夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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新しい音

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 ──数日後
 放課後の音楽室。
 その日は唯川とのピアノのレッスンの日だった。
 でも唯川に急用ができて、キャンセルになった。

『ごめん』
 スマホに浮かぶ文字。

 一週間に一回だけ、レッスンの間だけ、二人の時間がある。
 次はまた一週間後……。

 唯川が音大を目指しているのは聞いていた。
 そのためには、必死でピアノをやらないといけないらしい。

 俺とのレッスン、唯川の邪魔になってるんじゃないか?
 唯川へメッセージを打とうとした時、青柳さんから連絡が来た。

『いぶきくん、今から会える?』

 それは、停滞していた自分の心を動かすような響きだった。

『はい、大丈夫です』

 そう返信して、荷物をまとめ、音楽室を出た。

 ***

 待ち合わせの駅。
 着いたら、駅前のロータリー近くのベンチで青柳さんが手を上げた。

「突然ごめんね~」
「いえ、俺もちょうど時間あったんで」

 青柳さんは、唯川みたいな正統派の整い方とは違う。
 どこか危うく、自由な空気をまとっていた。
 ロックバンドのフロントマンみたいな男の人だった。

「ギター、早く教えたくてさ」
「え、なんでですか?」
「最近、大学のバンドが止まっちゃって。誰かと音出したくなってさ」

 青柳さんの声が、少しだけ寂しそうに響いた。

 俺も唯川と予定が合わない。
 でも音楽はやりたい。
 これは、いい機会かもしれない。

「じゃあ教えてください!」

 そう言うと、青柳さんが笑った。

「あー、いぶきくんのそういう真っすぐなとこ、すごい浄化される」

 浄化……?
 意味はわからなかったけど、少し照れた。
 そのまま青柳さんの家に向かった。

 ***

 駅から十五分ほど歩いた先にある、青い塗装のアパート。
 二階建ての角部屋だった。

「どうぞー」

 通された部屋には、ロックバンドのポスターが壁一面に貼られていた。
 壁にはギターが二本が立てかけられていた。
 一本はアコースティックギター、もう一本はエレキギター。

「そこ、適当に座って」

 床に座ると、青柳さんがギターを手に取った。

「たまに弾きたくなるんだよね、アコギ」

 弦を弾く音が、空気を震わせた。
 それは今流行っているJ-POPの曲。
 弦だけでメロディと伴奏を同時に奏でていた。
 片手で主音、もう片方で和音を操る。
 指先が、光を切るように速くて美しかった。

 演奏が終わると、赤いピックが小さく跳ねた。

「どう?」
「す、すごいです……!」
「ありがとう」

 柔らかな笑顔。
 その目元に、どこか寂しさが混ざって見えた。

 この人も、何か抱えてるのか……。
 そんなことを思った。

「じゃあ、いぶきくんも弾いてみようか」
「はい」

 渡されたギターは思っていたより軽く、けれど手の中でずっしりと音の気配を持っていた。
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