの心遣いもあったが、緊張の糸が切れたかのように、すっかり二人は自堕落になってしまったらしい。

 今はそれでいいと思っていた。
 あれだけの激闘を繰り広げたのだ。
 誰が彼女たちを責められるというのか。

 しかし、またダイエットの依頼を受けるとは予想外だった。
 もう終わりだと思っていたが。

「お二人とも、もう世界を憂う必要はありません。世界は自力で傷を癒し、また命が芽吹くことでしょう。だから、お二方がやせる必要はないのです。太ってしまったって、いいじゃないですか」

 ライカは二人に告げる。

 事実、雷漸拳のレクチャーがまだ活かされていて、リバウンドといっても大した増加は見られない。一ヶ月くらいで武具を装着できるくらいには戻るだろう。

「違うのだ。これは女同士のプライドの戦いであって」
「そうなんです! 理屈じゃないんです!」

 二人からすると、どうも事情が違うようだ。
 何らかの目的があって、独自にダイエットを開始したのである。

 それだけでは不安だというので、ライカに申し出てきたのだ。

「というわけで、今後もご指導お願いします」

 セリスたちにダイエットの指導を再び頼まれたときは、何事かと思った。

 自分はもう、お役御免だと思っていたのに。

「いったい、何なんでしょうね」

 赤ん坊を抱きかかえるミチルに、尋ねてみる。

「バカね、あんたとまだ一緒にいたいからに決まってるでしょ」

 面と向かって言われて、ライカは赤面しながら息を詰まらせた。

「ちょっと、そんな冗談は。ボクはそこまで、有用な人間ではありませんよ」

 セリスもテトも、ライカの力など借りなくてもいいだろうに。
 自力でダイエットできる方法は、すべて伝授したはずだ。あとは体調管理くらいだろう。

「それは、あんたが決めることじゃないわ。あんたがそう思ってても、二人にとってあんたは頼れる人だわ」

 ミチルの言葉を受けて、ライカは混乱した。
 何なんだろう?
 自分はただの修行僧で、そこまで二人に好意を持たれる理由なんてあっただろうか。

 セリスとテトはこちらに視線を送って、また加速する。

「張り切るのだセリス様。でないと、あのドレスを着るのは私になるぞ」
 テトがセリスを追い抜く。

「わたしですっ! ライカさんと社交界で踊るのは、わ、わたしですぅ!」
 セリスが抜き返す。

 互いに追い越し追い越されながら、二人が言い争っている。

 グラウンドの中央には、高級なドレスが。
 二人のうち、どちらかやせた方が着る予定だ。

 二人がどうしてこれを着ようと争っているのか、ライカには分からない。


(了)
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