取引先のエリート社員は憧れの小説家だった

七転び八起き

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第6話 引越し

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 橘さんに催促されてから引っ越し準備にすぐに取り掛かり、週末に引っ越すことになった。
 橘さんにそれを言うと「急かしてごめん。でも嬉しい」と心待ちにしていた。

 ──橘さんのマンションへの引っ越し当日

 朝から引っ越し業者が来て搬出作業が始まった。
 積み込んだ荷物が橘さんのマンションまで運ばれていく。

 元カレの陽介ともこれで完全に終わった。
 過去を捨てて、橘さんのマンションで新しい生活が始まる。

 しばらくすると、橘さんが車でこちらに迎えに来た。

「やっと神谷さんと同じ場所で暮らせる」

 とても嬉しそうだった。

「はい……あまり実感が湧かないです」

 突然現れた、謎の紳士にさらわれたような。

 程なくして橘さんのマンションに着いた。
 そのまま手を引かれてマンションの七階に。

 引っ越し業者が来て、今度は荷物がどんどん搬入されてゆく。
 部屋は段ボールでいっぱいに。

 とりあえず少しずつ開梱していくか。

「橘さん、付き添って頂きありがとうございます。あとは自分でやりますので」

 ・・・。

 橘さんは帰ってくれない。

「ごめんちょっと気持ちが……」
「どうしたんですか?」

 気持ちが悪くなってしまったのかな?

「神谷さんがいて、そこに神谷さんのベッドがあって……そしたら、なんだか興奮してきて」
「え、興奮!?」

 橘さんにそっとベッドに寝かされた。

「ごめん、もう耐えられない」
「橘さん、私とそういう事するためにここに住まわせたんですか?」
「違う!でも神谷さんを見ていると、気持ちがコントロールできなくなる……」

 困った。

「でも俺は君を大切に思っている」

 橘さんは真剣な目で私をみる。

「じゃあこういう事やめましょう?」
「……」

 橘さんは考えている、何かを。

「運命で出会った二人が、ただお互いを求め合うのはダメなのか……?」
「運命ってなんですか?」
「それは……いつか話すよ。まず、ありのままの俺を見て、感じて欲しい」

 橘さんの温かいぬくもりが私を包む。

「神谷さんの事をもっと知りたい」

 橘さんの切実な思いが胸に響いてしまって、私は身を委ねてしまった──

 その後の事はよく覚えていない。
 気づいたら、夕方になっていた。
 横たわる私を、そっと橘さんが包んだ。

「ごめん、やめられなくて。でも俺にとって君は特別なんだ」

 特別ってなんなんだろう。

「橘さん。私、あなたの言葉や行動がよくわからなくて、ついていけるかわかりません……」

 橘さんは何も言わなくなった。
 顔を見たら、困ったような表情をしていた。

「ごめん。俺、不器用で」

 橘さんは私の手をぎゅっと握ってきた。

「神谷さんとちゃんと向き合いたいと思ってる」

 橘さんは立ち上がって、服を着替えた後、行ってしまった。

 運命っていうのが何かよくわからないけど、橘さんの気持ちが、遊びや冗談ではない事はわかった。

 私はその後開梱作業をして部屋を片付けた。


 ──夜

 インターホンが鳴った。
 モニターには、着替えた橘さんが立っていた。
 私は玄関を開けた。

「どうしましたか?」
「引越し祝いがしたくて。ご飯食べに行こう。」

 ちょうどお腹が空いていた。

「わかりました。私も準備します」

 少し綺麗めの格好をして、アクセサリーをして、メイクもちゃんとした。

「お待たせしました!」

 橘さんの車に乗って着いた先に、高級な寿司屋があった。
 一見さんお断りな雰囲気の店だった。
 橘さんは店主と仲良さそうに話してて、別の世界の人なんだなーと改めて感じた。

 その後、美味しいお寿司をたくさん食べて、とても満足した。

「橘さん、今日はありがとうございます!とても美味しかったです!」

 橘さんは優しく微笑んだ。

「またいつでも連れてきてあげる」

 大人の男の余裕だな……。
 何歳くらいなんだろう。
 聞くのも失礼だから想像に留めておくことにした。

 車に乗って帰るのかと思ったら、途中でおしゃれなケーキ屋に連れて行かれた。

「どれでも頼んでいいよ」
「え……いいんですか?」

 私はショーケースに並んだケーキをじっくりと見て選んだ。

「これを一つ」
「わかった。これをホールで買おう」
「え!?」

 橘さんはホールでそのケーキを買ってしまった。

「私そんなに食べられないですよ!」
「俺も食べるから大丈夫」

 その後、マンションに帰って、最上階の角部屋、橘さんの部屋に行った。

 玄関を開けたら──

「ここ何人で住むんですか……?」

 たくさん部屋があった。

 その時、半分だけドアが空いてある部屋があった。
 ふとそこを覗いてみた。
 立派な書斎と、本棚に沢山の本、床に散らばった紙。
 原稿用紙?

 その時思い切りドアを閉められた。

「見るな!」

 突然の荒げた声に驚いた。

「ご、ごめんなさい。つい……」

 少ししたら橘さんは冷静な表情に戻った。

「いや、驚かせてごめん。ケーキを食べよう」

 広いリビングのダイニングテーブルで二人でケーキを食べた。

 ──あの部屋はなんなんだろう。

 気になってしまう。

 二人である程度ケーキを食べた後、お礼に私は紅茶を淹れ、それを二人で飲んでゆったりしていた。

「神谷さん。こっちに来て」

 橘さんはバルコニーに行った。
 私もバルコニーに付いて行ったら、この街を一望できるような夜景が広がっていた。

「毎日こんな景色が見られるなんて素敵ですね」

 セレブな生活だ。

「神谷さん」
「はい」
「引っ越してきてくれてありがとう」
「こちらこそ、こんな素敵な場所を紹介して下さって、ありがとうございます」
「嬉しい」

 橘さんにぎゅっと抱きしめられた。

 なぜか私は、この人の強引な行動も含めて惹かれているのだと、この時感じた。
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