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14、妹
しおりを挟む「ラリー補佐官、出兵の調整は進んでいるかね?」突然、チャールズ皇子の執務室に招かれざる客が訪れたのは、とある日の昼下がりだった。
ちょうどラリーは王宮内のチャールズ皇子の執務室で皇子や他の外交官と共に遅めの昼食をとっていた所だった。
昼食時には王宮のスタッフは食堂で食べる事が多いが、こうして事前に予約を入れておくとデリバリーもしてもらえる。
王宮専用の菜園で育てられた野菜は瑞々しく、また肉や魚もこの国1番の産地から取り寄せられるので、シェフの腕さえ確かなら不味かろうわけが無いのだ。
チャールズ皇子とラリーは食べかけのランチボックスの蓋を閉じてすぐに席を立ち「父上、本日はどうなさったのですか?」とまず息子であるチャールズが口を開いた。
国王はふっと笑うと「突然、食事時に済まんな。楽にいたせ。」と手で着席するよう指示した。
「まぁ、たまたま近くまで来たのでな。それよりラリー補佐官、あの件はどうなっている?」と国王勅命の出兵の進捗状況を確認しに来たのである。
「お父上、どうかお考えを改めてはもらえませんか?民衆が犠牲にならぬよう話し合いで何とかなりませんか?」とチャールズ皇子が父親であり国王でもあるランカー国王にそう進言した。
この国リーベルは「強国強兵」をモットーに数年前から取り組んできた。と言うのもアルファザードと戦争した時にあちらの言い分を5割も通してしまった事を今でも根に持っているからだ。
「我が国が弱いから舐められるのだ」その一心で兵を増強し武力を蓄え政治も進めてきた面がある。しかしチャールズ皇子は血なまぐさい戦争なんて物は望んでないのだ。
「ただいま調整中です。閣下」とラリーは静かに席からそう報告する。
「ラリー補佐官、デニーロ騎士団長の事を気にしているのか?彼ももう老兵。満足に戦えまい」と言って笑った。
そして息子チャールズに向かって「チャールズ、これはお前のためでもある。準備ができ次第、状況を踏まえ我が国はアルファザードを叩く。これは国命だと思え。」そう話すとランカー国王はチャールズの執務室から数名の取り巻きを連れ出ていった。
取り巻きたちはいずれも名の通った貴族である。ラリーの父のクリストフ公爵は体調不良を理由に国政に参加していない。だがこれを咎めるものはどこにもいない、既にラリーがその代わりをしているからだ。
もうデニーロ騎士団長も歳だ。もうすぐ新しい騎士団長が就任するだろう。おそらく戦争賛成派の人物になるのは火を見るより明らかだ。
「はぁ、父上はどうしてあんな・・・・・・。」とチャールズ皇子は窓の外を見ながらため息をついた。
「チャールズ、お父上の意見はわからないでも無いです。」とランチのあとチャールズの秘書が入れた食後のお茶を飲みながら話し出した。
「うちの密偵の話ではアルファザードは今、ヤプール国を見ています。」
「あぁ、その話は私も聞いている。」
「それだけではありません。今、ヤプールの騎士団長はたかだか20歳程の若い男です。今なら経験も浅い。アルファザードはこのチャンスに地理的にもヤプールを何とか属国にしたい。」そう話すと目を細めた。
「その背後を叩きたいのだな。父上は。」とチャールズもカップを皿に戻すと再び窓から外を見た。
「まぁ普通そうでしょうね。」そう話すとラリーは席を立った。
「すいません、少し騎士団の詰所に行って来ます。」そう話すとチャールズの執務室から出て行った。
チャールズの執務室から騎士団詰所まで歩いて10分ほどかかる。ラリーは王宮の庭園を見ながらゆっくりと歩き始めた。
頭の中には数日前に父と母に言われた言葉がぐるぐると回っていた。それはラリーが久しぶりに屋敷で家族と夕食を取っていた時の話だった。
『ラリー、実はお前に話しておかなければならない話がある。落ち着いて聞いて欲しい。』クリストフ公爵はそう話すとメイドや家令を下がらせた。
思わず母親の方を見たが目を伏せていてその表情は分からなかった。
『お前には実は血を分けた兄弟がいる。』父親がそう話した。
『お前は実は双子だったんだ。そしてお前が先に産まれ、そのあと女児が産まれたんだ。』そう話すと母親が堰を切ったように静かに泣きはじめた。
『お前も知っての通り、今でこそ和らいできたが当時は満月の夜に産まれた双子はこのリーベルでは禍いをもたらすと恐れられていた。』ゆっくりと言葉を惜しむように父親が話す。
『この話は私たち夫婦以外に知っているのはデニーロ騎士団長だけだ。彼の妹が先の戦争の友好の証としてアルファザードの貴族に嫁いだのはお前も知っているだろう?彼はその妹さんに産まれたばかりのお前の妹を預けてくれた。』
そう話すと父親は立ち上がり窓辺に立った。そしてラリーを見つめると、「お前は金髪に青い目だが、お前の妹は金髪に碧眼だ。そして彼女は預けられた家の事情で途中までは男性として育てられた。彼女は『カルス』と名乗っているらしい。私たちにはそこまでしか分からない。カルスは途中から行方しれずになっている。ファースト家も探してはいるらしいが消息は不明だ。」
そこで母親が涙を拭きながら「ラリーお願い。あの子を探して欲しいの。一度でいい、あの子が無事に生きているなら姿が見たいの。そしてちゃんと育ててやれなかった事を謝りたい。」そう叫ぶように話す母親の肩を父が抱いた。
「手がかりは私の実家のハントン家の家紋が刻まれたペンダントよ。そして貴方の左肩に痣があるようにあの子の右肩にも同じ形の痣があるの。」
「お父さん、お母さん。話は分かりました。なるべく探してはみますがあまりにも範囲が広い。・・・・・・少し時間を下さい。」そこで3人の話しが終わった。
「俺の妹か・・・・・・。」ラリーはそう呟くと立ち止まり、側に生えていた木を見上げた。
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