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4、新しい生活2
しおりを挟む悪い夢を見ていたの。もうずーっと。ずーっとよ。
あんな悲しい気持ちになるぐらいなら眠りたくない、ずっと死ぬまで起きていたいって思うほど。
私は利用されるのはもう嫌なの、たくさんなの。聖女になんてなりたくない。
誰か助けて!!お願い、生きるのも辛いけどこのまま何も出来ずに死ぬのも嫌なの・・・・・神様!!
身体中が痛い。ここはどこ?真っ暗闇だわ。どうして目が見えないの?
「まぁ意識が戻ってきているのねオフィーリア。辛かったわね。貴方は本当によく頑張ってたわ。もう大丈夫よ?辛いことはこれでおしまい。私が最後の魔法をかけてあげるね。しっかり受け取るのよ?3、2、1はい!!」
パチン!とどこからか音がした。染み渡るようにゆっくりと身体中に神聖力がみなぎる。温かい。お母さんのお腹の中ってこんな感じだったのかしら?
オフィーリアが目を覚ますとそこは教会ではなくどこかのお屋敷だった。ベッドの中から見る限り今使っているベッドも肌に触れている寝具も価値はわからないがかなりの上物という事だけはわかる。
オフィーリアは体に違和感を感じた。ずいぶん重たい。一体ここはどこなんだろう?
「気がつきました?オフィーリア様」と声がした。ベッドの側に一人の老婆の姿があった。彼女の腰は曲がり目もほとんど見えてないようだ。でもその体から絶えず発するオーラはこの老婆がただものではないと語っていた。
「あの、貴方様は?」と尋ねてみるが老婆はニコッと笑うと優しくオフィーリアの手を握り「もう体は大丈夫ですね?今から説明する権利を持っているものがやってきます。それまでもう少しおやすみなさい。力が馴染むまであと少しかかるでしょうから」老婆はゆっくりしゃべると立ち上がり、カタンッ、カタンと杖をつきながら部屋から出ていった。
それからメイドらしい女性がやってきてオフィーリアに湯を使わせ着替えさせたり、食事をさせたりと時間が過ぎていった。まだあまり頭の中がもやが掛かったみたいでスッキリしない。そしてその日の夕方オフィーリアの前にある人物がやってきた。
「オフィーリア、もうすっかり体はいいのかい?大聖女の神聖力の味はどうだった?」ノックの後から入ってきた男性は若い男だった。
その男は真っ黒な癖のある髪を後ろに撫で付け、体格がいい、かなりの大男だった。またその男性はこの辺ではあまり見られない皮膚の色は浅黒く目鼻立ちがはっきりしたエキゾチックな顔立ちだった。がっしりした体格なのでベッド近くまで来られると少し恐怖感がある。
きっちりと着込んだ服装は上位貴族さながらだった。それよりこの方見た事がある。でもこんな立派な方一度見たなら忘れられないはず。あれはどこだったか?
「思い出そうと頑張ってるね?僕はチャールズ・ハリストン。表向きは神殿のお目付け役と言った立場かな?もちろんちゃんとした所属はあるけど今は伏せさせてもらうよ。それより僕がここに来るまでに鏡で自分の姿を見たかい?」
「いえ、まだ全然見ていません。そんな余裕なんてありませんでしたから」
「では僕と一緒に見てみよう。さぁオフィーリアお手をどうぞ」とチャールズが手を差し出してくる。オフィーリアは恐る恐る手を乗せるとチャールズはゆっくりとベッドから立ち上がらせ洗面所に連れて行ってくれた。
洗面所のドアを開けるとそこにはチャールズと桃色の髪をした見知らぬ少女が立っていた。
もともとオフィーリアの瞳はブラウンだったがこの少女は深い青だった。「あっ、すいません利用中でした?。今すぐ出ますね?」と言って洗面所から離れようとしたがチャールズが引き止めた。
「ははっ、よく見てごらん?この鏡に映る少女はオフィーリア、新しい君の姿だよ。気に入ったかい?気に入らなかったら君をこの姿にした人物をこれから連れてくるよ。彼女に文句を言うといい」と言って鏡越しにオフィーリアを見つめた。
・・・・髪が。髪がある。それも桃色の髪が・・・・・何これ?
その時チャールズがオフィーリアの背中で紐を解き髪を優しく顔の方へ流した。
パラッ。髪はちょうど胸元まであるようだ。思わず胸元の髪に触れてみる。久しぶりの手触りに少し心が弾んだ。
「君も喉が乾いただろう?ここにくる前にメイドにお茶の用意を運んでくるよう頼んでおいたから、まずはお茶でも飲まないか?」
部屋の中央のテーブルにはすでにお茶の用意がしてあった。チャールズは慣れた手つきでお茶を入れると「どうぞ」とオフィーリアに差し出した。テーブルの上には手で簡単につまめるような軽食や焼き菓子もあった。
オフィーリアはお茶の香りを嗅ぎそっと口をつけた。「とても美味しいです。チャールズ様」
「そう?久しぶりに入れたんでちょっと心配だったんだ。どれどれ僕も飲んでみよう」そう言って口をつけると「本当だ美味しいね」とにっこり笑った。落ち着いた頃合いでチャールズが話し始めた。
「君をここへ運ぶのはちょっと大変だったよ?君が起きた時に一人の老婆を見なかったかい?もともと彼女も君と同じ聖女だったんだ。それも「大聖女」と呼ばれるほどの。彼女は自分が教会のトップで聖女として国を守っていた時に比べるとあまりにも今の聖女たちの力が落ちてしまっている事を危惧していてね。ずっと影から教会の聖女たちの力を見守っていた。教皇の間でね」
「えっ、でも確かあそこは何も無かったし誰もいなかったのでは?」
「うん表向きはね」
「彼女や君ぐらいになると他人の神聖力が測れるようになる。オフィーリア、君も心当たりあるだろ?」
確かにそうだった。友人のマリーの神聖力がぐんぐん伸びて行っているのを実際に自分の目で見て来たんだから・・・・・
「教皇の間にいた大聖女が瞬時に君のピンチを感じ取った。ちょうどその時に僕の部下が教会で大聖女と面会していてね。あぁ、君を救った大聖女の名前はヤスミンと言うんだ。ヤスミンは神聖力でこんな物も作っていてね?見てごらん?」そう言って襟元のブローチを外しコトッとオフィーリアの目の前に置いた。
オフィーリアはそのブローチを手に取ると『ビリビリ』と指先から何かが伝わってきた。さっきオフィーリアの中に入ってきた力の波動と一緒だ。
「これはかなりの純度の神聖力ですね。まさか神聖力にこんな使い方が出来るなんて・・・・」
「このブローチを身につけていると数分ぐらいなら思考をやり取りする事ができるんだ。僕は部下の連絡を受けて教会に一目散に駆けつけたがすでに君は虫の息だった。教会にいたヤスミンが瞬時にオリベルト親子と神官長を強制的に眠らせた。目が覚めて君の姿がなかったから彼らはきっと大慌てだっただろうね」
いい体格しているのにカップを持つ手つきは優雅で思わず見入ってしまう。
「私に力を与えてくれたのはヤスミン様・・・・ですよね?」
「あぁそうだ。ヤスミンは自分の力の最後の使い道をずっと探し続けていた。自分の後継の大聖女では彼女のお眼鏡にはかなわなかったらしい。自分が就任中は歴代最強と呼び声が高かったほどの彼女だ。自分より劣る人材に力を賜与するのはプライドが許さなかったって所じゃないのかな?」チャールズはそう言うとお茶を飲んだ。
「君のその姿はヤスミンの最盛期の姿そのものだ。教会には映し絵ぐらいはあるんじゃないかな?それもかなり精度が悪いし教会の映し絵のヤスミンの髪の色は黒い。彼女は髪の色を染め続けて王宮や教会の目を欺き続けていたからね」
「そしてヤスミンは今の王政にはどちらかと言えば反対派だったんだ。だから表向きは早くに始末された」
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