上 下
6 / 6

5、これからどうするべきか?考えてみます。

しおりを挟む

「でも国も当時最高の神聖力を持っていたヤスミンをそんな易々と始末するのは出来なかった。だからヤスミンは国を相手に取引を持ちかけたんだ。自分は第一線から手を引く代わりに大教会を陰から見守ることを。だから彼女は三十八歳という若さで聖女の座を後進に譲った」

「悪いが話せるのはここまでだ」チャールズは食後のデザートをチーズに換えワインのおかわりを頼んだ。もちろんオフィーリアはしっかりデザートを食べている。





「君はどうしたい?このまま新しい生活を始めたいなら協力しよう。資金も新しい戸籍も僕が用意しよう」

「私は・・・・わかりません。でもヤスミン様が私に何かやって欲しい事があるんじゃないかと感じています。なんとなくですが」

先日オフィーリアの体にヤスミン様の神聖力が流れ込んできた時に思念みたいなものが感じ取れたのだ。

「もう今日は遅い。明日にでもヤスミンと直接話してみるかい?自分から彼女に向き合ってごらん。そして君の心が決まったら僕から君にもう一つとっておきの話をしよう」

そう言ってチャールズは優しく微笑んだ。




◇◇◇




「オフィーリアもうすっかり体調はいいのかい?」昼過ぎにオフィーリアの部屋を訪れてヤスミンは開口一番にそう話しかけた。オフィーリアは微笑みながらヤスミンが椅子に掛けるのを手伝っている。


「はい。ヤスミン様のおかげです。ありがとうございました。ヤスミン様が神聖力を分けて下さっていなかったら私はもうこの世にはいなかったと思います。それよりどうして私を助けてくださったのですか?」

「オフィーリア、貴方なら私の神聖力がすでに尽きかけているのを感じ取れますね?・・・・私は生きたい!!と言う貴方の心の底からの願いを感じました。今の貴方はもともと貴方が持っていた力と私が与えた力で史上最強の神聖力になりました。

私は過去には教会や王政には蔑まれ散々利用されてきた聖女です。でも私の信仰は尽きてはいませんし代が変わった今の王政には何の危機感も持っていません。オフィーリア、貴方さえ良ければ一から教会をやり直してみなさい。今の貴方ならできるはず。チャールズも貴方が思っている以上に神聖力を持った男です」


「でも・・・・・そうは言ってもどうしたらいいのですか?」

「とても簡単です。チャールズに言ってもう一つ、小さくていいので教会を建てさせるのです。古い建物を買取り改装してもらってもいいですね。オフィーリア、まず貴方がそこに入り信仰を深めていくのです。すでにわかってると思いますが人に優劣をつけるのは御法度ですよ」

「私が教会を作る?」

「ええそうよ。確かに大変です。今の大教会からも妨害が入るでしょうね。あそこの神官たちは汚れ切っていますしそれに加担し自分たちの有利に国を動かそうとする貴族も多いでしょう。でも貴方ならできるわ。今の貴方なら。どうです?やってみませんか?」


その時オフィーリアは頭に一つ考えが浮かんだ。うん、これをチャールズ様に相談してみよう。




次の日オフィーリアはチャールズに面会を求めた。聞けば夜なら時間を取れると言う返事だった。「一緒に食事しながら話さないか?」と言う事らしい。そしてオフィーリアはチャルーズが帰ってくるまでに時間があるので自室で本を読んでいるとノックと共に三人のメイドが入って来た。

「オフィーリア様、お着替えの時間です」一番年長と見受けられるメイドが手にドレスを持っている。まさか?あれを着るの?

「あ、あの・・・・私、普通の服でいいですよ?皆さんが来ているような服で・・・・」

「チャールズ様からの指示です。オフィーリア様を着飾らせるようにと。きちんと着飾って頂かないと私たちが怒られてしまいます」と悲しそうに言った。

「・・・・わかりました。でも私ドレスなんて着たことがなくてどんな粗相をしてしまうか・・・・」

「その辺は大丈夫ですよ。私たちが簡単なマナーをお教えします。ドレスもお靴も動きやすいものをご用意していますからね」

笑ってオフィーリアにそう話すとメイドたちはテキパキと準備を始めた。生まれて初めての化粧にドレスに香水。アクセサリーも上品で控えめなデザインが選ばれていた。教会で働いていた時に貴族の令嬢たちが週末に着飾って出ていくのを見ていたが、その時の彼女たちより遥かにセンスがいいものが揃えられていた。


「いい香り~~」オフィーリアは付けてもらった香水の香りを胸いっぱいに吸い込むと幸せな気分になった。なんだか花のようなふわふわする香りね。

「気に入っていただけましたか?これはチャールズ様の会社が扱われている新商品です。本日お召しの商品は全てチャールズ様の会社の商品ばかりですのでオフィーリア様が気に入ったものがあればお渡しするよう申しつかっております。この香水も後でお包みしますね」と言い慣れた手つきでオフィーリアの髪を梳かし始めた。

髪を梳かしながら説明してくれているメイドは「カリン」と言い、家には小さな娘さんがいるのだそう。カリンは「少し髪を切らせてもらってもいいですか?毛先を揃えてしまいますね」と話しオフィーリアが頷くとハサミを取り出し器用に髪を切りそろえた。

髪を切り終えたらそのまま整髪料を揉み込み綺麗に髪を編み込み始めた。サイドは編み上げ後ろ髪はそのまま流した髪型だ。

「とっても綺麗な髪質ですね。触っていても気持ちがいいです」と話すと仕上げに花々をモチーフにした髪飾りをつけた。

まるで朝焼けを思わせるような美しい青紫の色彩のドレス。新しい髪色にとっても映える。ドロップの形の翡翠の耳飾りがいいアクセントになっている。

「仕上げはチャールズ様にお願いしますね」カリンはそう話すといつの間にかオフィーリアの側にチャールズが立っていた。

「とても美しいですよオフィーリア。今日の記念にこちらをプレゼントします」そう話すとポケットから耳飾りと同じ翡翠のペンダントを取り出した。こちらは石を囲むフレームがとても豪華だった。中央の石だってかなりの大きさだ。

「こっ、こんな高価な品は受け取れません」と言って辞退しようとしたが「ではこれをヤスミンが身につけると思うかい?」と笑うと尻込みしていたオフィーリアにさっさと付けてしまった。

「さぁ、晩餐の始まりだ。オフィーリアお手をどうぞ」と言ってエスコートしようとした。オフィーリアは慣れないエスコートに躊躇したが気持ちを決めるとそっと彼の手に自分の手を乗せた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...