恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第21話 絡まる気持ち

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 月曜の朝。
 重い足取りで会社に向かう。

 週末のことが頭から離れない。

 沢村さんの温もり、あの瞬間、止まった唇。

 ***

 オフィスに着くと、いつも通りの光景が広がっていた。

 デスクに向かう途中、沢村さんと目が合った。

「おはよう、春日さん」

 いつもより柔らかい声。
 でも表情は何事もなかったかのように穏やかだ。

「お、おはようございます」

 声が少し上ずってしまった。
 ダメだ。仕事に集中しないと。
 私は席について気合を入れた。

 その時、視界の先に早川さんが見えた。
 他の社員と話して、少し笑顔が見える。
 それだけで、胸がキュッと締め付けられる。

 どうして私の心はこんなに複雑になってしまったんだ。
 でも、いくら過去のせいにしても、今ここに立っているのは自分の足だ。
 自分で全部選んでここにいる。

 もう元彼との一件は過去として切り離して、私は自分の人生を歩まないと。
 そう心に誓って仕事に取り組んだ。

 ***

 昼休み。

 空を見たくなってまた屋上に来た。
 期待を胸に……。

 そっと扉を開けると……早川さんがいた。
 またタバコを吸いながら、空を見上げている。
 私が今頑張れているのは、この瞬間があるからかもしれない。

 その時、突然早川さんが振り返った。

「お疲れ」
「お、お疲れ様です!びっくりしました……」
「なんとなく来る予感がした」

 少し微笑んだ早川さんに、自分の頬が緩む。

 でも、そこから会話が続かない……。
 沈黙が流れる。
 何か話さないと。

「早川さん海好きですか?」
「海?」

 早川さんが少し興味を示した。

「早川さん、水族館好きなので、海も好きですかね」
「うん。あまり行かないけど、好きかな」
「この前久しぶりに海に行ってきたんです」
「そうか。誰と行ったの?」
「沢村さんと…」

 私はその瞬間、考えるより先に口が動いてしまった。
 言ってから、しまったと思った。
 早川さんの表情が一瞬固まった。

「……そうか」

 いつもと変わらない声のトーン。
 最悪だ……。

「……実はその日偶然沢村さんに会って、一緒に行ったんです」

 早川さんは深く煙を吐き出した。

「よかったな」

 声は変わらないはずなのに棘のように痛い。

「俺もう行くわ」

 早川さんは短くそう言って、吸いかけのタバコを消した。

「あ、はい…」

 早川さんは屋上を出て行った。

 一人残された私は、余計なことを言ったことに激しく後悔して、立ち尽くしていた。

 どんどん複雑に絡まっていくばかりだった。

 ***

 その日の帰り、部署の飲み会があって、私も参加した。
 そこには、沢村さんも早川さんもいた。
 沢村さんは、部署の人たちをそれぞれ気に掛けながら会話をしている。

 早川さんがいたのが意外だった。
 一人でバーで飲んでいるイメージがあるからだ。
 ただ、特に誰と話しているわけでもなく、一人で黙々とお酒を飲んでいる。

 私は早川さんを気に掛けつつも、他の社員の人と会話していたりしているうちに──早川さんが潰れていた。
 色んな社員に担がれて外に出されたけど、その後は周りの制止も聞かず一人で駅に向かって行ってしまった。

 皆は二次会に行ってしまう。
 あの人を放置して。
 私は急いで早川さんの方に行った。

「早川さん無理しないでください!」
「大丈夫だからほっといて」

 そんなこと言われても……。

「ほっとけるわけないじゃないですか!」
「沢村さんと仲がいいなら、もうそれでいいじゃないか」
「え……?」

 早川さんの目は虚ろだ。

「俺は君に何もしてあげられない」

 そのままヨロヨロと早川さんは歩いていく。

 私は別にこの人に何かしてほしいわけじゃない。
 ただこうやって一緒に歩いているだけで……ただ一緒に屋上にいるだけで、いいんだ。
 よろめく早川さんに肩を貸した。

「やめろ。見たやつに誤解される」
「私は平気です。早川さんが嫌ならやめます」

 早川さんは何も言わなかった。

 今やましい気持ちはない。
 彼女さんがいるから変に近づいてはいけないのはわかってる。
 でも、放っておけないんだ。
 この人を。

 理屈じゃないんだ。
 心がそう動いてしまうんだ。

 早川さんを支えながら、私たちはそのまま歩いた。
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