恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第29話 新しい仕事

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 あれから私は心機一転新しい仕事に就いた。
 新しい派遣先はブライダルプロデュース会社。
 初日、私は緊張しながらオフィスの扉を開けた。

「春日さんですね。ようこそ!」

 明るい声で迎えてくれたのは、コーディネーターの桜井さんだった。

「よろしくお願いします」
「最初は雑務が中心になるけど、結婚式の現場にも立ち会ってもらうから、宜しくね!」

 人の幸せを祝福する仕事。
 別れさせ屋とは真逆の世界。
 でも、だからこそ私はここを選んだ。
 私自身を変えるために。

 ***

 最初の数ヶ月は本当に雑務ばかりだった。
 資料のコピー、会場の備品チェック、引き出物の在庫管理。
 地味な作業の繰り返し。
 でも、その合間に見える新郎新婦の笑顔が、少しずつ私の心を温めていった。

「春日さん、この装花の配置、どう思う?」

 桜井さんが意見を求めてくれるようになったのは、三ヶ月が過ぎた頃だった。

「白とピンクのグラデーションが優しい印象で素敵だと思います。でも、もう少しグリーンを入れるのはどうでしょう」
「いいね!センスあるじゃない」

 認められていく実感。
 それが嬉しかった。
 半年が過ぎる頃には、新郎新婦との打ち合わせにも同席するようになった。

「お二人の出会いのエピソード、素敵ですね」

 笑顔で話を聞く私。
 でも、心のどこかでまだ痛みが残っていた。

 過去の傷──

 それでも、目の前のカップルの幸せそうな顔を見ていると、少しずつ癒されていく自分がいた。

 ***

 この仕事に就いてから一年が経った。

「春日さん、次の土曜日の挙式、メインアシスタントお願いできる?」

 桜井さんからの言葉に驚いた。

「本当ですか!?」
「今の春日さんなら大丈夫だよ」

 メインアシスタント。
 新郎新婦に寄り添い、式の進行をサポートする重要な役割。
 やっとここまで来れた。

 ***

 当日の朝、私は会場に早めに入って最終チェックをしていた。
 チャペルの装花、披露宴会場のテーブルセッティング、引き出物の配置。
 全てが完璧だ。

「春日さん、新郎新婦が到着したわ」

 控室に向かうと、緊張した面持ちの二人がいた。

「おはようございます。今日は最高の一日にしましょうね」

 私の笑顔に、新婦が少し表情を和らげた。

 ***

 挙式が始まる。
 バージンロードを歩く新婦。
 待つ新郎の目に涙が浮かぶ。

 誓いの言葉。
 指輪の交換。

 そして──

「誓いのキスを」

 会場に拍手が響く。
 その瞬間、私の目にも涙が滲んだ。

 人を愛すること。
 信じること。
 それがこんなにも美しいものだと、やっと心から思えた。

 ***

 披露宴が始まり、私は忙しく動き回っていた。
 料理の配膳タイミングの確認、スピーチのマイクチェック、写真撮影の誘導。

「春日さん、次のテーブルスピーチ、新郎側の友人代表の方です」

 スタッフからの連絡に頷く。
 会場の照明が落ち、スポットライトが一つのテーブルを照らした。
 立ち上がる男性の姿。

 その瞬間、私の鼓動が止まった気がした。

 ──沢村さん。
 スーツ姿の彼が、マイクを持って立っている。

「新郎の大学時代からの友人、沢村と申します」

 会場に響く声。
 聞き慣れた、優しい声。

「彼とは学生時代からの付き合いで……」

 スピーチが続く中、私は動けなくなっていた。
 沢村さんの視線が、ふと会場を見渡した瞬間──

 目が合った。
 彼の言葉が一瞬止まる。
 でもすぐに、何事もなかったかのようにスピーチを続けた。

「……お二人の末永いお幸せを、心よりお祈り申し上げます」

 拍手が起こる。
 沢村さんが席に戻る。
 私はその場から逃げるように、スタッフルームに向かった。
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