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第三章 決意
第35話
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私はまた、あの教室にいた。
先生と過ごした教室。
そして、先生の授業を見ていた。
先生は、とても去年まで大学生だとは思えないくらい余裕がある。
先生は私みたいに、小さなことで動揺したりしない。
でも、一年目は大変だったのかな。
もし、あの頃の先生に今出会えたら……色々聞きたいな。
「水島」
「はい!」
先生が横にいた。
「具合悪いか?」
少し心配そうな先生の表情。
「いえ……。あなたのことをもっと知りたくなったんです」
いつの間にか周りの生徒がいなくなって、私と先生だけになった。
「お前が追いついたら教えてやるよ」
その時の先生の表情は、今とは違ってとても鋭かった。
──その時目が覚めた。
もう朝だった。
私はすぐに準備を始めた。
受かったら、もっとあの時の先生に近づけるのかな。
いや、教員にならないとわからないかな。
首に先生からもらったネックレスをつけた。
着替えて鏡を見て、気を引き締めた。
絶対受かる!
* * *
家を出ると、夏の暑さが容赦なく襲ってきた。
試験会場には、同じように緊張した表情の受験生がたくさんいた。
指定された席に着いて、深呼吸。
「それでは、試験を開始します」
ペンを書く音、ページを捲る音だけが響く。
時間があっという間に過ぎていく。
できた問題もあれば、悩んだ問題もあった。
「終了です」
──でも、やれるだけの事はやった。
やっと終わった……。
全身から力が抜けて、会場を出ると疲労感でふらふらだった。
その時——
「お疲れ」
先生が迎えに来てくれていた。
「先生!」
思いがけず先生に会えて、急に涙が出そうになった。
「どうだった?」
「手応えは……微妙です。でも、精一杯やりました。」
「そうか」
いつもと変わらない反応。
「受かるといいな」
先生の呟いた一言に救われる。
* * *
車の中で、私はぼんやりと窓の外を見ていた。
「そういえば……夢を見たんです」
「夢?」
「先生の授業を受けてる夢でした。あの教室で……」
先生が少し考えるような表情をした。
「……行ってみるか」
「え?」
「あの教室。」
気がつくと、車は学校の方向に向かっていた。
* * *
実習以来の教室。
もうここに来る事はないと思っていた。
「今日は教壇に立ってみろ」
「え?」
「せっかくだから」
言われるまま、私は教壇に立った。
生徒席を見渡すと、夏雄先生が少し遠くの窓際の席に座っていた。
「私、ちょっと教員らしく見えますか?」
先生は少し笑んだ。
「まだまだだな」
厳しいお言葉。
だってまだ私大学生だし……。
「先生。私一応、三週間教育実習してきたんですけど」
「お前が教壇に立つの、あの時見てない」
予定が合わなかったのかな。
先生に見られるのは緊張する。
その時、先生が席を立ってゆっくりと教壇に近づいてきた。
「先生……?」
先生の瞳は──またあの、私を追い詰める視線に。
「先生、質問があります」
悪戯っぽい笑みを浮かべる先生。
「は、はい……なんでしょう?」
「先生って、彼氏いるんですか?」
──は?
「そ、それは授業と関係ないです!」
先生がくすくすと笑う。
「先生、今度二人きりで勉強教えてくれませんか?」
何の意図があってこんなことを言ってくるんだこの人は。
「先生、揶揄わないでください……」
でも先生の表情が、だんだん真剣になってきた。
「先生……僕のこと、好きになってくれませんか?」
「えーと……」
何この状況。
そして急に黙り込む先生。
「どうしたんですか……?」
先生はじっと私を見つめる。
その目には、さっきまでの遊び心はもうなかった。
「……これ、本当にあったらどうする?」
「え?」
「お前、ちゃんと断れるか?毅然とした態度を取れるか?」
「取れます…実習の時は、ちゃんと…言ったような」
「あれじゃダメだ」
先生が目の前に来た。
「曖昧な態度をすると、余計にややこしくなる。そしたら勘違いして、もっとエスカレートする」
先生の表情が曇ってくる。
「毎日こんな風に教壇に立って……男子がお前を見るのか」
「先生……?」
「俺と同じ目で見る奴もいるだろう」
先生の目が、どんどん暗くなっていく。
「触りたいと思う奴も……」
さすがにそれは考え過ぎなような。
「そこまで思う子はいないんではないでしょうか?」
先生の眉間に皺が寄る。
「やっぱり受からない方がいい」
「え!?な、何言ってるんですか?!」
「お前には無理だ」
涙が出そうになった。
「私の何が無理なんですか?」
「……俺が、無理なんだ」
え?
「つまり……先生の都合ってことですか?」
「……そうだ」
「先生、そんな……私真面目に受かろうとしてるんですけど」
「分かってる。でも本音だ」
そんな事を言い出す先生を、なんだか可愛いと思ってしまった。
「お前は俺のものだから」
「私はモノじゃないですよ!」
またこの追い詰めパターンに陥る。
先生と過ごした教室。
そして、先生の授業を見ていた。
先生は、とても去年まで大学生だとは思えないくらい余裕がある。
先生は私みたいに、小さなことで動揺したりしない。
でも、一年目は大変だったのかな。
もし、あの頃の先生に今出会えたら……色々聞きたいな。
「水島」
「はい!」
先生が横にいた。
「具合悪いか?」
少し心配そうな先生の表情。
「いえ……。あなたのことをもっと知りたくなったんです」
いつの間にか周りの生徒がいなくなって、私と先生だけになった。
「お前が追いついたら教えてやるよ」
その時の先生の表情は、今とは違ってとても鋭かった。
──その時目が覚めた。
もう朝だった。
私はすぐに準備を始めた。
受かったら、もっとあの時の先生に近づけるのかな。
いや、教員にならないとわからないかな。
首に先生からもらったネックレスをつけた。
着替えて鏡を見て、気を引き締めた。
絶対受かる!
* * *
家を出ると、夏の暑さが容赦なく襲ってきた。
試験会場には、同じように緊張した表情の受験生がたくさんいた。
指定された席に着いて、深呼吸。
「それでは、試験を開始します」
ペンを書く音、ページを捲る音だけが響く。
時間があっという間に過ぎていく。
できた問題もあれば、悩んだ問題もあった。
「終了です」
──でも、やれるだけの事はやった。
やっと終わった……。
全身から力が抜けて、会場を出ると疲労感でふらふらだった。
その時——
「お疲れ」
先生が迎えに来てくれていた。
「先生!」
思いがけず先生に会えて、急に涙が出そうになった。
「どうだった?」
「手応えは……微妙です。でも、精一杯やりました。」
「そうか」
いつもと変わらない反応。
「受かるといいな」
先生の呟いた一言に救われる。
* * *
車の中で、私はぼんやりと窓の外を見ていた。
「そういえば……夢を見たんです」
「夢?」
「先生の授業を受けてる夢でした。あの教室で……」
先生が少し考えるような表情をした。
「……行ってみるか」
「え?」
「あの教室。」
気がつくと、車は学校の方向に向かっていた。
* * *
実習以来の教室。
もうここに来る事はないと思っていた。
「今日は教壇に立ってみろ」
「え?」
「せっかくだから」
言われるまま、私は教壇に立った。
生徒席を見渡すと、夏雄先生が少し遠くの窓際の席に座っていた。
「私、ちょっと教員らしく見えますか?」
先生は少し笑んだ。
「まだまだだな」
厳しいお言葉。
だってまだ私大学生だし……。
「先生。私一応、三週間教育実習してきたんですけど」
「お前が教壇に立つの、あの時見てない」
予定が合わなかったのかな。
先生に見られるのは緊張する。
その時、先生が席を立ってゆっくりと教壇に近づいてきた。
「先生……?」
先生の瞳は──またあの、私を追い詰める視線に。
「先生、質問があります」
悪戯っぽい笑みを浮かべる先生。
「は、はい……なんでしょう?」
「先生って、彼氏いるんですか?」
──は?
「そ、それは授業と関係ないです!」
先生がくすくすと笑う。
「先生、今度二人きりで勉強教えてくれませんか?」
何の意図があってこんなことを言ってくるんだこの人は。
「先生、揶揄わないでください……」
でも先生の表情が、だんだん真剣になってきた。
「先生……僕のこと、好きになってくれませんか?」
「えーと……」
何この状況。
そして急に黙り込む先生。
「どうしたんですか……?」
先生はじっと私を見つめる。
その目には、さっきまでの遊び心はもうなかった。
「……これ、本当にあったらどうする?」
「え?」
「お前、ちゃんと断れるか?毅然とした態度を取れるか?」
「取れます…実習の時は、ちゃんと…言ったような」
「あれじゃダメだ」
先生が目の前に来た。
「曖昧な態度をすると、余計にややこしくなる。そしたら勘違いして、もっとエスカレートする」
先生の表情が曇ってくる。
「毎日こんな風に教壇に立って……男子がお前を見るのか」
「先生……?」
「俺と同じ目で見る奴もいるだろう」
先生の目が、どんどん暗くなっていく。
「触りたいと思う奴も……」
さすがにそれは考え過ぎなような。
「そこまで思う子はいないんではないでしょうか?」
先生の眉間に皺が寄る。
「やっぱり受からない方がいい」
「え!?な、何言ってるんですか?!」
「お前には無理だ」
涙が出そうになった。
「私の何が無理なんですか?」
「……俺が、無理なんだ」
え?
「つまり……先生の都合ってことですか?」
「……そうだ」
「先生、そんな……私真面目に受かろうとしてるんですけど」
「分かってる。でも本音だ」
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