伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第四章 ちゅうせいしぼう! (途中で何度も挫折しかけたけど、ここまで頑張ってこられた理由は、みんなの声援と支援と希望!)

決着!

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「そこだ!」
 セリスは一気に攻め立てようとする。

 しかし、それがいけなかった。

「甘い!」
 テトの心を奪い去るように、魔王が息を吹き返す。
 魔王の剣がセリスの肩を舐め取る。

 肩にプラーナを噴き出し、セリスは膝を突く。
 プラーナを抑え込まざるを得ない。
 肩からのプラーナ放出は防げた。
 たが、消費を少しでも抑えたい状況でこれはまずい。

「テトの心を取り戻そうと打って出たようだが、その行為が殺気を呼んだ」

 どうすればいい。どうすれば、テトを呼び戻せる?

 とはいえ、魔王の精神も擦り切れている頃だろう。
 先ほどの攻撃で、セリスを殺そうと思えば殺せたはずなのだ。
 それなのに、力が入りきっていなかった。

 セリスだって同じである。プラーナの消耗も著しい。
 
 これが最後の一撃だ。あと一撃で、全てが決まる。

 プラーナの消費量で言えば、セリスの方が激しい。

「ライカさん、すぐ終わらせますから、待っていて下さい」

「何を抜かすかぁ!」
 ベルナテットが、紫に輝く剣を振り下ろす。

 考えろセリス。今までの修行を思い出せ。
 雷漸拳を信じろ。信じるんだ。

 今のベルナテットは雷漸拳を捨てた状態。
 心を預け切れていない。
 セリスとベルナテットの違いは、そこだけだ。

 自分は、雷漸拳に心を委ねる。

 走馬燈のように、修行に明け暮れた日々を思い出す。

 雷漸拳は、ただの拳法ではなく、ダイエットのための道具でもない。雷漸拳は守りの型だ。そこに活路があるはず。

 もっと思い出せ。まだ何かある。
 
 
 かつて、ライカはルドン卿をどうやって倒した?
 あの剣豪を一撃で倒した技は何だったか?

 
 セリスが刹那の刻を、一撃に賭けた。

 ぬるり、と身体が動く。
 まるで自分ではないみたいに。
 自分が何をすべきかは、武具が教えてくれる。

 気がつけば、斬撃を受け流していた。
 ゼロ距離で回避し、剣の軌道を逸らす。剣を犠牲にして。

「武器を失ったお主など、妾の敵では」
「それはどうでしょう?」

 プラーナの総量で劣っているなら、これしかない。
 セリスはそう思った。



電光パンチフングル・プヌグス!」
 セリスは、テトのみぞおちにカウンターパンチを見舞う。



 それが最初に教わった打撃だ。


「なあ⁉」
 今までのセリスではありえない動きに、魔王が戦慄する。

 ダイエット一ヶ月前、手すりを拭くように手を動かして、打ち込んだのを思い出す。
 その時は自分も、雷漸拳を信じ切れていなかった。
 今は違う。雷漸拳が自分を導いてくれている。

 セリスは両手を交差させた。
 かつて、ルドン卿を倒したライカのように。
 自分とライカをシンクロさせた。

 雷漸拳は守りの型だ。そして攻撃は最大の防御なり。

「無駄だ。打撃は魔王武具によって吸収され――」


「ぬん!」
 体内にある全てのプラーナを、一気に魔王の中へと注ぎ込んだ。


 ドスン、という激しい轟音が鳴り響く。

 魔王の身体が、プラーナの放出によって弾き飛ばされる。
 派手にテーブルへと突っ込んだ。

 体内のプラーナに直接作用する雷漸拳に、ヨロイは無意味。

「ハア、ハア、ハア……」

 セリスは息を荒くした。
 もう一滴のプラーナも残っていない。
 手の感覚もマヒしている。
 全身に力が入らない。
 指がブルブルと震えている。

「まだ、だ!」
 魔王が、ガレキの中から這い出てきた。
「我に打撃を打ち込んだ程度で、いい気になるでないわ!」
 セリスを指差し、魔王ベルナテット怒号を上げる。

 反撃をしようにも、セリスはもう力を使い果たしていた。
 このままでは。

「もう大丈夫です、セリスさん」
「うむ。見事なり聖女殿」

 隣に、ライカとカメリエが駆けつける。

「ここまで来てまだ立ち上がるとは、魔王もしぶといのう!」

「いえ、勝負ありです」
 だが、ライカは余裕の表情を浮かべた。

「バカな⁉ 妾はまだダメージらしいダメージなんぞ負って……な、なんだこれは!?」
 魔王の身体に、異変が起き始める。
 武具が維持し切れていない。
 今にも金具が外れようとしている。

「ああっ!」

 とうとう、武具のパーツが飛び散った。

 武具から解放されたテトが、糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちる。

「ほれっ!」

 魔法による体移動で、カメリエがテトの身体をふわりと抱きかかえた。

『バカな。まさか、武具の拘束が解けるとは』
 魔王武具そのものが、言葉を発する。

「雷漸拳は、体内に直接作用する技を持っています。セリスさんに潜む聖女としてのプラーナが、あなたのプラーナに直接ダメージを与えたことによって、あなたは力を保持できなくなったのです」

 プラーナの流れを変えて、邪悪なプラーナだけを放出したのだ。

 テトが雷漸拳を習っていたから、為せる技である。

『なら、今度は聖女の身体をいただくとしよう!』


 魔王武具の次なる標的は、セリスのようだ。


「やらせません!」
 意識を集中させ、再び剣から刀身を生み出す。
 セリスの剣が、魔王の武具を斬りつけた。

 テトから離れた以上、もう容赦はしない。

『ぬうわあああああっ!』

 切り裂かれた箇所から、黒いプラーナが溢れ出した。
 魔王武具が、勢いを失っていく。

 武具は、プラーナの結晶体だ。
 同じプラーナ同士によって攻撃できる。

 やがて、武具は全てのプラーナを吐き出した。
 単なる布きれと化して、魔王武具は床に落ちる。

 魔王城からプラーナが放たれた。

 氷漬けのようになっていた極寒のウーイックに、プラーナが降り注ぐ。
 魔王が吸い上げていたエネルギーが、土地や魔物たちへと戻っていった。

 ずっと感じていた寒気も収まる。

「勝った……?」

 布に近づいていくが、魔王武具は反応を見せない。

「はい。セリスさんの勝利です」

 ライカの言葉を受け、セリスは剣を落とした。
 全身の力が抜け、倒れ込む。

 とっさに、ライカがセリスを支えてくれた。

「見て下さい」
 ライカに促され、外を見る。

 まだ完全とは言わないが、ウーイックに緑が戻ったように思えた。

 魔王の暴走が収まったのだ。
 これでもう、魔王領は安心できるだろう。

「わたし、勝ったんですね」
「はい。テトさんも無事です。あなたは見事、魔王を撃ち倒したのです」

 ライカの腕に抱かれながら、ようやくセリスは勝利を確信する。

「あの、セリス様」
「テトさん! 気がついたんですね?」

 カメリエの手の中で、テトが目を覚ます。

「セリスお嬢様、この度は、ご無礼を」
「いいんです。幸い、被害は出ていません」

 魔物や森も、無事である。
 魔物たちも穏やかであり、人を襲う気配はない。

「疲れましたね。これから何をしたいですか?」

「お腹いっぱい食べたいです」
 正直に言う。今だけは、ただの空腹を抱えた少女に戻りたい。

「帰りましょうテトさん」
 セリスが、テトの手を取ろうとした。

 しかし、テトは手を握り返そうとはしない。
 まだ、自分がしでかしたことに責任を感じているのだろう。
「私は魔王の子孫、これ以上聖女様の施しを受けるわけには」

「そんなの、放棄すればいいじゃないですか」

「え?」
 テトがセリスに視線を向けた。

「魔王の驚異は去りました。魔物さんだって、もう魔王に従う必要もないんです」

 ライカも、セリスの言葉にうなずいている。

「魔物たちは、魔王に強制的に従っていただけです。魔王さえいなくなれば、彼らも安心してすごせます。あなたは魔王になる必要はない。ただのテトさんに戻っていいんですよ」

 うつむいていたテトが、顔を上げた。

「私は、あの場所にいていいのでしょうか?」
「はい。一緒に帰りましょう。テトさん」
「セリス様、ありがとうございます」
 


 こうして、魔王の脅威は去った。
 魔物たちに見送られながら、テトは魔王の領土を離れる。


 魔王領に、テトはずっと手を振っていた。
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