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15、情報を求めて

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「済まないが失礼するよ?」とラリーは騎士団詰所のドアを開けるとデニーロ騎士団長の姿を探した。

「デニーロ騎士団長はおられるか?」と近くの団員に訊ねると「あぁ、騎士団長なら今は訓練に出られてるよ?伝言なら預かるが?」

「いやいい。訓練に参加されてるならこれから練習場にでも行ってみるよ。」そう話すと詰所から今度は練習場に向かって歩き出した。

練習場が見えてくると大きな声を出して鍛錬する男たちの熱気がここまで来るようだと思った。それぐらい熱が入っている。何と言ってもデニーロ騎士団長はたくさんの騎士に慕われ尊敬されているのだ。

練習場に入るとデニーロ騎士団長はひときわ高い壇上に立ち大声で騎士たちを指導していた。近くに行くとデニーロ騎士団長の秘書がラリーに気づいてくれた。

「これはラリー補佐官。こんにちは。今日はどう言ったご用件ですか?」とにこにこ笑いながら話しかけてくる。

この男は長年デニーロ騎士団長の秘書をやっていて、私生活でも割と仲がいいらしい。

「お忙しいところ恐れ入りますがデニーロ騎士団長に後でお話しを伺いたい。あとどれぐらいで時間を取れそうですか?」と秘書に訪ねると「あと20分ぐらいで終わりますよ。どうぞ良かったらこちらのお席でお待ちになったらいかがでしょう?」そう話すと近くの椅子を勧めてくれた。


しばらくすると「お待たせして申し訳ない。ラリー補佐官。」そう話しながらデニーロ騎士団長が側にやって来た。相変わらずの黒髪だが歳を取りちらほら白い色が混ざって来ている。

「いえ、私も突然来たわけですから。」と話すとデニーロ騎士団長は愉快そうにすっと目を細めた。

「大きくなったな。ラリー君。お父さんはお元気か?」と話しながら隣の椅子に腰掛けた。

「はい、おかげさまで元気です。先日も家族で夕食を共にして来たところです。」そう話すと

「お父さんにまた遊びに行こう。と言っといてくれ。」とにっこり笑った。

「ははっ、分かりましたよ。それよりもうすぐ新しい騎士団長が選ばれるとお聞きしたんですが、実際のところどうですか?いい人材はいますか?」と聞いてみた。

「あぁ、いるにはいるよ。」と一瞬顔を曇らせたがすぐに表情を整え、「・・・・・・強い男だ。」とひと言だけ言った。

「そうですか。実は個人的にお聞きしたい事があります。ちょっとここでは人目があって話しずらいので、少しご移動願えますか?」と提案した。

「じゃあ僕の部屋へ行こう。着替えたいしちょうど喉もかわいた。」デニーロはそう話すとラリーを連れて歩きはじめた。

「えぇ、そうですね。その方がいいかも知れません。」ラリーもその意見に同意しながら椅子を片し、一緒に歩きはじめた。


「おい、お茶を2つ頼む。」デニーロは部屋の入り口で秘書にそう話すと執務室にラリーを連れて入った。

「ラリー君、本当に大きくなったなぁ。俺が歳をとるはずだ。」と言ってデニーロは練習着を脱ぐと水で濡らしたタオルで身体を拭き、さっぱりしたところで薄地の生成りのシャツを着た。歳を取っては居るがすごい筋肉だ。さすが現役の騎士団長である。ラリーは密かに感心した。

「失礼しますよ?団長?」とここで先ほどの秘書が2人分のお茶の用意をして入ってきた。

ふわっとこの部屋に優雅なお茶の香りが漂う。少し部屋の雰囲気がほぐれた。

「ありがとう秘書殿。さぁ、ラリー君、話を聞かせて貰おうか?済まないが人払いを頼むよ?」と秘書に向かって話して秘書を下がらせた。


部屋から出ていく秘書を見送ると「えぇ、もうお察しでしょうが私が産まれた時の話です。」とラリーは話し始めた。



デニーロは当時の話をよく覚えていて「とても月が綺麗な夜だったよ。忘れられない夜になった。」と言っていた。

俺の妹の話は少しだけ聞けた。

まずアルファザードのファースト家と言う公爵家に双子の男児として産まれた事になっていた。ちなみにもう1人は女児だったんだそう。

16歳まではカルスと呼ばれた俺の妹はファースト家で過ごしその後、個人のプライバシーを尊重する寄宿舎に預けられたらしい。

少し前にデニーロが寄宿舎にカルスについて問い合わせた事があってその時は既に退学した後だったと聞いた。しかし周りの人の話によると妹のカルスは喧嘩好きでめっぽう強かったらしい。

「デニーロ騎士団長、もう一度確認しますがこれは話ですよね?」

「・・・・・・信じられないだろうが君の妹さんの話しだよ?」

妹よ?お前はファースト家で一体どんな暮らしをしてたんだ?どうしてそんなに・・・。まぁいいや。次の話を聞こう。

しかしデニーロが幾ら消息を探してもその後の話は聞けなかった。カルスはある日退学する旨だけ寄宿舎に告げると、それ以外は誰にも告げず寄宿舎から消えたらしい。
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