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第七章
第72話
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新しい部屋での生活が始まって一週間が経った。
思っていたより、一人の時間が心地よかった。
先生の家から歩いて10分という距離感も、程よい安心感がある。
今日は久しぶりのカフェバイト。
遼君と同じシフトだった。
「白乃さん、新しい部屋どう?」
レジを打ちながら遼君が話しかけてきた。
「いい感じだよ。狭いけど、なんか落ち着く」
「俺も行きたいなー」
彼女が居るのに何言ってるだよこの子は!
そんな他愛もない話をしていると、いつもの常連のお客さんが来た。
50代くらいの女性で、いつも一人で本を読みながらコーヒーを飲んでいる。
とても穏やかな雰囲気で、私たちにもいつも優しく声をかけてくれる。
「こんにちは、いつものブレンドコーヒーですね」
「ありがとう。今日は二人とも元気そうね」
その女性——田中さんは、私たちの様子を見て微笑んだ。
「白乃ちゃんは確か、来年から教師になるのよね?」
「はい、教員採用試験に合格したので!」
田中さんは何か考えるような表情をした。
「教師って、学校だけじゃないのよ」
「え?」
遼君も興味深そうに聞いている。
田中さんは少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
「私、フリースクールで働いているの。学校に行けない子たちや、いろんな事情を抱えた子たちの居場所を作る仕事」
授業でフリースクールについては学んだことがあった。
でも、実際に働いている人に会うのは初めてだった。
「色んな事情って……どんな?」
遼君が身を乗り出すように聞いた。
「家庭に居場所がない子、いじめで学校に行けなくなった子、発達障害で普通の授業についていけない子……本当に様々よ」
その時、遼君の表情が変わった。
「俺みたいな奴も……いるんですか?」
田中さんは遼君をじっと見つめた。
「あなたも、何か大変だったのね」
遼君は少し俯いた。
「家に居場所なくて……変なバイトとかしてました」
私は遼君の横顔を見ていた。
あの時の孤独な遼君を思い出した。
「そういう子たちにも、安心できる場所が必要なのよ。学校に行けていても、心の支えが必要な子はたくさんいる」
教職の授業で学んだフリースクールと、目の前の田中さんが話すリアルな現場は、なんだか全然違って聞こえる。
「よかったら……見学に来てみない?お二人とも」
田中さんが優しく誘ってくれた。
私と遼君は顔を見合わせた。
「行ってみたいです!」
私は思わず答えていた。
遼君も頷いている。
「今度の土曜日、都合はどう?」
「大丈夫です」
田中さんは住所を書いたメモを渡してくれた。
「楽しみにしてるわ」
田中さんが帰った後、遼君と私は少し興奮していた。
「なんか……突然でびっくりしたね」
「うん。俺、凄い気になる」
バイトが終わって、二人で駅まで歩いた。
「白乃さん、夏雄に話す?」
「うん、遼君と一緒ってのは予め言わないと、めんどくさくなりそうな予感がする」
遼君は笑った。
「あいついい歳して本当しんど」
わかってる。
でも、これでも少しマシになったんだ。
嫉妬する先生も、可愛いと思えてしまう私なんだよ。
見学の日を心待ちにしていた。
思っていたより、一人の時間が心地よかった。
先生の家から歩いて10分という距離感も、程よい安心感がある。
今日は久しぶりのカフェバイト。
遼君と同じシフトだった。
「白乃さん、新しい部屋どう?」
レジを打ちながら遼君が話しかけてきた。
「いい感じだよ。狭いけど、なんか落ち着く」
「俺も行きたいなー」
彼女が居るのに何言ってるだよこの子は!
そんな他愛もない話をしていると、いつもの常連のお客さんが来た。
50代くらいの女性で、いつも一人で本を読みながらコーヒーを飲んでいる。
とても穏やかな雰囲気で、私たちにもいつも優しく声をかけてくれる。
「こんにちは、いつものブレンドコーヒーですね」
「ありがとう。今日は二人とも元気そうね」
その女性——田中さんは、私たちの様子を見て微笑んだ。
「白乃ちゃんは確か、来年から教師になるのよね?」
「はい、教員採用試験に合格したので!」
田中さんは何か考えるような表情をした。
「教師って、学校だけじゃないのよ」
「え?」
遼君も興味深そうに聞いている。
田中さんは少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
「私、フリースクールで働いているの。学校に行けない子たちや、いろんな事情を抱えた子たちの居場所を作る仕事」
授業でフリースクールについては学んだことがあった。
でも、実際に働いている人に会うのは初めてだった。
「色んな事情って……どんな?」
遼君が身を乗り出すように聞いた。
「家庭に居場所がない子、いじめで学校に行けなくなった子、発達障害で普通の授業についていけない子……本当に様々よ」
その時、遼君の表情が変わった。
「俺みたいな奴も……いるんですか?」
田中さんは遼君をじっと見つめた。
「あなたも、何か大変だったのね」
遼君は少し俯いた。
「家に居場所なくて……変なバイトとかしてました」
私は遼君の横顔を見ていた。
あの時の孤独な遼君を思い出した。
「そういう子たちにも、安心できる場所が必要なのよ。学校に行けていても、心の支えが必要な子はたくさんいる」
教職の授業で学んだフリースクールと、目の前の田中さんが話すリアルな現場は、なんだか全然違って聞こえる。
「よかったら……見学に来てみない?お二人とも」
田中さんが優しく誘ってくれた。
私と遼君は顔を見合わせた。
「行ってみたいです!」
私は思わず答えていた。
遼君も頷いている。
「今度の土曜日、都合はどう?」
「大丈夫です」
田中さんは住所を書いたメモを渡してくれた。
「楽しみにしてるわ」
田中さんが帰った後、遼君と私は少し興奮していた。
「なんか……突然でびっくりしたね」
「うん。俺、凄い気になる」
バイトが終わって、二人で駅まで歩いた。
「白乃さん、夏雄に話す?」
「うん、遼君と一緒ってのは予め言わないと、めんどくさくなりそうな予感がする」
遼君は笑った。
「あいついい歳して本当しんど」
わかってる。
でも、これでも少しマシになったんだ。
嫉妬する先生も、可愛いと思えてしまう私なんだよ。
見学の日を心待ちにしていた。
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