伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第四章 ちゅうせいしぼう! (途中で何度も挫折しかけたけど、ここまで頑張ってこられた理由は、みんなの声援と支援と希望!)

テトの迷い

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 たしかに、テトはこれまでセリスと何度も組み手をしてきた。
 その数倍はスピードがある。
 しかし、クセまでは拭い切れていない。
 セリスは感覚だけで、全て捌ききる。
 ライカが教えたとおりに。

「うまい!」
 思わず、ライカが声を上げた。

「そこです!」
 セリスの掌打が、魔王のアゴを捉える。

 魔王の身体が一瞬揺らぐ。

「畳みかけて、セリスさん!」
 ライカが檄を飛ばす。

 セリスも拳に力を込めた。二撃目を。

 しかし、魔王が息を吹き返す方が早い。
 魔王は床に手を付いて、倒れる寸前でセリスに足払いを見舞う。

 続けざまに足刀を脇腹に受けた。

 セリスが吹き飛ぶ。
 長テーブルに背中を打ち付け、地面に一回転した。

「セリスさん!」
 駆け寄ろうとしたライカを、セリスは制する。

 セリスは躊躇っていた。
 その油断によって、魔王の蘇生を許してしまう。
 油断していては勝てない相手だとわかっているのに、踏み切れていない。

「笑止な。この程度の相手を恐れていたとは。我ながら無駄な時を過ごした。そんな甘い思考では妾を倒す事などできん」
 気だるそうに、魔王が髪をかき上げる。

「テトさん、目を覚まして下さい」

 セリスに呼びかけられて、魔王は首を振った。
「我はテトなどという矮小な存在ではない。魔王ベルナテット」

「それが、あなたの限界です。魔王」

「……何?」
 ライカの言葉に、魔王が初めて怒りを露わにする。

「セリスさん、もうこの人は、あなたの知っているテトさんではありません。存分に手を下しましょう」

「ライカ殿、これでは火に油を注ぐことにしかならんぞ!」
 カメリエが、慌てふためく。

「大丈夫。最後に勝つのは、テトさんです」

「言っている意味が分からんぞい!」
 言葉の意図が掴めず、カメリエは頭を抱える。

「何を言っているのか。お前は聖女ではなく、魔王の勝ちを予想するのか?」
 同じく魔王も、ライカの言葉を笑い飛ばした。

「あなたが勝つと、誰が言ったんです? 必ずテトさんが、あなたを自分の身体から追い出すはず。勝つのはセリスさんとテトさん両名です」

 二人の意志によって、魔王はこの世界から消え去る。
 自分になら、それができるはずだ。

「わたしは負けません、あなたなんか、絶対に!」
 セリスが構え直す。

「やれるものならやってみるがよい!」
 魔王ベルナテットが、怒りに震える。

 手を変え品を変え、セリスは攻めの手を緩めない。

 だが、ことごとく魔王に傷を付けられずにいた。

「どうして。訓練は同時に受けていたはずなのに」
 自分と魔王との間に、ここまでの差が開いているとは。

「覚悟が違うのじゃ。お主と我では。この世界を統べようとする覚悟が。全てを手にしようとする覚悟がのう」
 得意げに、テトが言い放つ。

「知っておるぞ。お主はあれに惚れておるな」

 たった一言で、セリスの心臓が跳ね上がった。
 一瞬で、セリスの脳内がライカの笑顔で満杯になる。

 首を振って、頭から邪念を追い払う。
 今は自分の幸せなんて考えてはいけない。
 そう思えば思うほど、セリスの胸は張り裂けそうになる。

「じゃが、安心せい。お主を倒し、あ奴は我がしもべとしよう。お前の分までたっぷりと、あやつを愛してやろうではないか」

「そんな事させない! させませんから!」

 怒りに任せたセリスのパンチは空振りした。蹴りも肘打ちも。

 カウンターで膝蹴りを腹に受けた。
 肺の中の酸素が一気に放出される。

 しかし、すぐに体力が回復するような感覚に見舞われた。
 武具が回復させてくれたのか。
 
 頭を振って、気持ちを切り替える。

 目の前にいる人は、テトではない。魔王だ。
 ならば打ち込む。

「ようやくやる気が出たか? ならばこちらからいくぞ」

 前蹴りが飛んでくる。

 思い出すんだ。
 雷漸拳の攻めを、かつて自分が教わってきた技の数々を。

 セリスは足首を掴んだ。
 後ろに下がって、攻撃の勢いを殺す。
 その状態からのカウンターを狙う。
 前に足を踏み込んで、手の平を打ち込んだ。

「やあ!」
 腹に、掌打を見舞う。

「な……これは」

 だが、打撃の勢いが波紋を描くように、魔王に届かない。
 空気の壁があるような感覚が手に触れている。

「これが聖女武具、魔王武具の真髄。単純な打撃や武器による攻撃は、全身を覆う強力なプラーナによって阻まれるのだ」

 あらゆる攻撃は、武具によって阻止されてしまう。

 これではいつまでも決着が付かず、千日手になるではないか。

「テトさん、目を覚まして下さい!」
「無駄だ。テトの意識は余の力で押さえつけてある」

「だったら……」
 セリスは、腰の剣を抜いた。

 鞘しかない剣に力を込めると、プラーナでできた蒼い刀身が姿を現す。

「よかろう。雷漸拳同士の戦いでは勝負が付かぬ」
 対する魔王も、腰の剣を引き抜く。
 鞘から禍々しい紫の刀身が。

 セリスの剣と、魔王の剣が競り合う。

 だが、変化は起きていた。
 先ほどからずっと、魔王の攻撃は決定打に欠けている。
 いまいち力は入りきっていない。
 やはり、人を傷つけたトラウマが蘇ってしまうのだ。

 しかし、テトも同じ状態に見えた。
 顔で分かる。
 先ほどから、手を抜いているかのような太刀筋だ。
 腰が入っていない。

「どうした、この身体は⁉ とどめを刺さぬか!」
「テトさんなら、わたしの気持ちが分かるはずです!」
「おのれ、聖女め!」

 魔王の顔に、初めて人間らしい表情が浮かぶ。
 一瞬だけ、テトに戻った気がした。

 魔王は、テトのいかにも人間らしい感情を昂ぶらせ、そそのかしている。

「聞こえますか、テトさん。あなたなら、自分の手で元のテトさんに戻れます」

 テトが抱いている感情は、多分、セリスにも芽生えていて……。

「呼びかけても無駄だ。最も欲していた物を勝ち得た貴様の声になど、此奴は耳を貸さぬ」

 セリスは首を振る。
「違う! わたしは、何も得ていない!」

「うるさい! お前は全てを持っていて、妾は!」

 魔王の剣が、セリスの肌を斬りつけた。

 血は出ていない。
 プラーナがわずかに漏れたような疲労感がする。
 この剣は、肌を傷つけないのでは?

「ライカさんは、あなたが戻ってくると信じてる。わたしだって同じです。だから、一緒に帰りましょう。その為に、わたしを傷つけてもいい」
 セリスは構えを解いた。

「自らの死を選ぶか、聖女。ならば望み通り、冥土へと送ってやろう!」
 無防備のセリスに、魔王が剣を突き出す。

 しかし、いくらセリスが待っても、魔王は斬りかかってこない。

 魔王の全身に、汗がドッと噴き出している。
 顔は歪み、剣を突き出した構えのまま動かないでいた。

「どうしたのだ!?」
 魔王自身、現状を理解できないでいるようだ。

 セリスには分かっていた。

 迷っている。テトは。
 魔王の制御下で、彼女は戦っているのだ。
 唇を噛みしめ、テトは苦しんでいる。
 剣を前に突き出そうとする度に、手を震わせて首を振った。
 元のテトらしい、精悍な顔が蘇っていく。

「テトさん、自分に負けないで!」
「傀儡は傀儡らしく、自分を見失っておれば、ここまで苦しまずに済んだものを!」

 だが、魔王の制御が、セリスの願いさえ踏みにじる。

「所詮、人間は魔王の制御からは逃れられん!」

 歯を食いしばりながら、テトがセリスに突きを仕掛けた。

 やられる――セリスの脳裏に敗北のイメージが浮かぶ。

 このままテトは、ベルナテットに飲み込まれてしまったのだろうか?

 誰も助けられなくて、何が聖女だろう。

 諦観が、セリスを襲った。

 だが、剣はセリスを貫かない。

「こしゃくな」

 セリスの心臓ギリギリの所で、魔王の突きは踏みとどまっている。
 魔王の顔に、一瞬だけテトの表情が戻った気がした。
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